28.エントール国第3騎士団団長3
-エントール国 第3騎士団 団長視点-
俺達のために用意された家に戻ると、ギルスがいた。
「ギルスだけか?」
「はい、キミール副団長達はまだ庭にいます。教師達は、子供達と一緒にいるのを見ました」
「そうか」
リビングに置かれた、やたら座り心地のいい椅子に座る。
許されるならこのまま、何も考えずに眠りたい。
……許されるわけないよな。
「ギルス」
「はい」
「奴の事が、主様にバレているみたいだ」
「えっ! 本当ですか?」
ギルスの慌てた声に、無言で頷く。
まさか、こんなすぐにバレるなんて思わなかった。
「やばいよな」
「……おそらく」
ギルスは言葉を濁したが、確実に主様の不興を買っただろう。
頭を抱えてため息を吐く。
「朝のあれは調べるためだったのか」
今日は、朝からちょっと違和感があった。
主様が一つ目と呼ぶゴーレム達が、異常に俺達の前に現れた。
最初は気のせいかと思ったが、それまでほとんど会う事の無かった小鬼達と呼ばれているゴーレム達や三つ目と呼ばれているゴーレム達まで現れれば、何かがおかしいと気付いた。
もしかして、何かやらかしたのかとキミールと手分けして仲間に聞いて回ったが、原因は分からず。
昨日の歓迎会に続き、今日も朝からドキドキと過ごす事になった。
昼ごろになると、まるで朝の出来事が無かったかのようにゴーレム達に会わなくなった。
もちろん、伝言を伝えてくれるゴーレムや、用事があるゴーレムには会うが、それ以外のゴーレム達に会わない。
不思議に思いながらも、キミール達とホッとした。
ただ少し、不安は残ったが。
お昼を食べて子供達の授業が始まると、騎士1人を見守るという名目で参加させ、他の騎士達は特訓に参加させてもらった。
主様からは、「広場の特訓に参加してもいいし、庭の特訓に参加してもいい」と言われたが、全員が即行で庭の特訓に参加すると決めた。
広場の特訓?
あれに参加すると、数秒後には確実にこの世から消えている。
庭の特訓だって、俺達の相手をしてくれた俺たちより少し小さなアルメアレニエが、かなり手加減してくれていたから死なずに済んでいるのだ。
参加してすぐは手加減が無く、「あれ? 死んだ?」と思ったからな。
主様のヒールで助かったが、あんな一瞬で全てが元通りになるヒールは見た事が無く、唖然としてしまった。
今思い出しても、凄いヒールだった。
そんな感じでハードな特訓を終え、ようやく一息つこうとしていたら声を掛けられた。
それが、ここに戻ってくる少し前だ。
一つ目から「彼だけだったんですね。失礼しました」と言われたのだ。
何を言っているのか分からず首を傾げると、「あれですよ」と一つ目がある方角を指した。
そちらを見ると、俺達がマークしている人物の姿があった。
その瞬間、頭が真っ白。
言い訳も浮かばず一つ目を見ると、頷いてから去って行った。
それを呆然と見送って、混乱したまま戻って来たのだ。
「どうしたらいいと思う?」
ギルスを見ると、険しい表情をしているのが分かる。
「正直に全てを話すしかないと思いますが……」
そうだよな。
一つ目は、俺達が奴を不穏分子だと知っていると気付いている。
そうでなければ、俺にいちいち「彼だけだった」とは言ってこないはず。
つまり、不穏分子と知っていながら、ここに連れてきたと思われてしまったわけだ。
そして、それはきっと主様も同じ考えだろう。
「あ~、やばい。どうしよう」
「団長。本当に危ないのではないですか?」
「えっ? 何がだ?」
ギルスを見ると、先ほどより表情が険しくなっている。
なんだ?
今より状況が悪くなる事があるのか?
「主様が知っているという事は、奴が既に何かやろうとしたからじゃないですか? それでなければ気付けないと思います」
「………………マジか」
そうだよな。
普通に生活していたら、不穏分子だと気付くはずがない。
気付かれたのは、奴が何かをしでかしたからだ。
「なぁ、何をしたと思う?」
「見当もつきません。ただ、この環境なので大事でないとは思います」
それは、そうだな。
窓から、庭を見る。
今も、小さなアビルフールミが俺達ぐらいの大きさのアビルフールミと特訓をしている。
と言うか、吹っ飛ばされている。
明日は、あっちの小さいアビルフールミ達に特訓をお願いしようかな。
「明日があるといいな」
「団長」
たぶん、殺される事は無いと思う。
主様は、かなり優しい性格だ。
ただ、他の者達は?
「はぁ、ギルス。一緒に来てくれ」
「はい」
謝らないと。
言い訳も誤魔化しも、許されない。
誠心誠意で謝ろう。
あ~、怖いな。
…………
-エントール国 タルレスタ女伯爵視点-
グラスを呷ると、口に広がる芳醇なお酒。
少し高いが、それだけの価値がある酒だわ。
「まだ、連絡はないの?」
傍に立つ執事をちらりと見る。
「はい。まだ連絡は入っていません」
彼の返答にため息がこぼれる。
「いったいあれは、何をしているのよ!」
森へ行って、既に数日。
そろそろ連絡があっていいはずなのに、それが無い。
全く、あれほどすぐに連絡を入れるように言っておいたのに、どうなっているのかしら。
「人選をミスったかしら?」
「タルレスタ様。まだ数日でございます。森の奥は我々にとっては未知の世界。きっと連絡が取れない何かがあるのでしょう」
「分かっているけど……」
森の神か。
絵姿を見たけど、一見すると力など無いような見た目をしていたわ。
初めて見た時は驚いたものよ。
森を取り返した者が、あんなか弱い姿をしているんだもの。
でも、実際に間近で見た者達は、「圧倒される力」を感じたと言っていたわよね。
「私も間近で見たいわね」
圧倒的な力とはどれほどの物なのかしら。
この身で、感じてみたいわ。
「エンペラス国から戻ってくるはずの、仲間の居場所は掴めたのかしら?」
3週間前、エンペラス国にいた仲間から「戻る」という連絡が入った。
あの日からエントール国に「戻った」という連絡を待っているのだけど、その連絡が入らない。
嫌な予感がするのよね。
「調べている者達からは『確認中』と連絡が入っています」
「まだ、何も掴めていないという事じゃない! どうなっているのよ?」
「タルレスタ様、少し噂を耳にしました」
噂?
この執事が持ってくる噂は、馬鹿に出来ないのよね。
今までだって、どこでそんな噂を聞いたの?と聞きたくなる情報を持ってくるんだもの。
「いったい、どんな噂なの?」
「森の神がエントール国に来た時、結界を壊そうとしていた獣人がいたそうです」
結界を壊そうとした獣人?
「それが、エンペラス国から戻って来た仲間だって言うの?」
「はい」
「ん~、でもそれは、おかしくないかしら?」
彼らには、門から入って来られるように、通行許可証を送ったわ。
それが届いたという連絡も貰っているから、堂々とエントール国に戻って来られるはず。
それなのに、結界を壊そうと?
「詳しく、その者達の事を調べて」
「分かりました」
一礼すると執事が部屋から出ていく。
「はぁ、どうなっているのかしら?」
なんだか、とても嫌な感じだわ。
オルサガス国に行った、ヴィスルイ様と連絡が取れないかしら。




