75.王達が来た。
なんで、獣人国の王エスマルイートが俺の隣でワインを飲んでいるんだ?
テフォルテから、獣人国の悪人討伐完了祝いだとは聞いた。
でもまさか、獣人国のトップが来るとは思わないだろう。
「今回の事で、色々学びました。あいつらを捕まえる事が出来て、本当に良かった。協力、ありがとうございます」
「俺は何もしてないよ。全てバッチュの功績だから」
エスマルイートの様子を窺うが、いったい何があったんだ?
解決して喜んでいるようには見えない。
どちらかといえば、落ち込んでいるように見える。
捕まえた獣人達の中に、信頼していた者でもいたのか?
悪い奴と言うのは、本性を隠して味方の振りをしたりするからな。
……励ますべきか?
でも、本当に裏切られたとは限らないし、どうするべきか。
「森の神」
「はい?」
「我が国が落ち着いたら、遊びに来てください。皆、喜びます」
皆が喜ぶ?
それって、獣人国の王と俺が仲良くしているのを獣人達に見せたいのか?
……よくわからないけど、まぁ大丈夫だろう。
「そうだな。落ち着いたら遊びに行こうかな」
エスマルイートが、嬉しそうに笑みを見せる。
少しでも気分が上昇するといいが。
「お父様。ここのお酒は美味しいですね。飲んでいますか?」
女性の声に視線を向けると、エスマルイートに長女だと紹介されたエリトティールがいた。
父親譲りのきりっとした美しい獣人だ。
あと1人、えっと次男のエストカルトは何処だ?
あっ、いた。
親アリ達と飲んでいるのか。
あれ?
顔色が悪いような気がするな。
「リーダー」
「はい」
やっぱりいた。
姿が見えなくても呼んだら、すぐに来てくれるんだよな。
……盗聴器でも付けられているのかな?
ははっ、まさかね?
……本当に、無いよね?
「主? どうしてそんな不審な目で見るのですか?」
「いや。ちょっと酔っているのかも。それより、エストカルトの顔色が少し悪い気がする。大丈夫か見てきてくれないか?」
「分かりました」
リーダーがエストカルトの方に行くのを見送る。
彼が行けば、問題ないだろう。
「エリトティール。飲み過ぎるなよ」
「大丈夫ですわ。私、お母さま譲りで酔えませんの」
エリトティールの言葉に、エスマルイートが諦めた表情でため息を吐いた。
王も娘には弱いのかな?
「そうだ。1つ聞きたいんだが」
エスマルイートがエリトティールに視線を向ける。
その真剣な表情に、エリトティールが少し姿勢を正した。
「なんでしょうか?」
「キャベルの事を、どうして私に言わなかった? 娘の言葉を無視するような親だと思っているのか?」
キャベル?
話の感じから重要な人物みたいだな。
もしかしてエスマルイートが落ち込んでいる原因か?
「いえ、違います。ただお父様をおと、り……お父様とあれは親しかったので、どう話そうか迷っている間に話す機会を逃しただけです」
今、「おと、り」って聞こえた。
それって「囮」?
いやいや、親を囮に使うなんて……ね?
「エリトティール」
あぁ、エスマルイートの表情が消えている。
反対に、エリトティールはすごく綺麗な笑顔だ。
しかも、笑顔なのに圧を感じる。
何も言うなよ、みたいな。
こわっ。
「はぁ、もういい。お前は本当に裏で動くのが好きだな」
エスマルイートの言葉に、「ほほほっ」と笑うエリトティール。
裏で動くか。
彼女、バッチュと気が合うかもしれないな。
「父上? なんだか凄く疲れているようですが、大丈夫ですか?」
ん?
覇気のない声に視線を向けると、顔色がかなり悪いエストカルトがいた。
「いや、俺よりお前だろう」
確かに。
親アリ達に囲まれていたけど、何があったんだ?
「俺は、ただの飲み過ぎです」
あぁ、絡み酒の被害にあっていたのか。
悪いな。
あの子達の暴走は止められないんだよ。
「えっ、兄さんが酔ったの? あの兄さんが? 嘘でしょ?」
どれだけ信じられないんだ?
「本当だって。黒い酒を飲んだんだけど、あれは駄目だ。絶対酔うぞ」
黒い酒?
「あぁ、それは酒に酔ったのではなくて、魔界の酒に含まれている魔神力に酔ったんだよ」
「「「えっ?」」」
親子の驚いた顔は似るもんなんだな。
そっくりだ。
「森の神。今、なんて? 魔界の酒? 魔界?」
エスマルイートの唖然とした表情に頷く。
「魔界に住むテフォルテから、今日の祝いにと貰ったんだよ。味はうまいんだけど、魔神力が含まれているから、初めて飲む者は全員が魔神力に酔ってしまうんだ」
魔界から盗んできた物だとは、言わないほうがいいよな。
「魔界――」
「邪魔をするよ。今日は何かあったの? いつも以上に賑やかだけど」
あれ?
この声は。
「アイオン神、久しぶりだな。今日は、獣人国に蔓延る問題が無事に解決した事を祝っているんだ」
俺の言葉に首を傾げながら、傍に来る。
「そう。お祝いだったの。おや? 初めて見る獣人だね。彼らは誰?」
アイオン神の視線が、エスマルイート達に向く。
3人が、唖然とアイオン神を見つめているのが分かった。
どうしたんだ?
「彼らは獣人国の者で王のエスマルイート。次男のエストカルト。長女のエリトティールだ」
「あら、あなた王なの?」
アイオン神の言葉に、無言で頷くエスマルイート。
どうやら緊張しているみたいだ。
「アイオン神という事は、神の仲間ですか?」
エリトティールの言葉に、きょとんとした表情をしたアイオン神。
そして俺を見る。
「そうだね。翔も神だったね! そうか神仲間か」
なんでそんなに嬉しそうなんだ?
というか、神という括りに入れられるのは遠慮したいけどな。
「それより、何をしに来たんだ? 頼んでいた事が、何か分かったのか?」
「ごめん。私の範囲では無理だったから、創造神が今動いている。私達が動くのを予想していたのか、妨害が凄いんだ。本当に腹が立つ。いつか、叩きのめしてやる。あの腹黒神!」
腹黒神って。
凄い言い方だな。
そういえば、神同士は争いをしないみたいな事を昔聞いた気がするんだけど……聞き間違いだったかな?
「今日はね。あの、の……この場所で、言うべきじゃないな」
呪いの事を話そうとしたのか?
それは、そうだな。
「ちょっとアイオン神と話してくるから、エスマルイート達は楽しんで」
エスマルイート達と飲んでいたウッドデッキから、家の中へ移動する。
さて、何処だったらゆっくり話が出来るかな。
「主、こちらに話せる場所を用意しました」
えっ?
近くにいなかったのに、いつの間に。
「リーダー、ありがとう」
さすが。
ただ、やっぱり盗聴器か?
ん?
肩にゴミ?
……あぁ孫蜘蛛か。
手を上げると、小さな孫蜘蛛が前脚を振ってくれた。
うん。
なるほど、そういう事か。
「どうしたんだ?」
アイオン神の言葉に首を横に振る。
「なんでもない。リーダー、用意した部屋に案内してくれ」
孫蜘蛛達の活躍だったのか。
この子達、最近活躍中だな。
バッチュの話によれば、凄腕の諜報員みたいだし。
凄いな。
いつも読んで頂き有難うございます。
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27日より更新を再開いたしますので、これからも宜しくお願いいたします。
ほのぼのる500




