47.威嚇された!……ありがとう
正直、見なかった事にして帰りたい。
……駄目だよな。
はぁ、それにしても、透明な卵か。
卵は欲しいと思っていたが……これは違う。
残念だ。
卵に触れていた手を離して、中をもう一度よく見てみる。
どう見ても3匹の犬ではなくて、3つの頭を持っている1匹の犬?
いや、そんな犬なんていないはずだ。
魔物かな。
3つの頭を持つ魔物……やっぱりどこかで聞いたフレーズだ。
妹か?
ん~、思い出せないな。
しかし……不細工だな。
卵の中の犬もどきの顔なのだが、怖いだけでなく不細工だ。
「ガチガチ、ガチガチ、ガチガチ、ガチガチ……」
ん?
何の音だ?
『ガチガチ、ガチガチ、ガチガチ、ガチガチ……』
周りに視線を向けると、親玉さんが口を鳴らしている。
親蜘蛛さん達も同じ行動をしている。
確かこれって威嚇だったな。
「……えっ! 威嚇! なんで?」
親玉さん達の雰囲気に体が硬直する。
かなり怖い。
というか、気が付くと親アリさん達も威嚇音を出している。
恐すぎる。
逃げ出していいかな?
何処に?
あれ?
この場所って、空間の一番奥だ。
出入り口は親アリさんの後ろか~、逃げられない!!
「落ち着け俺! ってこの世界に来て何度目だ。はぁ~、とりあえず状況判断だな」
えっと親玉さん達はなぜ威嚇を?
俺に向かってしているようだが……ん?
俺ではなくて卵にか。
……あっ、なるほど卵か。
「ふぅ~、ビビらせないでくれ。襲われるのかと一瞬意識が遠のきかけた」
親玉さんに襲われて、逃げられる可能性は皆無だ。
絶対に無理だと断言できてしまう。
威嚇が俺にではないと分かった安心感から、力が抜けて卵に寄りかかって座り込む。
『ガチガチ、ガチガチ、ガチガチ、ガチガチ……』
次の瞬間威嚇音が大きくなる。
それにまたしても、体がビクつく。
あ~、今のは俺のせいだな。
卵からそっと体を離す。
それにしても、なぜこんなに卵に対して威嚇しているのだ?
「何かあるのか?」
卵の中の様子を見るが、ピクリとも動く様子はない。
なのに威嚇の様子からは、本気が窺える。
不細工以外に……まぁ、頭が3つある事はこのさい除外して。
見た感じまだ子供だよな。
子犬魔物?
卵の中にいるのだから生まれていない?
『ガチガチ、ガチガチ、ガチガチ、ガチガチ……』
俺に向かって威嚇しているわけではないと分かっていても、やっぱり怖すぎる。
音が気になって考えられないし。
とりあえず、親玉さん達を落ち着かせよう。
威嚇している意味が分かっていないので、それが正解かどうかは分からないが。
とりあえず、怖いから!
「親玉さん。落ち着いて、どうどう」
……ってこれは馬を落ち着かせる時の掛け声だっけ?
まだ落ち着けていないな俺。
ふ~。
「親玉さん、大丈夫だと思うから。というか、産まれて? いないんだし。何もないよ……たぶん」
言葉が通じていたら何とも情けない説得だよな。
しかし、これ以上の言葉が浮かばない。
本当に大丈夫かどうかなんてわからないし。
親玉さんは威嚇音を止めて、俺をじっと見つめている。
えっと、とりあえず。
「大丈夫だから、問題が起きてから対策を考えよう」
親玉さんの目の1つを見つめてお願いする。
首を傾げる親玉さん。
巨大蜘蛛が不思議そうに首を捻っている姿は、違和感があって面白いな。
って現実逃避は駄目だな。
えっと、説得……駄目だ、何も思い浮かばない。
しばらく親玉さんは俺の様子を見ていたが、どうやら威嚇は止めてくれたようだ。
親玉さんの様子を見て、他の子達も威嚇音を出すのを止めてくれた。
よかった。
これで落ち着いて考えられる。
「さて、どうしよう」
親玉さんが威嚇するという事は、危ない魔物なのかも知れない。
このまま目が覚めない方がって違うな、産まれない方がいいのかも知れないな。
このままここに放置か?
いや、それはそれで危ないよな。
産まれた時も気が付けない。
やっぱり連れて帰るべきだよな。
「はぁ、3馬鹿ども。これが何か分かるようにしていきやがれ!」
……って、何かないかな?
もしかして何か残っていたりしないか?
