35.神秘的だ。でもなぁ。
無事な姿を目にしてホッとした瞬間、体から力が抜けた。
「会えた~」
ん?
嬉しいのか、凄い勢いでこちらに駆けて来る親蜘蛛さん達。
待て、ちょっと勢いが凄くないか。
止まれるのか?
いや、止まる気があるのか?
無いよね!
「身体強化!」
ドゴッ。
「ぐっ」
強化をした体に響く振動と衝撃。
身体強化が、間に合ってよかった。
本当に、よかった。
「加減をしろ!」
バチッ!
バチッ!
バチッ!
バチッ!
親玉さんの怒った声に視線を向けると、お尻を叩かれたのか後ろ脚でお尻をさすっている4匹の姿が見えた。
「ごめんなさい。嬉しくて」
親蜘蛛さんがそっと俺の顔を見る。
ほとんど表情が変わらないのに、しょぼんとしている様子が分かるのが不思議だ。
「ははっ。まぁ、いいよ。無事でよかったよ。怪我とかしてないか?」
「大丈夫です」
親蜘蛛さんの頭を撫でると、嬉しそうにお尻がちょっと揺れている。
それがまた可愛い。
それにしても、まだ体がじんじんしているような気がする。
強化してても衝撃は響くんだなぁ。
もし間に合わなかったら……考えるのは止めよう。
恐ろしい。
周りを見回す。
「ここが見習い達が作った、地下神殿か」
最初に目に飛び込んできたのは、白い石で作られた建物とその建物を囲うように広がる湖。
湖の向こうはよく分からない。
きらきらと何かが輝いているという事だけは分かるが、見ようと思っても見られなくなっている。
なんとも不思議な空間だ。
「それにしても、見た事がある建物なんだよな」
少し離れた所に立っている、白い柱が並んだ建物を見る。
教科書で見たし、テレビでも見た事があるな。
ギリシャにある……えっと。
パ……パルム、ロン?
ちょっと違うような気がするな。
パルムオン?
パルテラン?
パルテノン……。
「パルテノン神殿だったか?」
一番しっくりくる、ような気がする。
他国の歴史なんて興味なかったからな。
正確には勉強が苦手だったんだが。
でもたぶん、パルテノン神殿で正解のはずだ……おそらく。
「似てるよな」
テレビで見たパルテノン神殿はあちこち崩れていたけど、こっちのは崩れていないな。
建物に近付こうと歩き出すと、目の前にさっきまで遠くに見えていた建物が現れた。
あれ?
そんなに歩いていないのに、なんで建物の傍に来てるんだ?
何かの魔法か?
「どうした?」
「一気に建物まで来たから、何があったのかと思って」
後ろを振り向くと、さっき立っていた場所が遠くに見える。
やっぱり、一瞬で建物に近付いたようだ。
「先ほどいた場所からここまで、一気に移動できる魔法がかかっていたようだ」
親玉さんの言葉に、なるほどと頷く。
だからいきなり目の前に建物が現れたんだな。
「変な空間だな」
「そうだな。まぁ、驚かせる効果はあるだろうな」
驚かせるか。
神秘的な印象を与えたかったのかもしれないな。
「随分とデカいな」
親玉さんが建物を見上げるので、その隣に立って同じように見上げる。
「そうだな」
遠くからでは分からなかったが、1本1本の柱も大きく威圧感がある。
しかも真っ白なので、神秘的ですらある。
作ったのがあいつ等でさえなかったら、心の底から感動できるんだけど。
残念ながら、あいつ等が作ったんだよなぁ。
柱が気になったので、傍に寄ってみる。
縦にデザインが施されていて、近くで見ても壮観だ。
ん?
あれ?
「うわっ、なんだこれ!」
真っ白な石で出来ていると思ったけど違う!
