24.呪詛……力の変化
青い炎を見ていると、この場所から逃げ出したくなるような気持ちになる。
不思議に感じていると、コアの体が後退して俺にぶつかって来た。
驚いてコアに視線を向けると、コアも不思議そうに俺を見つめてくる。
その横でチャイが後ろに数歩、後ずさった姿が目に入った。
周りを見ると親玉さん達やコアの子供達も炎を見ながら、徐々に後ろに後退している。
様子がおかしい、操られている?
頭の中で、人形を操る糸を想像し、その糸を銀色の力で切るイメージを作る。
「誘導拒否!」
ふわっとした風が通り過ぎると、仲間達の体が一瞬ビクっとなった。
皆、キョロキョロと視線を彷徨わせている。
元に戻ったみたいだな、よかった。
にしても、結界を施しても神力による魔法は完全には防げないのだろうか?
それとも、この青い炎が特別なのか?
そう言えば魔法って魔力を使うから魔法なのか?
神力の場合は……神法?
って、今はそんな事を気にしている場合ではないか。
そもそも神力って勝手に判断したが、本当に神力なのかもわかっていないしな。
魔力に神力なら銀色の力は何だって事になるし……後で考えよう。
気を取り直して、骨の山に近づく。
すると、青い炎の勢いが増す。
《くるしい……にくい……》
ん?
なんだ?
何処からともなく、日本語で今にも消えてしまいそうな声が聞こえてきた。
《たすけて……ままぱぱ》
《やめて……こわいこわいこわいこわい》
小さな女の子が両親を求める声、恐怖で震える声など次々と聞こえてくる。
おそらくここで亡くなった、被害者たちの声なのだろう。
やるせない気持ちになり、グッと拳を握りしめる。
《いたいいたいいたいいたい》
《《《《《あ゛~~~~》》》》》
「ぅわっ」
いきなり何十人もの苦しそうな声が響きわたった。
「呪詛みたいだな」
胸が押しつぶされそうだ。
青い炎がまた勢いを増して、天井まで届きそうな勢いになる。
ずっと空間に響いていた声が、消える。
少しホッとするが
《《《《くるしいくるしいくるしくるしいくるしいくるしいくるしいくるしい》》》》
次に聞こえた声は、どの声も苦しさを訴えるものになった。
まるで今も苦しんでいるような印象を受ける。
「まさか……まだ、解放されていないのか?」
死者を閉じ込める事なんて、出来るのだろうか?
あの馬鹿どもなら、自分たちの利益のためなら何でもするだろうな。
神様の世界に禁術とかあるなら、平気で手を出しそうだ。
《《《《くるしいくるしいくるしくるしいたすけてたすけてたすけて》》》》
《おわらせてだれか……おわらせて》
こちらの気配でも感じているのだろうか?
男性の苦しそうな声が、終わりを求める声に変わる。
落ち着け、声に引きずられて落ち込んでいたら駄目だ。
「ふぅ~、どうすれば解放出来るんだ?」
気持を切り替えて、青い炎に包まれている骨の山を見る。
炎を消せば、解放されるのか?
青い炎に手を翳して、炎が消えるイメージを作り、銀色の力で魔法を発動させる。
「消えろ」
……ダメか。
少し炎は揺らいだのだが、消えることなく逆に勢いが増してしまった。
苦しむ声に叫び声が混じりだす。
心が痛む。
ふぅ~、引きずられるな。
この青い炎の力は、何を元にしているのだろう?
あいつ等が作った物だと判断して、神力だと思ったのだが……調べてみるか。
不意にコアとチャイが体をすり寄せて来る。
気が付くと親玉さん達やコアの子供達もそばに来ていた。
日本語は通じていないだろうが、恐怖や苦しみは感じるのだろう。
「大丈夫」
皆の頭を撫でて落ち着かせる。
もう一度、青い炎に視線を向けようとして、床に転がる頭蓋骨が目に入る。
そう言えば、頭蓋骨を1つ骨の山から取り出したのだった。
青い炎に驚いた時に、落としてしまっていたのか。
床に転がる頭蓋骨を手に取る。
なぜ炎が出ていないのだろう?
たしか、これを持つ時に結界が発動したな。
銀色の力で作った結界が青い炎を防いだのなら、あの力は効果があると判断出来る。
でも、炎を消すことは出来なかった。
……銀色の力ってよくわからないな。
って、今はそれよりも、やるべき事をやろう。
とりあえず青い炎に手を翳して力を調べる。
あれ、神力と同じモノだ。
あぁ、でも今までの神力とは、けた違いの力強さだ。
銀色の力を強力にしたら、炎を消せるのだろうか?
だが失敗すれば、苦しみが増してしまう。
そもそも、消すことが正解だとも分からない。
あ~どうしよう。
いったん頭を整理しよう。
神力で、彼らを苦しめる魔法が発動しているんだよな。
神力を変化させたら、そうだ、俺が扱える力に変えたらいいのでは?
銀色の力に変えてから、解放したらいい。
出来るかな?
まぁ、やるしかないな。
青い炎に手を翳して、膨大な量の魔力を銀色の力に変えるイメージを作る
次に神力が銀色の力に変化していくイメージを作り、魔法を発動。
「銀色の力にチェンジ」
翳している掌から、青い炎に向かって銀色の力が注ぎ込まれる。
神力が反発しているのだろうか、翳している手にピリピリとした痛みが走る。
青い炎が揺らめき俺に向かって来ようとすると、俺の体から銀色の光が大量に溢れ出し、青の炎を包み込んだ。
その量に驚いていると、青い炎の色が深い紺色に変わる。
そしてずっと続いていた声が止む。
……成功したのかな?
それにしてもすごい量だったな。
……魔力がすごく減ったという感覚は無いな。
あれ?
俺の中に、魔力以外の力を感じるような気がする……銀色の力か?
ん?
溜められる様になったのか?
……そんな事出来るものなのか?
あ~、あとで考えよう。
今は、目の前の骨の山を包み込んでいる深い紺色の炎。
これが俺に扱えるかどうかだな。
とりあえず、痛みに苦しんでいた声が気になる。
それを何とかしてやりたい。
「ヒール」
深い紺色の炎がふわっと銀色に光る。
声が聞こえないので、効果が分からないが出来た事にしよう。
次に、糸に絡まった光を解放するイメージと、光が地球に帰るイメージを作る。
本当に帰れるのか、不安はある。
だが、今俺に出来る事はこれだけだ。
「解放」
炎がゆらゆらと揺れて、小さい銀色の光が上空へと浮かび上がり、しばらくするとスーッと消えて行く。
《かえれる》
《かえれる》
《ありがとう》
《やっと、おわれる》
様々な声が聞こえては消えて行く。
そして骨の山が少しずつ砂となって消えて行く。
手に持っていた頭蓋骨も、ふっと砂になり消えてしまった。
成功したようだ。
地球に帰れたかどうかはわからないが、信じよう。
「ふぅ~、疲れた」
仲間達もどことなく疲れているようだ。
今日はもう、帰ろうかな。
視線を骨の山のあった場所に移して……固まる。
紺色の炎が、消えずに空中に浮かんでいる。
その炎が近づいて来たと思ったら、俺の中に吸収された。
「………………えっ!」
何が起こったのだろう?
慌てて、体内の力を調べる。
いつも通りの魔力を確認できたのでホッとする。
が、もう1つ先ほど見つけた銀色の力を確認すると、変化しているのを感じた。
……疲れたな、今日はもう帰ろう。
そしてゆっくり寝よう。
そうしよう。