27.新しい力の熱?……のんびりと
胸の辺りの違和感に、目が覚めた。
体を起こすが、どうも体の動きが鈍く感じる。
「風邪かな?」
風邪薬など、ここには無いぞ。
手を額に当てるが、熱は無いようだ。
なんだろう、体の中の一部分が熱いような気がする。
変だな。
「風邪? 魔法で治るかな? ヒール」
ふわっと白い光と紺色の光と銀色の光が、順番に体を包み込んで消えていく。
「……なんだ、今の」
体は軽くなったが、力がおかしな事になっていないか?
昨日までは、魔力で黒い光だけだったはず。
だが、今の……紺色の光と銀色の光ってなんだ?
あ~、そうだ思い出した。
昨日から、新しい力を手に入れたんだっけ?
それの影響か。
……お腹すいた。
後で考えよう、腹が減ってはって言うし……。
昨日は精神的な疲れで、あまり食べられなかったからな。
1階に下りてリビングに入る。
クウヒとウサが驚いた顔をしている。
……まぁ、久々に起こされる前に起きたからな。
何だか、大人として駄目だよな~。
でも、どうやったら起きられるようになるんだ?
目覚まし時計もないのに。
いや、目覚まし時計があっても起きられなかったけど……。
「おはよう。クウヒ、ウサ」
「「おはよう」」
朝からいい笑顔だ。
随分と自然に笑えるようになったよな。
リビングからウッドデッキを見る。
コアとチャイが、仲良く日向ぼっこ中だ。
……あの2匹って、何気にいつもいちゃついているよな。
まぁ、仲がいいのは良い事だ。
その少し離れた広場から、砂埃が上がっている。
また、誰か訓練中なのかな?
あれ?
今、誰かが飛ばされたように見えたけど。
あぁ、親玉さんがアイの子供達と特訓しているのか。
すごいな、子供達も随分と大きくなったのに、あんなに簡単に放り投げられて。
そう言えば、攻撃方法を学ぶべきかと考えていたんだよな。
広場に目を向ける、跳ね飛ばされる……あれはシュリの子供達か。
あ、親玉さんの子供達も吹っ飛ばされてる……あの特訓に参加するのか?
ハハハ……いや、無理だろ。
少し視線を横に動かすと、魔法で攻撃し合っている大きいほうの犬の子供達の姿が見える。
あっ、シュリが参戦した。
……視線を空に向ける。
「いい天気だな。うん」
雲ひとつない綺麗な青空が広がっている。
気持のいい1日になりそうだ。
舞い上がった砂埃とか、光がぶつかって出る火花とか視界にちらちら入るけど、気にしない。
攻撃方法はきっと違う方法でも学べるはずだ、あれに参加しなくても。
青空に、投げ飛ばされた親玉さんの子供の姿が入り込む。
……親玉さん、容赦がないな~。
「朝ごはん、出来た」
ウサの言葉に視線を向けると、机に並べられた、焼きたてのパンとサラダ。
そして熱いお茶。
一つ目達は、頼りになるな。
「「「いただきます」」」
それにしても、ウサとクウヒの日本語は随分と上達しているな。
意味は感覚的に理解しているようだし。
頭がいいのかな。
それに比べて俺は……。
食事中の2人の会話に耳を傾ける。
ん~、やっぱりこっちの世界の言葉は聞き取れない。
どうしてだろうな。
「「「ごちそうさまでした」」」
ウッドデッキでお茶を飲んで、ちょっと小休止。
今日は昨日の続きで、あの洞窟の調査だな。
帰り際に、ものすごく気になる物が出現したし。
それにしても、死んでも利用するなんて最低だな。
他の場所にも、彼らのように捕らえられた者達がいるのだろうか?
「ん?」
なんだろう、体の中に違和感がある。
部分的に熱いような?
起きた時も似たような熱を感じたな。
もしかして、新しい力が影響しているのか?
胸に手を置いて、そっと体の中の力を感じとる。
魔力の方は問題ないが、新しい力の方に違和感があるな。
……どうすればいいんだ?
