66.エントール国第3騎士団団長4
-エントール国 第3騎士団 団長視点-
目の前に転がっている、意識のない6人の男性を見つめる。
彼らは今から少し前に、ゴーレムのバッチュが連れて来た者達だ。
「えっと、彼らって……あの彼ら、なのか?」
副団長のキミールは混乱しているようだ。
おかしな事を言っている。
「どうして疑問系なんだ? どう見ても、エスマルイート王を裏切った元宰相ヴィスルイと共に逃げたヌースル魔導師と元騎士達だろう」
「そうですよね? えぇ少し……かなりやつれていますが、彼らで間違いないですね」
あっ、目を覚ました。
「えっ?……えっ?」
俺と視線が合った瞬間に、固まるヌースル魔導師。
正直、俺もどういう反応を返せばいいのか分からない。
何となく周りに視線を向ける。
ここは、俺達が借りている家の前。
朝の特訓が終ったので家に戻ろうとしているところに、バッチュが来てこの6人を置いて行った。
そういえば、「ちょっとだけ見ていて下さい」と言っていたな。
……見ているだけでいいんだよな?
というか、彼らは何処から連れて来たんだ?
もう一度、ヌースル魔導師を見る。
まだ現状を理解出来ないのか驚いた表情で固まっている。
そのまま、固まったままでいて欲しい。
あれ?
……なんというか、随分と汚れているな。
服はところどころ破けているし、草木で汚れてもいる。
前に見たヌースル魔導師は、威厳があったが今はその面影もない。
それに、キミールが言うようにかなりやつれている。
「ひっ」
バタン。
「えっ?」
急に目を見開き倒れたヌースル魔導師。
何が起きたのかと首を傾げると、後ろに気配を感じた。
振り返ると、
「あっ、親玉さん。おはよう」
「ダダビス、おはよう」
ヌースル魔導師が倒れた原因が、前脚を上げて挨拶を返してくれた。
「……新しい仲間か?」
親玉さんの言葉に、どう言えばいいのか悩む。
元仲間と言えばいいのか?
だが、ここにいる理由は?
「えっと、バッチュが彼らをここに連れて来たんだけど」
「バッチュ?」
不思議そうな親玉さんに、どうしようかと周りを見回す。
バッチュ、早く戻って来ないかな?
少し前に、ゴーレム達のお陰でエントール国と連絡を取れるようになった。
まさか壊れた魔道具を、ゴーレム達が修理してしまうとは驚きだ。
いや戻ってきた魔道具は、聞こえてくる声に雑音が混ざらなくなったし、録音機能まで追加されていた。
修理というより、改良だな。
しかも、改良された魔道具と同じ物が作られ、エントール国に届けられていた。
ゴーレムの一体に「これで、報告中に通信が勝手に切れる事は無いでしょう」と言われた。
実際に使ってみて、驚いた。
本当に、報告中に一度も通信が途切れなかったのだ。
さすが森の神のゴーレムは、凄すぎる。
毎日行う報告では、森の神やゴーレム達、森の王とその仲間達の事を伝えている。
さすがに無断でやると不審に思われそうだったので、事前に主に許可を求めた。
主は特に気にする事なく、話を聞き終わるとすぐに許可を出してくれた。
そして、「それぐらいの内容なら、許可を求める必要はない」と、言われてしまった。
本当にいいのだろうか?
彼らの攻撃力や防御力を、結構詳しく報告しているのだが。
まぁ、レベルが違い過ぎるので気にならないのかもしれないけれど。
許可が貰えたので、報告では特訓内容については詳しく説明した。
なのに、どうも本当の話なのか疑っているようだ。
特に、親玉さんと呼ばれているチュエアレニエに特訓をしてもらっている話や、ダイアウルフ達に守られながら森で魔物を狩っている話を怪しんでいる。
そのせいで、フェンリルに乗って森を駆ける話や、飛びトカゲという不思議な名前を持つ森の王、土龍の背に乗せてもらって空を飛んだ話は、出来ないでいた。
自慢話が出来なくて残念だ!
