07.長生きだからな。
「待て、今なんの話をしていた?」
アイオン神が、なぜか焦った様子で俺とオアジュ魔神のところへ来た。
一つ目による説教は終わったんだろうか?
「オアジュ魔神の家族を、この世界で生活させてみるという話だが」
「魔神の家族だぞ!」
アイオン神の様子に首を傾げる。
なんで、怒っているんだ?
「この世界に、魔族を増やすつもりなのか?」
俺が分かっていない事を理解したアイオン神が、分かりやすいように言葉を変えてくれたようだ。
だが、それの何が問題なのかが分からない。
「何か問題でもあるのか?」
力が増えるのは駄目だが、アイオン神の態度からそれとは違うような気がする。
「アイオン神?」
愕然と俺を見るアイオン神に、少し戸惑う。
まさか、こんな反応をされるとは。
でも、魔族をこの世界に増やしたら駄目なのか聞いただけだよな?
この質問の、なにがアイオン神を驚かせたんだ?
「魔族は神の敵という認識だからな」
テフォルテの声に右隣を見る。
「いつの間に来たんだ?」
ビックリした。
声を掛けてくるまで気付かないなんて……結界があるからと気が緩んでいるのか?
「オアジュ魔神が、主に懇願しているぐらいからだな」
「結構前からいたんだな」
「声を掛けようと思ったが、驚いてしまって」
「ん? 何に?」
「オアジュ魔神のあんな姿を見るのは初めてだったから。随分と奴は変わったな」
「あぁ、性格がかなり変わったよな」
俺からしたらいい方向へだけど……。
テフォルテと視線が合うと、ニヤリと笑った。
これ、ニヤリと見えるがたぶん普通に笑っているんだろうな。
元の作りが怖いと、普通に笑っても何か企んでいるような笑いになるから残念だよな。
「主、何か失礼な事を考えてないか?」
「ん? 元が怖いと全てがマイナスになるから残念だなと……」
あれ?
テフォルテにため息を吐かれた?
正直に答えたのに。
「我にそんな事を言うのは、主だけだ」
「そうか? まぁ、でも、見慣れればテフォルテも可愛い顔をしてるよな」
「…………」
ん?
テフォルテが目を見開いて俺を見ているが……なんで?
「どうしたんだ?」
「なんでもない。言われ慣れていないからびっくりしただけだ」
もしかして照れているのか?
「翔」
アイオン神が、お願いするような表情をするが首を横に振る。
「魔族が敵という認識みたいだが、俺には関係ないから」
この世界に、敵を増やしたくないと考えたんだろうな。
でも、俺にとっては敵じゃないし。
そもそも、この世界は神の見習いと魔神が作った世界だ。
核だって、光の魔力と闇の魔力のどちらにも対応した。
なら、どちらの世界の者がいても、この世界に迷惑を掛けないなら問題ないだろう。
「そうだが……でも、魔族だから性格は悪いぞ?」
「オアジュ魔神の前例があるからな、こっちに来たら変わるんじゃないか?」
あのやたら威張りくさっていたオアジュ魔神が、俺に頼み事をするようになるんだぞ?
こんなに変化するんだから、子供達だって変化するだろう。
「「確かに」」
あっ、アイオン神とテフォルテの意見が一致した。
くくくっ、お互いに言葉が合わさった事にびっくりしてるな。
「翔」
「なんだ?」
「まぁ、問題が無ければ……魔族が増えてもいいかもしれないな」
アイオン神の表情には、まだ迷いがあるのが分かる。
今までの常識を、ひっくり返すのは難しいようだ。
「そうだな」
あれ?
そもそも、アイオン神の許可は必要なのか?
いらないよな?
……まぁ、いいか。
「あっ! オアジュ魔神。お前の子は魔神か?」
魔神?
魔神の子だから魔神?
いや、それだったらアイオン神がわざわざ聞くわけはないな。
「いや、魔族だ。俺の子供達は特殊な力を持って生まれなかったからな。妻も魔族だ」
魔神は特殊な力があるのか。
オアジュ魔神にもあるんだよな?
どんな力なんだろう?
「そうか。魔族か。魔神の特殊な力の心配はしなくていいな」
それって魔神の場合は、特殊な力に気を付けろという事だよな。
次の魔神に会った時は、気を付けよう。
「そうだ、アイオン神には子供はいるのか?」
オアジュ魔神にいるなら、アイオン神にもいるかも。
「62人の神族と1人の神がいる」
……62人に1人?
つまり、子供は63人もいるという事か。
何となく聞いたんだけど、凄い数字が出てきた。
いや、長生きだからな。
これぐらい普通なのか?
そしてやっぱり神族という呼び方で合っているんだな。
「旦那は神なのか?」
「旦那? パートナーの事か? 今はいないが、神の時もあれば神族の時もあったな」
旦那という呼び方はせずにパートナーと言うのか。
それに、神の時もあれば神族の時もある?
長く生きていれば気持ちが変わる事もあるか。
「神は、パートナーが1人という決まりがあったな」
オアジュ魔神の言葉にアイオン神が頷く。
そうなんだ。
魔神というか魔族は、同時に何人も妻がいてもいいみたいだったけど違うんだな。
あれ?
さっきアイオン神は「神の時もあれば神族の時もあった」と言ったよな?
「あぁ、パートナーに対して誠実であれという事らしい。ただし、別れてから別の者とパートナーになる事は出来るから、人生でたった1人という事じゃないけどな」
まぁ、そうだよな。
ものすごく長い人生だもんな。
「そうだ、主」
「どうした?」
「新しい大地に、何を作るつもりなのか聞いておきたい」
「では、畑をお願いします」
今のは俺じゃない。
左を見ると、農業隊が期待した雰囲気でオアジュ魔神を見つめている。
畑か。
確かに、新しい大地で生きていく者達のために必要だが、最初に畑なのか?
もっと他に必要な物があるような気がする。
「いえ、そうではなく。もっと大きく考えてください」
大きく?
「では、新しい大地を森に変えて、必要に応じて開拓していけばいいと思います。それから新しい大地を陸続きにする予定はないですか?」
陸続きか。
今は飛んで行くしか、方法が無いからな。
「森なら数日あればできます。陸続きにするのは少し時間がかかりますが、出来ます」
森は数日で出来るんだ。
凄いな。
それより、俺に聞いて来たのに、俺は放置で話が進んでいるんだが……。
まぁ、新しい大地をどうするかなんて考えてなかったから、いいけど。
「それなら、それでお願いしますね」
「分かりました」
農業隊に神妙に頷くオアジュ魔神に笑いそうになるが、それよりも態度や言葉遣いが気になる。
どうしてオアジュ魔神は、農業隊にそんなに丁寧なんだ?
「オアジュ魔神と農業隊の間で何かあったのか?」
俺の言葉にオアジュ魔神の顔色がすっと悪くなる。
えっ?
本当に農業隊は彼に何をしたんだ?
「オアジュ魔神の主への態度が気に入らないと、攻撃されながら追い掛け回されたんだよな」
テフォルテが楽しそうに話した内容に、オアジュ魔神と3回目に会った時の事を思い出す。
それまでの態度と違って、話し方も態度も丁寧でどこか不気味に感じたから、元に戻してもらったんだよな。
「あれは怖かった。魔界に帰ろうとすると、邪魔されるし、どこに行っても気付いたら、傍にいるし。あらゆる方角から攻撃は飛んでくるし」
それは怖いだろうな。
農業隊を見ると、満足気に頷いている。
それに苦笑が浮かぶ。
「ほどほどにな」
農業隊の頭をポンと撫でると、ちらっとこちらを見て頷いた。