しばらく様子を見守ると、ゆっくりと違和感が消えていく。
熱も収まったようだ。
まだ、新しい力が体に馴染んでいないのかな?
と言うか、大丈夫だよなこれ。
まぁ、既に体の中にあるモノだから、どうすることも出来ないしな。
それに、奴らの力に対抗できるのはこっちの新しい力だし。
無くなると困る。
違和感や熱は、今の所すぐに落ち着くし問題ないだろう。
よし、新しい力は俺にとって必要な力なので、早く体になじめよ。
あ、特訓が終わったみたいだな。
……親玉さん、なんだか機嫌がいいな。
周りは、あ~、まぁ大きな怪我がなくてよかったよ。
攻撃方法か……。
前に見た、獣人達は腰から剣を下げていたな。
という事は、剣道?
いやいや、素人が出来るものではないよな。
教えを乞う人もいないしな。
棒を振り回せばいいと言う物ではないだろう。
ん~駄目だ。
何も思い浮かばないな。
……そう言えば、以前も同じことで悩んでいないか?
まぁ、いいか。
成長していないとか思ってない!
さて、そろそろ昨日の気になる物を調べに行きますか。
「よし!クウヒ、ウサ出かけて来るな。行ってきます」
「「行ってきます」」
「行ってらっしゃい……だな」
「いってらっしし?」
「いってらっ、いし?」
ハハハ、行ってらっしゃいはまだ言えないのか。
顔を見合わせて何度も練習する姿は、妹の小さい時を思い出すな。
……小学生の時までは可愛かった。
中学に上がって、ラノベ? ってものに嵌ってからは、ちょっと怖かったよな。
いや、可愛い妹に変わりはなかったけど。
外に出るとコアとチャイがすぐに走り寄ってくる。
2人を撫でて、少し体をほぐしてから森の中へ。
親玉さんは、今日は不参加かな?
ん?
あぁ、今日は水色がお供か?
と言うか、今日はまた可愛いサイズだな。
1mぐらいにまで小さくなれるのか、すごいよな。
この子よく、小さいサイズになって布団にもぐりこんでくるんだよな~。
そんな日の翌日は、龍達全員で空を飛び回っている。
あれって何か意味があるのかな?
まぁ、仲がとても良さそうだから問題ないだろうけど。
森を疾走し、昨日の洞窟に到着。
周りを見るが変化はないな。
洞窟の出入り口に立つが、少し入るのに躊躇する。
昨日最後に見た物を思い出したからだ。
昨日、骨の山が崩れさり紺色の力が俺の中に消えてしばらくすると、岩の一部が光って扉が出現した。
正直、あの扉の後ろにまた骨の山でもあるのかと想像して、げんなりした。
で、扉を開けずに家に戻った。
もう一度、あの呪いの声を聴く気力がわかなかったのだ。
あの呪詛は、精神を擦り減らすモノだ。
俺はホラーは嫌いなんだ!
扉を開けたら、また骨の山と呪詛が始まるのかと考えると憂鬱だ。
と言っても、もしまだあるなら何とかしたいと言う思いもある。
大きくため息をついて、洞窟の中に入る。
何だか、昨日より空気が澄んでいるような気がする。
気のせいかな?
先ずは扉の様子を確認するか。
骨の山があった空間まで行くと、見える扉。
豪華な両扉だ。
……消えてくれていてもよかったが。
って、違うな。
消えていたら、それはそれで問題だ。
扉の前に立ち、様子を見る。
「やたら豪華な扉だな、意味があるのか?」
随分と手の込んだ装飾がされている、宝石まで埋め込まれている。
とりあえず、開けてみるか。
扉の取っ手を持つ。
何か飛び出して来たら嫌だな~。
「よし」
腕に力を入れて、扉を開ける。
鍵はかかっていなかったようで、じーっという音と共に扉が開く。
ふわっと風が舞い、中の様子が視界に入ってくる。
骨の山ではなかったが……。