毎日の報告はこちら側だけでなく、国側からもある。
通常は、国外にいると国内の情報は噂ぐらいしか届かない。
情報が洩れる心配があるため、詳しく国内情勢を連絡することは無いからだ。
なのに、森の奥にいる俺の元には毎日国内情勢が報告される。
エスマルイート王曰く、「どうせ隠しても知られているだろうから」という事らしい。
そしてその通りだなと、小さなアルメアレニエ達と小さなアビルフールミ達を見て思う。
あの子達はきっと、どう頑張っても防げないだろう。
「元宰相ヴィスルイか」
ここ最近の報告を思い出して、少し不安になる。
アルピアリ公爵とタルレスタ女伯爵が動き出したようなのだ。
と言っても、アルピアリ公爵は気にする必要はない。
彼は王から密命を受けて、あちら側に侵入している、味方だ。
と、一つ目のリーダーが教えてくれた。
どうして知っているのかを聞いたら、密命を受けているところを複数の仲間が見ていたらしい。
「見ていた、ね」
密命は密かに行われるものだ。
特に、王の周辺に裏切り者がいると分かっているので、隠し場所が使われたはず。
なのに、見ていた。
本当に、森の神に仕える者達は恐ろしい。
アルピアリ公爵は味方だと分かったが、問題はタルレスタ女伯爵。
そしてもう1人、彼女に情報と資金を提供している存在だ。
元宰相のヴィスルイが牢屋から逃げ出した時にその存在に気付くことが出来たのだが、いまだにその正体が掴めていない。
この人物が誰なのか分かると、情報の出所が分かり王の近くにいる裏切り者を知る事が出来るのだが、難しいと第一騎士団団長のガルファが、頭を悩ませていた。
王の傍にいる情報を流している裏切り者も同時に調査が行われている。
ただしこちらも、思うような結果が出ていない。
ゴーレム達に協力を頼めばすぐにでも分かりそうだが、自国の問題なので自らの手で解決したい。
それに、そこまで面倒を見てもらう訳にはいかない。
「お待たせしました」
ん?
良かった。
バッチュが戻ってきたようだ。
あれ?
たぶんあれは……ゴーレムのリーダーだな。
彼を呼びに行っていたのか。
「まだ起きてないんだ。疲れているのかな?」
いや、それは違う。
そっと親玉さんを見るが、首を傾げている。
「起きて~」
バッチュに揺さぶられるヌースル魔導師。
おそらく、目を覚ました次の瞬間にまた倒れるだろうな。
「んっ。 ……………………ひっ!」
そうなるよな。
再度、倒れたヌースル魔導師を見る。
その顔は、真っ白だ。
血の気が失せるという言葉がぴったりだな。
「あっ……しょうがない人だな。話を聞きたかったのに」
一瞬喜んだバッチュだが、ヌースル魔導師が再度倒れると肩を竦めた。
「バッチュ、彼らに結界を張ればいいのか?」
ゴーレムリーダーの言葉に首を傾げる。
この森の奥で結界を張る理由は無いと思うけど。
「うん。この状態だと彼らは獣人の国に入れないから」
えっ、エントール国に入れない?
門番に、ヌースル魔導師達を捕まえたと言えば、普通には入れると思うけど。
「あの、エントール国に入れないとは、どういう意味ですか?」
キミールが気になるのか、バッチュを見る。
「主の結界が、獣人国に少しでも害がある者だと判断すると、弾いてしまうんだ」
「「「「「えっ!」」」」」
今まで黙って話を聞いていた、他の騎士達もさすがに驚いて声が漏れてしまったようだ。
というか、害があると入れないのか?
「あの、ヌースル魔導師達は何処にいたんですか?」
「彼らは、森の中で自分達が作った魔物に襲われてたよ」
だから服が破れて汚れて……ん?
自分達が作った魔物?
「えっと……作った魔物と言うのは?」
「自分の魔力が籠められた魔石を埋め込んで、操る予定だった魔物の事だよ」
バッチュの言葉に、頭痛を覚える。
まさか、そんな物を作っていたなんて。
エンペラス国の前王が作った「混ぜ物」を見れば、魔物が操れない事は分かるだろう!
なんて愚かなんだ。




