13.チュエアレニエ 親玉さん
-巨大に成長した蜘蛛の親玉さん視点-
主より頼まれた食べ物を持って、住処の一室に入る。
そこには、眠りについているコアがいる。
寄り添っているチャイが、我に気がつき視線を向けるがその様子は落ち着いている。
ここ数日、コアは主を襲った己を許せない様子で随分と苦しんでいた。
だが、ようやく気を落ち着けることが出来たのだろう。
乱れていた魔力も収まっている。
数日前、コアがいきなり主に襲いかかろうとした。
いや、あれは何かに操られていたと言ったほうが正しいだろう。
あの状態には見覚えがある。
魔眼魔法で操られた、かつての仲間に似ていた。
だが魔眼魔法の魔力は感じられず、他の種の仲間達同様に困惑して対処できずにいた。
主はすぐさま、あらたな結界を作りだし、すべての仲間をその結界で包み込んだ。
結界によって自我を取り戻したコアの落ち込み様は凄まじく、見ているこちらも苦しかった。
結界が体の隅々までいきわたると、違和感があることに気がついた。
わが身の事ながら、違和感を全く感知できていないとは……。
おそらくこれが、操るための何かなのだろう。
他の森の王達も同じ状態だったらしく、一歩間違えればコアのように主を襲っていた可能性がある。
気を抜いていたわけでは無いのだが……。
しかしあれはなんだったのか。
感じた違和感は、結界が一瞬のうちに消したので魔力を調べる事は出来なかったが、魔眼魔法の魔力は一切感じなかった。
しかし、何処かで感じた事があるような気配を、微かにだが感知する事が出来た。
だが、それが何処でだったのかが思い出せない。
ふぅ~、我の記憶も役に立たんな。
主はコアの状態をかなり心配している様子だったが、コアが落ち着けば主の心配も少しは減るだろう。
だが、何が起こっているのか分からない以上、安心は出来ない。
我が子達に森の変化を調べさせてはいるが、今のところ原因はわかっていない。
主が不安になるような事が起きなければよいが。
そう言えば主はここ数日何かを考え込んでいる、無茶をしなければよいのだが。
…………
森へ行っていた子供達が戻って来た。
森に流れる魔力に問題は見つけられなかったようだ。
だが、種の違う魔物が10匹ほど集団となり、この住処に向かっていたらしい。
種の違う魔物が集まる事はあり得ない。
我が子達もおかしいと感じ、住処かには近づけさせまいと仕留めてきたようだ。
だが調べる必要があると感じ、1匹だけ生け捕りにしたと報告された。
我が子ながらいい判断だ。
話を聞き終えると、急いで捕獲した魔物の所に移動する。
一緒に話を聞いていた、シュリとフェンリル達も一緒に来るようだ。
紐にぐるぐる巻きにされたキラーラグが転がされていた。
目の前に立つと、怯えることなく威嚇してきた。
ふわふわが異変を感じて空から下りて来たが、その姿を見ても萎縮することなく威嚇を続けている。
「こいつ、おかしい」
ふわふわは威嚇されて少し驚いている。
それはそうだろう、キラーラグは森の中でも弱い魔物だ。
この程度の魔物の場合、龍の覇気は恐怖となり萎縮するのが当たり前。
だが、目の前のキラーラグは怯えるどころが威嚇を続けている。
「操られておるのだろう」
「魔眼魔法の魔力も他の魔力も感じられないが」
ふわふわが言うように操られた状態にもかかわらず、キラーラグの本来持っている魔力以外に、違和感のある魔力を感じない。
何らかの力が影響している場合は、確実に魔力を感じる事が出来るはずなのだが。
シュリとフェンリル達に視線を向けるが結果は同じだったようだ。
足を大きく振り上げて、威嚇を続けているキラーラグを仕留める。
力なく倒れ込む体を火に包み灰にする。
こんな奴は見たくもない。
原因が分からず苛立つ。
ただ、森の魔物を全て操られると少し厄介なことになる。
早急に何か手を打つ必要があるが……。
それにはやはり、原因が何かを知る必要がある。
感知できない魔力などあるのだろうか?