31.子育て……見つけた
リビングの入り口で、思わず足が止まった。
昨日は、大変だった。
幼い天使を連れて帰って来たのはいいが、泣き止まなくなってしまったのだ。
お腹が空いているのかと思い、柔らかく煮た野菜を食べさせたり、げっぷが必要かと背中を優しく叩いてみたり。
正直、こんなに幼い子供の面倒は見たことが無かったから、どうしていいのか分からない。
これからどうしようと思いながら、疲れもあって寝てしまった。
いつもより早く目が覚め、隣で寝ているはずの天使に視線を向けると……いない!
驚いて、一つ目なら何か分かるかと急いでリビングまで来たのだ。
が、そこで見た光景に足が止まって脱力してしまった。
そこには、一つ目に背負われて笑っている可愛い天使がいた。
一つ目の背中でキャッキャッと、ずいぶん楽しそうだ。
そして隣にいる、もう1体の一つ目が持っている物に手を伸ばしている。
その一つ目の手には、誰の知識? えっ、何それ! と驚いたのはでんでん太鼓。
リビングに響く軽い太鼓の音に顔が少し引きつる。
しかし、本当にその太鼓の知識はどこから持ってきたのだろう?
……いい音だけどね。
一つ目にお願いしたらいいかな~っと考えはした。
だが、さすがに知識が全くないと無理かと判断したのだ。
しかし、どうやら俺の考えはまだまだ甘かったみたいだ。
「おはよう」
一つ目達に挨拶をすると、俺に向かってリビングにいる一つ目4体が少し頭を下げて挨拶を返してくれる。
「ありがとう」
天使の様子を見る。
ぐずることなく、ずっとご機嫌に笑っている。
……俺が手を出さないほうがいいかな?
「赤ちゃんより大きいよな……子天使かな」
うん。
可愛いな。
「「おはよう」」
後ろから、クウヒとウサの声が聞こえる。
手を軽くあげて挨拶を返す。
2人は一つ目に抱っこされている子天使を見て、かなり驚いていた。
そうだよね、驚くよね!
朝ごはんを食べながら、子天使の対応をしている一つ目達の様子を見てみる。
抱き方が俺より確実に安定している。
あ~、おむつも作ったのか。
昨日の今日で、すごい準備態勢だな。
どうやら一つ目達に任せた方が、あの子も安全だな。
俺、昨日落としそうになったしな。
あれは怖かった。
「「「ごちそうさまでした」」」
ウッドデッキに出ると、今日も……相変わらず空に放り投げられている子供達。
特訓だとは分かっているが、あれでいいのだろうか?
何だか最近、皆頑張り過ぎだと思うのだけど。
何かあったのかな?
泣き声が聞こえたのでリビングへ視線を向けると、おむつを替えてもらっている子天使の姿。
ちなみに、男の子ではなかった。
たぶん女の子かな。
天使は無性と言う事をどこかで聞いた事があるが、確かめる勇気はない。
それにしても、一つ目達のあの手際の良さは何なんだろう。
おむつを替えるスピードが異常に早いような気がする。
子と触れ合うの、初めてだよね?
ガタガタと少し音がするので、発生源だと思われるリビングの入り口を見ると。
一つ目の2体と農業隊の1体が何かを運び込んでいるようだ。
木枠の何か……なんだろう?
見ていると、リビングの片隅でそれを組み立て始めた。
あ~、なるほど。
ベビーベッドか、なるほど。
でんでん太鼓を作るほどだもんな、ベビーベッドも作るよな当然。
……そうか、名前は知らないけどクルクル回る玩具も作ったのか、すごいな。
それも、ずいぶんと綺麗な石が……それって魔物の石を俺が小さく加工したモノか。
面白半分で作っておいたけど、役に立ってよかったよ。
あっ、幼い天使も喜んでいる。
「えっ……」
今、幼い天使の手から光が外に向かって飛び出さなかった?
気のせいかな?
ハハハ、気のせいにしたかったが無理なようだ。
と言うか、光を防ぐために魔物の石をおもちゃに利用したのか?
幼い天使が光を発射、即座に魔物の石が光って吸収。
……これって大丈夫なのか?