卵が置かれている空間全体に視線を走らせる。
机のような物はない。
ただ、箱を見つける事が出来た。
「何かあるかも!」
箱に近づいてみると、蓋はバッチン錠で止められているだけなので簡単に開けられそうだ。
ちょっとドキドキしながら蓋を開ける。
「ぅげっ……あっ、違った」
箱の中には骨。
見た瞬間、呪詛を思い出してビクリと体が震えてしまった。
だが、よく見ると人の骨ではないようだ。
しかし、骨か。
クソ野郎どもが!
木箱の中の骨を持ち上げる。
動物か魔物の骨の様だ。
卵の中の犬もどきとは骨格が違うので別の生き物だろう。
以前テレビで見た馬の骨に似ているが、馬に角はなかったよな。
骨には額部分に角がある。
もしかして、見つけてしまった以上これも持ち帰る必要があるのか?
「もう、考えるのが面倒くさいな。全部持って帰るか」
木箱と透明の卵を見比べる。
これは卵を優先的に持って帰るべきだよな。
木箱は、親玉さんが持ってくれないかな?
親玉さんに木箱を指して。
「家まで運んでくれないかな?」
……まぁ、通じないんだけど。
えっとどうすれば通じるかな。
木箱を親玉さんの前に持っていく。
そして頭を下げて見た。
これはお願いのジェスチャーだ。
じっと見つめてくる親玉さん。
……無理だったかな?
しばらく様子を見ると、8本あるうちの2本の足が動いて木箱を体の上に乗せてくれた。
「通じた!」
ちょっとガッツポーズをとってしまう。
なかなか意思の疎通が難しいので、1回で通じるとかなりうれしい。
「よろしくな」
俺の言葉に頷いてくれたようだ。
通じたと信じよう。
卵を両手でそっと持ち上げると、ずっしりとした重さが伝わってくる。
想像したよりも重いな。
落として割らないように気を付けないとな。
近くにいた親アリさん達が、警戒体制を取ったのを視界の隅に入れる。
「大丈夫だよ」
落とさないように両手で抱きしめて持つ。
「走って帰るのは無理だな。ゆっくりと歩いていくか」
卵を抱え外へ向かう。
ほのかに暖かい卵は動かしても問題がないようで、変化は見られない。
そう言えば、卵を取った時にも仕掛けとかはなかったな。
3馬鹿にとって、この卵はそれほど重要ではないのか?
この場所での仕掛けは、洞窟内に入るための扉だけだ。
通路もそう言えば薄汚れていたな。
ただ、最初に神力を感知しようとした時は、隠されていたのか光が現れなかった。
それは、この卵を見つけて欲しくなかったからではないのか?
ん~、まったく分からない。
考えるだけ無駄だな。
とりあえず、何も無くてよかったって事でいいか。
それよりも問題はこの卵、何処に置いておこう。
俺の寝ている部屋か?
え、寝ている間に産まれたらどうすればいいんだ?
……リビングだな。
いや、ウッドデッキか?
「カチカチカチ、カチカチカチ」
ん?
威嚇とは違う音だけど誰だ?
外に出た瞬間、威嚇音より軽めの音が耳に届く。
見ると親蜘蛛さんの1匹が俺のすぐそばで音を出している。
親玉さんほどではないが、大きく成長したよな。
「カチカチカチ、カチカチカチ」
えっと、きっと何かを伝えたいんだろうがさっぱりだ。
とりあえず……見つめ合ってみる。
って、これで伝わるんだったらどれだけ楽か。
親蜘蛛さんは2本の足をそっと俺に近づけると卵をさっと奪い取る。
「えっ!」
卵を目で追うと、親蜘蛛さんの背中に糸で固定されていく。
あっ、この子糸を出せる個体だったのか。
それにしてもさっきまで威嚇していたのに。
「いいのか? 大丈夫か?」
「カチカチカチ」
大丈夫と言う言葉はよく使うので、なんとなく伝わる様になってきた。
なので今のカチカチカチは、大丈夫の答えだよな。
……大丈夫と言っている事にしよう。
「ありがとう」
そっと頭を撫でる。
「カッチカチカチ」
ん?
今ちょこっとだけ音程が違ったような気がするけど気のせいかな?
じっと親蜘蛛さんを見つめると、なぜか体を左右に揺さぶっている。
どうやら卵が固定されているか、体を揺らして様子を見ているようだ。
しばらく体を揺さぶって満足したのか、俺を見て頷いた。
どうやら準備完了の合図らしい。
「そうか。だったら帰ろうか」
木箱を足で押さえた状態で走りだす親玉さん。
器用だな。
その後を追うように走る。
どうやら帰りも、行きと同じスピードで走れるようだ。
よかった。
威嚇音に緊張して疲れたから、早く帰ってゆっくり休みたい。
それにしても、卵か。
他の場所にも卵があったりしないよな?
呪詛の骨は勘弁してほしいが、卵もな~。
はぁ~、ほんと3馬鹿の後始末って疲れる。




