23.堕ちた見習い
-落とされた見習いの1人-
なぜだ?
なぜこんな事になった?
俺は、見習いの中でも一番神に近い力を持っていた。
それなのに、俺には神になる資格が無いだと?
下級神の分際で、俺の何がわかる!
あいつら、許さない。
下級神など、星の管理しかできないくせに。
俺は星を誕生させることが出来たのだぞ。
しかも上級神にしか許されていない、召喚法術もあと少しで成功だった。
それなのに、邪魔しやがって。
下級神、俺がこんな場所で何時までも大人しくしていると思うなよ。
怒りを、大きく息を吐くことで抑え込む。
現状を打破するには、神力が必要となる。
落とされる前に神力も、神力を溜める核も奪われたが、隠しておいた核は守ることが出来た。
核に溜まっている神力を調べる。
必要な力の半分ほどがたまっている。
くそっ、まだ半分か。
落ち着け、此処で失敗は許されない。
弟も言っていただろう、「少し耐えてくれ」と。
半分は溜める事が出来たのだから、あと少しの辛抱だ。
自らの手で生み出した星を思い出す。
今頃あの星が、俺のために神力を集めているはずだ。
神力がある程度溜まれば、それぞれの魔法陣が動き出す。
森の結界が破られたのは痛いが、龍が森から出る事は考えにくい。
それは、他の魔物にも言える事だ。
今頃はきっと、魔法陣が動き出して次の準備に取り掛かる頃のはず。
監視者の神が来たとしても、どうせ下級神だ。
あいつ等なら、俺の力で操れるはず。
星に関われば関わるほど、徐々に浸食されるように細心の注意を払ったのだ。
下級神ごときにばれるはずがない。
核に神力がたまり、魔法陣すべてに神力が満たされれば、転移魔法陣が発動する。
そうなれば、俺はあの星に帰る事ができる。
星に行ってしまえば、力を取り戻すことはたやすい。
そのための準備もして来たのだから。
あと少しだ。
そう、あと少し。
本来の力を取り戻したら、俺を落とした奴らを消してやる。
ふぅ~落ち着け。
今ここで怒りを爆発させても仕方ない。
弟にも、「熱くなりすぎるな」と注意されているからな。
今は、星が神力を集めている光景を思い描いて待つとするか。
森に居るモノ達も、俺の存在を待ちわびているだろう。
……そう言えば、召喚法術で落とした人間が生きていたな。
あれは、どうなったんだ?
というか、なぜ生きていた?
何度理由を聞いても教えてくれなかった。
そうだ、なぜあれは生きていた?
召喚法術での多くの経験から考えれば、俺達が手を離したのだから死ぬはずだ。
死ななくとも、五体満足で星にたどり着けるはずがない。
召喚法術は星に体の一部を付けるまで、導く必要がある少し手間のかかる法術だ。
それを知らなかったために、どれだけ時間が無駄になったか。
召喚するものが、ことごとく欠損状態だったのは苦い経験だ。
なのに、あれには欠損部分が無かった。
ただ、なぜか違和感を感じたのだ。
そうだ、人間という存在に違和感を感じた。
……いや、気にすることは無い。
あの星に居る以上、既に俺の指示に従っているはず。
それは間違いない。
だから大丈夫だ。
-落とされた見習いの1人-
兄は大丈夫だろうか?
プライドの高い人だから、無茶をしなければいいが。
もう1人は、おそらくもういないだろう。
あれは俺達の中で一番心が弱かった。
召喚法術が失敗続きで、かなり焦っていたからな。
そうだ、勇者召喚の時だってあいつが馬鹿みたいに騒がなければ、失敗してもばれなかったはず。
あんなに大騒ぎするから、見つかったのだ。
確かに、今までの失敗と違った為焦りはしたが、大騒ぎするほどの事ではない。
あいつが大騒ぎしたから全てが大きく狂いだした。
もし死んでいないのだったら、見つけ出して消してやる。
それにしても、こんな底辺に落とされるとは、まったくもって不愉快だ。
下級神どもが、どんなバカな判断をしたらこうなるんだ。
きっと彼らだけで判断を下したのだろう。
そうでなければ、兄と俺がこんな地位に落とされるわけがない。
俺達の事が上級神の耳に入れば、彼らこそ地位を落とされるだろうに。
体の中に溜めている神力を調べる。
もう少しで半分になるぐらいか。
思ったよりも、うまく溜める事が出来ている。
兄は問題ないと言ったが、もしもの時を考えて予防策を施しておいてよかった。
星の準備がどれぐらい進んだか、調べられないのが心配だが、準備は完璧にしておいた。
きっと問題なく進んでいるだろう。
俺は、ただここで準備が完了するのを待つだけだ。
そうすれば、俺達は星に転移される。
ただ気になる事がある。
召喚法術は失敗したはずなのに、生きていたあの人間の事だ。
途中で手を離し、わざわざあの星に落としたのに、なぜか生きていた。
どうやって生き延びたのだ?
どう考えても分からない。
勇者召喚も通常の召喚も、手を離したら失敗した。
生きているはずがないのだが……。
ふぅ~、此処で考え込んでも答えは出ないか。
まぁ、今は俺達の手先となって動いているだろうからな。
星に帰ったら、調べればいいだろう。
兄もきっと気になるはず。
解明できれば、召喚法術を完璧にマスターできるはずだ。
そうなれば、上級神になれる。
俺達に不当な判断を下した奴らを、今度は俺と兄が底辺に落としてやる。