113.ある国の騎士6
-エンペラス国 第1騎士団 団長視点-
第5騎士団から順調との一報が入る。
それに城全体の騎士たちが喜びの声を上げている。
静かな執務室。
書類をめくる音だけが聞こえる空間。
そこに入室を知らせる音が鳴った。
部屋に入ってきたのは第4騎士団の団長である友人。
そして俺の部下にあたる男。
この2人もどこかほっとした顔をしている。
処理済みの書類をまとめる。
書類はいつも通り各村からの要望などだ。
最近では国民から不安の声も徐々に書類に入るようになってきた。
各村の要職に在る者からの説明を求める声だ。
空をかける得体のしれない光。
最初は何も思わなくとも回を重ねるごとに不安をあおる。
あの光は1日に何度か見かけるまでになっているのだ。
それも仕方ない事だろう。
説明ができれば問題ないが、まだあれが何か分かっていない。
魔石に影響を及ぼしている事は確認が取れたようだが、そこからが全く。
ひしひしと何かが壊れていっているような気がするな。
「団長、聞きましたか!」
「あぁ」
予定通り森への侵入を果たした。
森に入っても光に襲われることなく中へ侵攻できている。
俺としてはそれがどうしたと思うのだが。
「あまりうれしそうではないですね」
副団長は気に入らないらしい。
「第4騎士団もそこまでは問題がなかったはずだが」
「え、いや。俺たちはこの時点で攻撃を」
「攻撃?どんな?」
「え?…光に襲われて」
「…その攻撃で誰か死に、怪我をしたか?」
「……」
副団長が不満そうな顔をするが無視だ。
友人も少し戸惑っているようだ。
「光に攻撃されたという、だが怪我人も死人もなし。ただ奴隷が逃げただけだ」
「それは…」
「被害はない、あれはおそらく警告だ」
本当の強者だけが持つ余裕の表れ。
警告できるだけ余裕があるということだろうからな。
必死であればすぐに攻撃してくるはず。
虚勢を張るということもあるが…おそらく違う、本当の意味での強者からの警告だ。
「しかし団長、第5だったら」
「警告の次はなんだ?」
「え?…警告…攻撃」
「そうだ、攻撃に転じるきっかけをこの国は与えた」
今まで森からの攻撃で死者は出てはいない。
記憶のない魔導師は国に殺されたのであって森ではない。
そう、森はまだ誰も殺してはいない。
逃げた奴隷たちがどうなったかは分からないが。
では、今回第5騎士団が森へ侵入し攻撃をしたとする。
森はどう反応する?
「敵と完全に認識するだろう。そして警告はすでに済んでいるならば次は攻撃だ」
友人と副団長が息をのむ。
第5騎士団は森へ侵入できた、たったそれだけだ。
敵がどんな存在でどれほどの力を持っているのか全く分かっていない現状。
そんな状態で森に入れたから何だと言うのだ。
ただ、闇雲に森の怒りを買うだけだ。
「しかし、森は抑え込まないと…」
副団長は全く分かっていない。
底のしれない敵を相手にしているということを。
刃向ってはいけない相手がこの世にいるという現実を認めるのは騎士である以上難しい。
だが団長や副団長は団員を導く役目もある。
無駄死にだけはさせないために。
「副団長!!!」
副団長を呼んだ直後、全身に重い何かがのしかかる。
部屋全体、いや建物がぎしぎしと音を立てているようだ。
声が出ない。
顔を上げることもできず、座っていた机にたたきつけられるようだ。
体が悲鳴を上げる。
恐ろしい何かに上から無理やり押さえつけられているような状態。
姿が見えない、おそらく威圧。
自分の体の中がつぶされる錯覚を見る。
いや、錯覚ではないこのままの状態だと…。
「はっはッはッは」
短く呼吸を繰り返す。
威圧は一瞬で消えた。
悲鳴を上げる体を起こして友人と副団長がいた方に視線を向ける。
副団長は腕がおかしな状態に曲がっている。
生きてはいるようだが意識がない。
友人は何とか意識があるが俺と似たような状態だ。
世界の王の怒りがとうとう森を超えてしまった。