17.火龍 毛糸玉
-火山に住む火龍の毛糸玉視点-
毛糸玉と言う不思議な響きを持つ名前を主にもらった。
響きが気に入ったので、他の名前でも呼ばれたが頑として譲らなかった。
毛糸玉、良い響きだと思う。
……意味は分からないが。
復活した火山に魔力を行き渡らせている時、森の中をフェンリルの王であるコアの混濁した魔力が駆け抜けた。
マグマの中に横たえていた体を急いで持ち上げて周りを見回す。
精霊達も気がついたようで随分と騒いでいる。
何が起こった?
コアの魔力からは不安や苛立ち、混乱、恐怖など様々な物を感じた。
異変が主の住処だと分かり、急いで空を駆ける。
途中で氷龍のマシュマロと風龍の水色が合流する。
風の精霊達も多数ついて来ているようだ。
森の中では川を泳ぐ水龍のふわふわと川の精霊たちが見える。
主のもとへたどり着いた時、その光景に動きが止まった。
主にもっとも信頼されているコアが、主を襲おうと牙をむいていた。
何が起こっているのかは分からなかったが、怒りがこみ上げる。
主に対して何という事を!
コアに襲いかかろうとした瞬間
「やめろ!」
土龍の飛びトカゲと糸を操るアルメアレニエに体を拘束される。
アルメアレニエの糸で体をぐるぐる巻きにされ、飛びトカゲには上から抑え込まれる。
「なぜだ!」
「冷静になれ! 操られておる!」
その一言に頭が冷えた瞬間、主の魔力が住処全体に広がった。
優しくそして力強く、何より澄んだ綺麗な魔力。
その魔力が俺の体全体を覆うように移動するのを感じ、結界が新たに張られた事に気がついた。
次の瞬間、体の中から俺の魔力とは異なる小さい何かが消える感覚に愕然とした。
今まで感じていなかったが、俺の体の中に何か異物があったという事か?
なぜ気が付かなかった?
周りを見ると、仲間達も困惑した様子。
つまり全員が気がついていなかったという事か。
もしこれがコアを操った原因だとしたら、主を襲うのがコアとは限らなかった事になる。
「魔眼魔法など感じなかったぞ」
俺の言葉にうなずく仲間達。
体から糸が外される。
主を見ると、コアの頭を撫でている姿が見える。
コアの魔力はまだ不安定に揺れているが、先ほど感じたような混濁したモノでない。
おそらく主を襲った事がショックで、魔力が安定しないのだろう。
チュエアレニエの親玉さんが子のアルメアレニエ達に森を調べるように指示を出している。
風龍の水色も風の精霊に森を調べさせるようだ。
主が集まった仲間達を確認して回っている。
俺の前に来た主は、ゆっくりと俺の頭を撫でてくれる。
優しい、穏やかな魔力が流れ込む。
主の手に顔をすり寄せると、楽しそうに笑ってくれた。
他の仲間達も同様に少しずつ甘えているようだ。
「毛糸玉、地下を頼めるか?」
「もちろん」
アンフェールフールミのシュリの言葉に大きく頷く。
地表に近い地下はシュリとその子供アビルフールミ達が調べるだろう。
俺はその下のもっと深い場所を調べよう。
マグマの流れに魔力を流せば、異変がある場所はすぐにわかるはずだ。
…………
フェンリル王のコアの状態が落ち着いたと知らせが来た。
落ち込みがそうとう酷かったと聞いていたので、よかった。
火山の頂上から森を見つめる。
ここ数日、火の精霊達に地下を調べさせているが成果は出ていない。
他の仲間達も森をくまなく調べているようだが、原因を発見したと言う報告は無い。
まさかここまで何も分からないとは。
どういう事なんだ?
「はぁ、少しでも何か分かればよかったが……」
主に会いたい。
住処に行こうと体を浮かそうとした直後、森を覆うように主の魔力が覆い尽くす。
「えっ!」
その膨大な魔力は今まで主が使ってきた比ではない。
森を覆い尽くした魔力が、ゆっくりと下へ降りてくる。
その圧倒的な魔力に呆然としたが、体を通り過ぎた所で慌てて住処へ飛ぶ。
あれ程の魔力を一気に使ってしまうなど。
いくら主でも死んでしまう!
何があった?
住処に着いた頃には、主の魔力は地下に染み渡る様にして消えていた。
すぐに仲間に囲まれた主を発見したが、その魔力はかなり消耗し残り少なくなっている。
急いで住処に降りようとするが、森の入り口あたりに何かを感じた。
仲間達も感じたようだ。
「俺が行く」
一言声をかけて、違和感を感じた辺りへ飛ぶ。
下の様子を見ながら飛んでいると、森の入り口に多数の人を発見した。
どうやら森から出て行くようだ。
だが、俺が近づくとなぜか立ち止まって周りを見回している。
様子を見るため上で旋回すると、上を見て固まってしまった。
しばらく見ていたが、害はないと判断して住処へ戻る。
今は、あれよりも主の様子が気になる。
それに風の精霊と、水の精霊が監視している。
問題があれば、すぐに報告されるだろう。
住処に近づくと主の魔力を感じる。
どういう事だ?
失われた膨大な魔力は、簡単には補充されないはずだが。