34.水龍 ふわふわ
-住処の湖に住む水龍のふわふわ視点-
体を小さくして、住処の中を飛んで移動する。
リビングと呼ばれている部屋に入り、寝ている2人の天使を見る。
やはり、間違いない。
これは神に仕える上級天使だ。
他の龍達と同じ結論に達する。
しかし、まさかこの場所で会えるとは。
主と共に行動していたコアの話を聞いて耳を疑った。
上級天使がこの星にいた事もそうだが、その者達が入っていた箱の方が問題だった。
上級天使が入っていた透明の箱。
他の龍達と話し合ったが、記憶に刻まれている物は2つ。
1つは、産み落としの初箱。
天使を誕生させるためのモノだ。
だが初箱には蓋が無い、話に聞いたモノとは異なる。
となると、もう1つの白帰箱という事になる。
白帰箱は天使の記憶を白紙に戻したり、存在を消す時に使用するものだ。
ただし、この白帰箱の使用はかなり厳しく制限されている。
1つ、天使が罪を犯し、その罪が他の罰では許されない場合。
1つ、天使の心が耐え切れなくなり、神の祝福では修復が不可能と判断された時。
この2つの場合のみ、使用する事が許されるのだ。
また白帰箱その物にも、何重にも結界が施され保管されている。
はずなのだが、この星に有ったと言う不思議。
次に神様が来た時には、ゆっくりと話をするべきだろうな。
色々と、本当に色々とな。
正直コアに話を聞いただけでは、信じられなかった。
なので毛糸玉が確認したのだが、確かに目の前に白帰箱があったそうだ。
見習いの奴らは何をしたかったのか。
そして白帰箱だと判明した瞬間、毛糸玉以外の龍達が焦る。
あの箱は正式な所有者以外が触ると、呪いが発動するようになっているのだ。
だが、毛糸玉が言うには呪いは発動したが、主の力を恐れて砕けたらしい。
正直、意味が分からない。
呪いが力を恐れるなんて、聞いたことが無いからだ。
神が使う神力で作られた呪いは、何をしても防ぐことが出来ない呪詛。
それが、恐れた。
毛糸玉が見たのは、呪詛を施されている蓋が主の新しい力を全力で避け、そして耐え切れず砕け散った光景。
おそらく、もう1つあった白帰箱の呪詛も同じ結果だったのだろうな。
うん、さすが主だ。
だがもう1つ、気になることがある。
それは目の前にいる、小さい上級天使の姿だ。
通常、天使が小さくなることは無い。
それが、どうして小さくなってしまっているのか。
それに……小さくなったとしても天使は天使。
獣人や人間たちのように、幼くなることは無いはずだ。
だが、目の前の天使は幼な子にみえる。
飛びトカゲが確かめたが、自ら立ち上がることも出来ないとか。
もしかして小さくなったことと、関係があるのだろうか?
分からない。
それと意思の疎通が出来ない。
天使はどの種族とも話すことが出来るはずなのだが、念話を送っても届いていないようなのだ。
意味が分からない。
神力や羽から感じる力で、天使である事は間違いないのだが。
「何か分かったか?」
「毛糸玉か、さっぱりだ。何度、念話を送っても届いていない」
「やはり無理か。俺達をここに連れてきた元見習いたちのせいだろうな」
「間違いないだろう。いったい何をしたのか」
主の作ったゴーレムが上級天使の様子を見に来ている。
我らの姿を見ても、一切怯むことなどない態度はさすがだ。
ゴーレムが近づいた事に気が付いたのか、うっすらと目を開けている上級天使達。
その目を見て驚いた。
「あっ!」
「これは……」
隣にいる毛糸玉も気が付いたのだろう。
その上級天使達の目には濁りがあった。
神の使う神力で作られた天使に、濁りなどあって良いはずがない。
俺はゴーレム達の邪魔にならない様に、上級天使達の目を確かめる。
やはり濁っている。
大きいサイズの上級天使の方が濁り方がひどい。
「これは、問題だな」
「あぁ、何かに洗脳されているようだ」
そう、天使の目が濁る時は洗脳された場合のみ。
しかし、上級天使を洗脳するなど、いったいどうやって行ったのか。
もしかして白帰箱だろうか?