傍で見ると、半透明になっている。
しかも半透明の柱の中に、何かがいる。
テニスボールほどの大きさの青いふわふわしたものが、柱の中を泳いているのが見える。
「これは凄いな。泳いでるのか? 生き物か?」
俺の興奮した声に、コアやチャイも柱の傍に来て中を覗き込んだ。
「確かに生き物がいるが、これはなんだ? チャイ、分かるか?」
「分かるわけないだろう? ふわふわしてるな」
コアとチャイが不思議そうに首を傾げてじっと柱の中を見る。
2匹は知らないようなので、水色を探す。
水色は龍なので、何か知っているかもしれない。
「水色、柱の中のこのふわふわ泳いでいるものが何か分かるか?」
「ん~、たぶんこれは妖精だと思う」
えっ、妖精?
これが?
もう一度、柱の中を見る。
青いふわふわした……妖精? らしきものが、泳いでいる。
「あぁ、これが妖精か。こんな姿をしているのだな」
コアの言葉にチャイや親玉さんが頷いている。
どうやらコア達は、妖精がいる事は知っていたが形までは知らなかったようだ。
「これが妖精。……妖精って、人に近い形をしているイメージだったんだけど」
小さくて、人の姿に似ていて羽があって。
まぁそのイメージは、妹と一緒に見ていたアニメの中の妖精なんだけどな。
そういえば、この世界の精霊もアメーバみたいな姿だったな。
アメーバには目と口があったけど、この妖精にはあるのかな?
「妖精には、目や口はあるのか?」
「ある。ただ妖精の口は気を付けた方がいい」
気を付ける?
「牙が2重に並んでいて鋭いし、噛みつかれるとなかなか離れなくて大変な目に合うんだ」
水色の言葉に首を傾げる。
えっと、それは妖精の話なのか?
2重に並んでいる牙とは、何?
妖精には、そんな口があるのか?
「妹が知ったら、ショックを受けるんだろうな」
それに、噛みつかれると離れないって凄いよな。
凄い傷になりそう。
というか、それだけで済むのか?
「指だったら引きちぎられたりして」
「いや、それは無い」
良かった。
「奴らの顎は強い。だから一瞬でかみ砕く」
本当の妖精は、凄く恐ろしい生き物なんだな。
テレビの前で、「あの妖精の笑顔、最高! 可愛い!」と言っていた妹よ。
現実はシビアだぞ。
そう言えば、ウサギの獣人も可愛らしいとは随分と違い強面だったな。
指をかみ砕く妖精か。
妖精には、絶対に近付かないようにしよう。
「主、どうしたんだ?」
親玉さんが不思議そうに俺を見る。
「ははっ。ちょっと衝撃を受けただけだ、大丈夫」
俺の言葉に、皆が首を傾げる。
「俺の知っている妖精と、本当の妖精の姿がかなり違ったから、驚いたんだよ」
「主の知っている妖精はどんな姿なのだ?」
コアが興味津々という表情を見せる。
チャイも耳がぴくぴく動いているので、興味があるようだ。
似たもの夫婦だな。
「小さい人みたいな姿で羽があるんだ」
「その姿の妖精もいるが、主はその妖精をどこで見たのだ?」
「えっ? 人型もいるのか?」
水色の言葉にちょっと興奮してしまう。
やはり、馴染みは……それほどないが、妹が可愛いと言っていた妖精も、見てみたい。
「あぁ、いる」
そうなんだ。
可愛い妖精もいるのか。
「実際に妖精は見た事は無いが、俺が前にいた世界では、想像の産物として人型の妖精が登場する物語があったんだ」
「そうか。随分と恐ろしい物語があったんだな」
……恐ろしい?
それって人型の妖精が登場するから出た言葉だよな。
えっと?
人型の妖精って、恐ろしい生き物なのか?
「人型の妖精は、なんでも食べるからな」
たべる?
それって……世の中、知らない方が良い事もあるよな。
うん。
妖精がどんな姿をしていても、近付いては駄目という事だけ、覚えていよう。




