11.エンペラス国 第1騎士団団長 2
-エンペラス国 第1騎士団 団長視点-
「見つけたぞ!」
声を荒げ、部屋にノックも無く入ってきたのは親友で第4騎士団の団長ミゼロストだ。
「ノックをしてくれ」
とっさに手にしていた剣を見せながら声をかける。
落ち着きつつあるが、いつ襲われるのか分からない状態なのだ。
間違って剣を抜いてしまうかもしれない。
「あっ、悪い。……えっと、第3騎士団の団長とギハルド公爵を見つけた」
「何処にいた?」
「森に一番近い町、トトロスの領主に匿われているようだ」
森に一番近い町か。
あそこは森の異変に一番気づけたはずだが……。
王都に一番遠い町のため、奴隷解放と森の異変が結びつかなかったのか?
そう言えば、もう1つ既に問題になっている町も森に近い所だったな。
言い方を変えれば、王都から離れている町になるのか。
森の異変の数日後に王都の異常が伝えられても、森が原因だとは思わないか。
情報の通達が、うまくいっていないな。
「ふぅ~、さてどうするか」
「魔石を盗んだ罪で捕まえる事は出来るぞ」
「わかってはいるが……」
エンペラス国には今、王という存在がいない。
俺が暫定的に王の代理として仕事はしているが。
「いい加減、王として立てばいいのでは?」
「……」
王の死後、王妃か子供をトップとして立てるつもりだったが、まさか誰1人残っていないとは。
いや、居るにはいるが……彼女には無理だ。
心が壊れてしまっている。
「いい加減に覚悟を決めろ」
「……そう簡単ではないだろう」
「そうか?今の宙ぶらりんの状態よりは良いだろう」
「彼らが何と思うか」
「……元奴隷達は問題ありませんが……」
「「え?」」
部屋の扉がいつの間にか開いていて、元奴隷で今は俺の補佐をしてくれているガジーが立っていた。
ガジーに会うのは久しぶりだ。
ずっと村や町にいる、元奴隷達の説得に奔走してくれていた。
ガジーは城に居た大人の奴隷の1人だった者だ。
元奴隷の中では最初の協力者でもある。
魔石に小さなヒビが入ったという話が城に流れた後、ある仕事で奴隷と行動を共にすることがあった。
その時に出会ったのがガジーだ。
ガジーに出会った時、違和感を感じた。
最初はその正体に気が付かなかったが、見つめていると不自然に視線が動いていることに気が付いた。
そして、俺と視線が合うと慌てて逸らしたのだ。
驚いた。
意識を封じられている奴隷が、視線を逸らすとは考えられない。
周りに悟られないように、彼と話すチャンスを作り話しかけて確信した。
しゃべることは出来ないが、意識が戻っていると。
何度か彼を指名して、仕事と称してつながりを持っていく。
いつしかガジーがしゃべれるようになり、他の奴隷達も意識が戻りつつあるとわかった。
その間に起こり続ける森からの攻撃で、魔石はどんどんぼろぼろになっていく。
迷いはあったが、少しずつ進めていた事を一気に加速させた。
ガジーや他の意識が戻った奴隷達に密かに本や地図を渡し、逃がすための準備を進めた。
奴隷達に手を出すと森からの怒りが落ちると噂が流れて、思いのほか事が早く進んだ。
その間に俺は王を討つための準備を始める、失敗は許されない。
だが、失敗した時の事を考えてガジー達に協力は求めなかった。
あの日、王を討とうと動いた日。
逃げたはずのガジー達が、当たり前のように俺の元に集まってくれた。
そして今も各地に赴き元奴隷達をまとめあげ、俺の手助けをしてくれている。
「どうかしましたか?」
「いや、なんでもない。報告は上がっている、ご苦労様」
いつの間にか昔を思い出していたようだ。
ガジーの声に意識を戻す。
ガジーが赴いた村や町の元奴隷達は比較的落ち着いていると報告が上がってきている。
本当にありがたい。
「それで、いいと思うとは?」
「団長が王になる事ですが」
「いや、さすがに反発があるだろう?」
「ありません。いつ王として立つのかと話しているぐらいですので」
祖父の日記から森を知り獣人たちの事を知っていたため、酷い行為はしてこなかったが。
それでも奴隷達を森へと連れて行って、連れて帰って来られなかった事もある。
王の命令と言えばそうなのだが……。
「いい加減諦めろ」
ミゼロストはにやにや笑っている。
正直ムカつくな、他人事だと思いやがって。
だが、正直そろそろ本気で王を決めなければ国の方向性も示せない。
他国に隙を与えている事も、問題だ。
「はぁ~、貴族たちの反発はデカいだろうな」
「仕方ない事だろう。それは」
大きなため息がこぼれる。
まさか、俺が王に……ミゼロストでも?
視線をミゼロストに向けると、思いっきり首を振られた。
「無理だぞ。騎士達からも協力者たちからも反発される。殺される未来が見えるわ」