129.土龍
-トカゲに間違われている土龍視点-
全身にいきわたる魔力が世界樹の成長と共に倍増した。
本来の魔力量から考えればまだまだだが、少し前まで枯渇していたとは思えないほどだ。
そのためか体が元の姿に近づいた。
やはり羽で飛ぶのは気持ちがいい。
飛ぶのはあまり得意ではないが変わって行く森を空から眺めるのは格別。
世界樹の魔力が森に広がっていくのを全身で感じる。
魔眼の力も随分と落ちたようだ。
これも全て主のおかげであるな。
住処の広場に降りると親玉さんと呼ばれるようになった森の王が居た。
ん?フェンリルの王であるコアもか。
「久々にあれほどに高く上がったのではないか?」
そうかもしれないな。
魔力が減少してからは体の維持が最優先で飛ぶ事はなかった。
主にあってからは少し浮かぶことはあったが。
あれは飛ぶとは少し異なるからな。
「お前たちはその姿、どうするのだ?」
俺の質問に親玉さんもコアもニンマリと笑う。
不思議なものだ。
かつての森の王といえばいがみ合うのが普通だった。
いがみ合う理由は覚えていないがただいがみ合っていた。
目の前の2人の王を見る。
記憶にある姿より体の大きさがずいぶんと異なる。
フェンリルは空を駆ける種、その体はもっと小さく銀色の長い毛をもっていた。
チュエアレニエは業火を操り森を駆ける種、体は今の半分くらいか。
今は羽になっているがあそこには本来は針があったはず。
森の頂点にいる王、その中でも龍の力は強く森全体の守りを担っていた。
森に魔眼が広がりだした時は魔眼の発する魔力をたどって核となるものに攻撃を繰り返した。
だが核を破壊することは叶わず、逆に膨大な魔力を失った龍は守りが限界になってしまう。
あの時はどれほど後悔したか、人を甘く見てしまったのが間違いだった。
巨大な姿を維持する魔力を森の守りに使ったため徐々に小さくなる姿。
大きさなど気にしたことはなかったが人は龍の血や肉を欲しがる。
姿が小さくなろうと龍は龍、その身には力が宿っている。
龍が人の手に落ちる事は、なんとしてでも阻止しなければならなかった。
だが、龍にはもう1つの厄介な役目がある。
それは神獣という面だ。
やすやす死を受け入れることができない。
神獣の役目があるためだ。
とはいえ、その役目を思い出せないのだが…。
わかるのは神獣として存在している己と死んではならないという事だけ。
厄介なものだ。
人からわが身を守るためにどうするか。
初めに決断したのは火龍。
火龍は小さくなった姿を全く違う見たこともない姿に変えた。
それに続いて我々も、火龍の姿をまねたものに変わった。
そのあとの森を守ったのが残った王達だ。
龍が攻撃をやめると、人はすぐに森の奥へと侵攻を始めた。
他の王達はそれに対応するためにその身を巨大化させ、侵攻した人を駆逐した。
小さく進化するより大きく進化するのは相当な負担がかかる。
それでも龍以外の王達も恐ろしい存在なのだと人に植え付けるために巨大化の道を選んだ。
時間がなくその道しかなかったとも言えるが。
「この姿も気に入っているから問題ない」
フェニックスのカレンの声が後ろから聞こえた。
見ると3王の中で一番大きくなったカレンが樽を抱えている、ワインか。
…ゴーレムに怒られるぞ。
大丈夫?
お願いしてもらってきたのか。
「飛びトカゲ、久々に1戦楽しもう!」
ワインというものを飲むと楽しい気分になる。
そうだな、過去は過去だ。
世界樹が復活した、森は力をつけた。
王達が仲間になり、それ以外の森の強者もここに集まる。
それでいいか。
火龍と風龍もいつかここに来るだろう。
カレン、負けぬぞ。
お、主よ見てくれ、少し本来の姿に近づいたのだ!