「一つ目、農業隊、これ大丈夫?」
幼い天使を指して、周りにいる子達に確認。
周りにいた一つ目3体と農業隊1体が、指で丸の形を作ってくれた。
大丈夫だそうだ。
その間も、バンバン光を発射しているけど。
確かに全て対処できているな……正しいかどうかではなく被害が無いなら問題なし!
しばらくすると疲れたのか、天使が寝始めた。
寝顔は可愛いけど、あの攻撃? はちょっと問題だよな~。
とりあえず、天使の事は一つ目達にお願いしよう。
それがきっと俺にとっても、子天使にとっても平和だ。
ところで子天使に名前って付けていいものだろうか?
神様的にどうなんだろう?
ウサとクウヒに服を引っ張られる。
珍しい行動に視線を向けると、外に向かって指をさしている。
誰か怪我でもしたのだろうか?
慌てて外に出ると、なんだか皆が集まっている場所がある。
あそこにあるのは確か、そうだ神力を最終的に集めている吸収石がある場所だ。
「どうした?」
吸収石を見ると……ものすごくデカくなっていた。
考えてみるとそうだよな。
昨日はかなり高純度の神力が集まったはず。
よく破裂せずに持ちこたえてくれたよ。
ゆっくり吸収石に手を当てて、中の神力の状態を確かめる。
ん~問題ないような気がするけど、皆が集まっている理由ってなんだろう。
手を離して様子を見る。
しばらくすると、吸収石がモゾモゾと動き出す。
そして、中からどんどんと叩いているような振動がしてくる。
え~っと。
この中にあるのは神力の力だけのはず。
生きている物はいないはずだ。
吸収石を手に持って、詳しく調べる。
生き物の気配はない。
でも、外に何かが出ようとしているのは確実だろう。
……気持ち悪いな。
あの3バカの事だ、神力そのものに何か仕掛けをしていったのかも知れない。
どうしよう。
動かない様にしたい。
吸収石を本物の石に出来るかな?
……ダイヤモンドってギュッと圧縮されているんだっけ。
あんな感じで石にしてしまえばいいかな。
よし、挑戦!
もう一度吸収石を手でもつ。
神力だから、魔力ではなく新しい力の方じゃないと駄目だな。
新しい力で吸収石を覆う。
どんどん小さく小さく圧縮して、圧縮して、もっと圧縮してダイヤモンドのように。
吸収石の周りを覆った銀色の光が見る間に小さくなっていく。
そして、ふっと消えると手の中に卵ぐらいの大きさの透明感のある珠が出現した。
「よし、成功……あれ?」
手の中にあるはずの吸収石が無い。
慌てて周りを見渡すと、地面に落ちている小さくなった吸収石を発見。
いつの間にか落としてしまっていたようだ。
それを取ろうとすると、ちょうど森から帰って来た魔物の石が吸収石の上に乗り、神力が吸収石の方へ移動する。
……まだ役割があったな、元の場所に置いておこう。
そう言えば、昨日の朝に比べて帰って来る魔物の石が少ないな。
昨日、魔法陣を6個消す事に成功したけど、あれと関係があるのかな?
あっ、忘れるとこだった。
まだ五芒星が隠れている可能性があるから、調べようと思っていたんだったな。
数日前に記憶した森の映像を浮かび上がらせる。
そして光が集まっている場所を確認。
「……あるな。これか」
1つ、五芒星を発見できた。
そして五芒星の中央に当たる場所に、光が集まっている場所も確認した。
此処からは、ちょっと遠い場所だな。
まぁ、頑張りますか。
それにしても五芒星か。
神様とかには何か意味があったりするのかな?
東洋、西洋関係なく使われているマークだよな。
確か……魔除け効果があるとか読んだことがあるな、陰陽道だっけ。
……魔除け効果?
あ~、それは関係なさそうだな。
他には……あっ、小さな空間とか穴とか……あったような。
駄目だ。
意味がありそうな物は思いつかない。
まぁ、意味があろうがなかろうが潰す。
徹底的に潰す。
あ~、もしかしたらまた骨の結界があるかもしれないな?
……覚悟しておこう。