146.エンペラス国の隣国のエントール国
-エントール国 騎士団長視点-
「休憩」
周りの騎士が休憩に入るのを確かめて近くにあった岩に腰を下ろす。
少し離れた場所にはエンペラス国の元奴隷の姿がある。
去年の夏、エンペラス国の奴隷が助けを求めて我が国に来た。
罠ではと疑う者が多かったが魔導師達が奴隷紋を調査。
たしかに奴隷紋の効力が消えていることが確認され、間諜という疑いは薄れた。
奴隷紋はかなり強力な物で、解放された経緯が調査される。
そこで、エントール国で話題に上がっている、森の白い光が関係している事が判明。
魔導師達が総力をあげても白い光については何もわかっていなかった。
それが思わぬところから1つの手掛かりを得ることになったので、
魔導師達の興奮は凄まじかった…いや、怖かった。
奴隷達はもう一度その経緯を詳しく調べられ、
判明した事はエンペラス国にとっても白い光は予定外だという事。
調査をしようとして白い光に襲われたとの事だった。
だが、やはり白い光が何かは不明のまま。
それを調べるため、森の大調査が決定した。
今回の森の調査はここ数年で一番の大きさとなる。
定期的に行っている調査では森に変化がみられると報告されている。
また白い光も相変わらず報告がある。
森を見る。
たしかに変わっている。
「団長、魔物が!」
少し離れた場所に1匹の魔物が現れる。
大きい。
全員がすぐさま戦闘態勢を整える。
「動きませんね」
おかしい。
なぜ襲ってこないのだ?
様子を見ている?
油断させようとしているのか?
膠着状態が続く。
魔物をよく見る、特に目を。
…知性があるのか?
だが、今の森にはそんな存在は…。
試してみるか。
緊張で手先が冷たくなる。
「騒がせて申し訳ない。少し森を調べさせて欲しい」
周りの騎士達が少し騒がしくなるが仕方がない。
今の森にこれは意味がない。
だが、あの目が気になる。
昔は森の王達の眷属たちが森の各所を守っていた。
その眷属たちには知性があり、獣人やエルフとの関係も良好だった。
俺はエルフの血が混じっているから長生きだが、眷属を実際に目にしたわけではない。
父から話を聞いただけだ、だが何度も聞かされた。
魔物を見たら必ず目を確かめろと。
「ぐるっ」と魔物の声が聞こえる。
剣を握る手に力が入る。
だが、魔物は何をすることもなく、森の中へと姿を消す。
「…まじで通じたのか?」
余りの事に誰もが唖然として魔物が消えた森を見つめる。
眷属だったのか?
もしそうなら、森の王が力を取り戻した?
「だ、団長…あ、あれ」
「落ち着け。まだ確実ではない、もう少し様子を見る」
森の復活は絶望的だと思われていた。
だが、これは1つの希望と言ってもいいのでは?
もう少し何か確証が欲しい。
「森の中だ、あまり騒ぐな。落ち着いたら調査を開始する」
……
やはり、森が変貌している。
魔眼の影響が、かなり消えている。
それに、森の恵みと言われる川が木々の間に無数に見える。
数年前も調べたが、この辺りは真っ黒く淀んでいて川はなかった。
「あ、ああ~」
「うるさい!ここは森だ静かにしろ!」
「か、か、か…」
俺の副団長だが、殴りたい。
副団長が向けている方向へと視線を向ける…。
声を出すのだけは耐えた。
フェニックス!
鮮やかな羽に火を纏う姿。
間違いない、絵で見たことがある。
あれはフェニックスだ。
「すぐに国に報告を!」
魔術師たちが通達の準備をしている。
すぐに国に報告が行くだろう。
森の調査に不安があったが、これで全て吹き飛んだな。