07.エンペラス国 第1騎士団団長
-エンペラス国 第1騎士団 団長視点-
エレガリ町の最終報告を確認する。
死者数 847人(元奴隷含む)。
行方不明者数 141人(元奴隷含む)。
怪我人 多数。
ため息をぐっと耐えながら、報告書から視線を上げる。
目の前には第2騎士団団長アルトローグと副団長ビスログがいる。
「ご苦労様。かなりの強行軍での移動だったはずだ、疲れただろう」
「いや大丈夫だ。今回のエレガリ町の事は、すでにほかの町や村にも広がりつつあるが、どうするつもりだ?」
「……何もしない。卑怯な方法だが、今はそれ以外に思いつかない」
「わかった」
「あぁ、アルトローグ団長、しっかり休憩してくれよ。部下達のためにも」
「……わかった」
俺の言葉に、副団長がホッとした顔をする。
この言葉を言っておかないと、このアルトローグ団長はすぐに他の仕事に向かってしまい、部下達の休憩を忘れてしまうのだ。
忘れると言うか、自分が大丈夫だから部下も問題ないと考えるらしいが……彼の部下達にとってはたまったものではない。
彼らには以前、同じ任務に就いている時に泣き付かれた事がある。
今も副団長の顔を見て、苦笑いがこぼれる。
2人が部屋から出ていくのを見送り、大きなため息がこぼれた。
今、エンペラス国は混乱の真っただ中にある。
その犠牲となったのが報告にあったエレガリ町だ。
町の住人と元奴隷達との争いが起きて、町が崩壊したのだ。
エレガリ町についた第2騎士団が見たのは、炎に消える町だったそうだ。
町で抗争ありと部下から連絡があり、すぐに第2騎士団に動いてもらったが間に合わなかった。
1つの町が崩壊するのに、たった2日だったという。
元奴隷達は町や村を支える、裏の仕事を押し付けられていた。
町の何処をどう潰せばいいのかを一番知っていると言ってもいい。
そんな彼らと、今まで苦労をせず過ごしてきた者達が、争って勝てるわけがない。
最初から結果が分かっていたため、第1騎士団の団員を各地の村や町に回してトップを説得してきたが……。
犠牲が出なければ、やはり理解は難しかったようだ。
だが、犠牲が多すぎる。
今この国では各地で奴隷解放に対し反対の声が上がっている。
だが、このエレガリ町の事が広がれば、おそらくその声も少しの間だけでも、落ち着くだろう。
その間に、何か手を打たなければ、また多くの被害が出てしまう。
……どうすれば、いいのか。
……
部屋の入り口が勢いよく開く。
驚いて視線を向けると、慌てた様子の第3騎士団副隊長クルビアビスが駈け込んで来た。
「魔石が!……魔石の一部が盗まれました!」
その言葉に息を飲む。
もしもの事を考えて、魔石の護衛を第3騎士団にお願いしていたのだが。
「申し訳ありません。団長が……」
あぁ、第3騎士団の団長ヴィルトアは、確かに少し不安があった。
だが、人手が足りずその事に目をつむってしまったのだ。
「すまん、俺のミスだ」
第3騎士団の中は、団長寄りと副団長寄りで2つに割れてしまっていた。
副団長は奴隷解放に理解があったが、団長は……。
副団長の話によれば、盗まれた魔石の一部と共に半数近くの第3騎士団の姿が消えたそうだ。
目の前の副団長は、顔を白くして悲痛な表情で何度も頭を下げる。
「落ち着け。これは俺が予想しておかなければならなかった事だ」
そうだ。
騎士の中にも奴隷賛成派は、少なかったが、一定の数がいたのだ。
第1騎士団や第2騎士団、そして第4騎士団などは城の中で奴隷達が何かに守られる姿を目にしている。
目にしていなくとも噂を耳にし、奴隷に手を出した者達の結末も聞いている。
記憶や知識が奪われると言うのは騎士にとって恐ろしい事だ、すべてを失うのだから。
恐ろしさを身近で感じていた者達は、奴隷解放に積極的と言ってもいいだろう。
だが、第3騎士団は城下町や各村に派遣されていたため、恐ろしさをその身で感じてはいない。
その違いが、ここに来て大きな分かれ道となってしまった。