確かあれには、記憶を消す事が出来る法術が組み込まれている。
そして新しく記憶を入れ込む法術も。
それを使えば出来ない事はないのか。
組み込まれた法術を、簡単に変化させる事が出来るとは思わないが、出来ないとも言い切れない。
そう考えると、上級天使たちを洗脳しているのは元見習いどもか。
何と言う事だ、いったいどんな内容の命令をされているのか。
これは早急に何か手を打たねばならないだろう。
上級天使たちの力はかなりのモノだし、暴走でもしては大変なことになる。
毛糸玉と頷き合い、他の龍達のもとへ飛び立とうとする。
が、何かに引っ張られて飛び立つことが出来ない。
視線を向けると、ゴーレムが俺の尻尾を掴んでいた。
「えっ、離してほしいのだが」
言葉は通じないので、尻尾を振って手を離すよう促す。
だが、離れない。
少し力を入れて振り回す。
龍の力は強い。
さすがに住処の中で、最大に力を込めることは無いがそれでも強い。
はずなのだが、外れない。
困惑していると、同じ気配が隣からもした。
見ると、毛糸玉も尻尾を掴まれて身動きが出来なくなっている。
どうしようかと毛糸玉と顔を見合わせていると、白い光が視界の隅に映る。
慌てて視線を向けると、上級天使が攻撃をしようとしている姿が。
かなり慌てたが……。
後の成り行きを見て唖然としてしまった。
上級天使達は確かに攻撃をした。
寝かされている場所の天井に向かって。
だが、それを何かがすっと吸収して無効化している。
「毛糸玉。何が起こっている?」
「わかる訳がないだろうが」
尻尾にあった違和感が無くなっているのに気が付く。
見ればゴーレムが手を離したようで、尻尾が自由になっている。
その間にも上級天使の攻撃は続いている。
だが、そのどれもが無効化され続けているので意味をなしていない。
上級天使達がいる場所の上を見る。
クルクル回る……魔石たち。
そこからゆっくりと降り注ぐ、主の力。
力はゆっくりゆっくり、上級天使たちに降り注いでいる。
「これは主の作った魔石だな」
「あぁ、この主の力、清めの力が込められているな。魔力で洗脳って解けるのか?」
「分からない。だが、主の力だからな」
毛糸玉の言葉に、なぜか納得してしまう。
主の力なのだから、洗脳も何とかなりそうだと。
その間も続く上級天使たちの攻撃。
ゴーレム達は、しばらく天使たちの様子を見て、魔石を調べて問題ないと判断したのか部屋を後にした。
上級天使たちは、溜まった力を使い切ったのかしばらくすると眠りだす。
「心配しなくても大丈夫みたいだな」
「あぁ、主の作ったゴーレム達は知っているみたいだしな」
毛糸玉の言葉にうなずく。
対処をしているのに邪魔をしたから尻尾を掴まれたのか。
邪魔をしないよう気を付けていたが、失敗したな。
「主も知っているのかな?」
「ふわふわ、何を当たり前の事を聞いているんだ? 当たり前だろう、ゴーレム達が知っているのだから」
「そうか」
「あっ、だから今日、1体のゴーレムが一緒に行動していたのか」
「そう言えば、一緒に連れて行ったな」
「なるほど、上級天使の対策でか」
さすが主だな。
本当にすごい力をお持ちだ。
俺は自身の周りに意識を向ける。
主の新しい力が身を包み込んでいるのが分かる。
ぽかぽかと暖かく、とても優しい気配を感じる。
大好きな主の気配だ。
「ふわふわ、もう行こうか。他の者達が心配している。この結果を早く報告して安心させてやろう」
「そうだな。主はすごいって事もな」