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中二病を治したかったのだが! ~それは青春というより黒春~  作者: 中山おかめ
第伍幕 ぼくを生んでくれてありがとう。
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5-6 ベートーヴェンで相談窓口 上

「うむ。では打ち上げ件反省会のカラオケに行こうではないか!」

「俺は無理です」


 俺の辻斬りの如き参加拒否に「何故だ!」と慄く大門先輩。演劇部の面々も「田中もカラオケ行こうよ」と誘ってくる。


「ごめんなさい。これから友達と2人で会う約束をしているんです」


 俺は後ろ髪を引かれつつも演劇部と別れ、待ち合わせ先のカフェへと自転車を走らせた。といっても、そのカフェは市民センターから100メートルも離れてないため、到着まで1分もかからない。


 俺は自転車の鍵を閉めてから、『カフェ・ベートーヴェン』と書かれた看板を潜り、地下への階段を下りる。少しジメジメとした階段を降り切った先に、薄暗い店内が広がっていた。


 店内を見回すと、待ち人は角の2人席に腰を下ろし、至福の表情でデザートを貪っていた。俺は店員さんに待ち人が居ると断ってから、その席へと足を運ぶ。


「来ましたよ」


 待ち人は半分減っているチョコレートパフェから顔を上げた。


「ジロくんいつの間に」


 パフェに夢中過ぎて、待ち人は声を掛けられるまで俺に気付かなかったらしい。相変わらず食いしん坊だなあと思いながら、俺は向かいに座る。


「それで何の用ですか? 音無さん」


 俺は中学からの先輩、音無空(おとなしそら)に尋ねた。彼女には肩平市民センターで、話があるとこっそり声を掛けられていたのだ。


 音無さんは無言で俺とパフェを見比べた。俺はホント相変わらずだなあと、内心溜息を吐いた。


「全部食べてからでいいですよ」


 俺がそう言った直後、彼女は嬉々としてスプーンでパフェを掬い、口に運ぶ行為を繰り返す。今彼女が食べているのとは別に、パフェの空きグラスが既に2杯テーブル上に置かれていることがホント心配だった。


「ふぅ……これでコンプリート」


 パフェを綺麗に平らげてから、満足そうに腹をさする音無さん。


「パフェ3杯とか、流石に食い過ぎです。摂食障害じゃあないかって不安になります」

「だよね。アハハ」

「笑い事じゃあないです。それで……今度は何の悩みですか?」


 元々大食いの音無さんだが、こんな風に甘いものをドカ食いするのは、大抵何らかのストレスを抱えている時だ。


「相変わらずジロくん鋭いよね」

「いや音無さんが分かりやす過ぎるだけですって」


 音無さんは丸っこい顔を辛そうにしかめつつ、ゆっくりと話し始める。


「悩みは……モモくんの事なの。あ、モモくんは演劇部の姫路桃太郎くんのことね」


 ああやっぱり。


 姫路先輩は「恋人だっ()」と言っていた。そして音無さんのドカ食い……つまりはそういうことなのだろう。

 俺は知らない振りをしつつ、彼女の愚痴に耳を傾ける。


「モモくんとは、1ヶ月前から付き合い始めたの。ぼくから告白して、モモくんがOKしてくれて……ぼくみたいなブーデー星人にOK出すなんて思わなかった」


 頬を染めながら、嬉しそうに当時を語る音無さん。


「お付き合いは、とっても順調だったの。一緒に舞台を観に行って、手を繋いで、キスをして。そして……モモくんね。おれの家に来ないかって言ったの。両親も帰ってこないから安心しろって。ぼくはそれをどういう意味か分かって、いいよって言ったの」


 どうしよう。真面目に相談している音無さんには大変申し訳ないんだけど、ちょっとドキドキしてきた。

 それと、正直俺は生々しい話題は経験値小数点以下のため、適切にアドバイスできるのか不安にもなってきた。

 あと姫路先輩、可愛らしい見た目の割に手が早いな。何かムカついてきた。


「そして、いざ始めようってなったんだけど、ぼくは急に怖くなって、止めて! って拒んじゃったの。もう、大丈夫だと思ってたのに……まだ駄目だった……」

「それは……しょうがないんじゃあないですか」

「でも男性はショックじゃないの? モモくん。凄く傷ついた顔してた」


 スーゲエショックだろうなあ。俺だったらショックでムスコが引き籠りになっちゃうかも。


「その……話したんですか? 男性恐怖症のこと」


 音無さんは首を左右に振る。


 今はこうして面と向かって会話できるまでは回復したのだが、より深い仲に進む行為は、まだ心が受け付けていないらしい。


「この前姫路先輩から逃げたのも、そういう事情があったからなんですね」


 だが、音無さんは再び首を左右に振った。


「違うの。顔を合わせ辛いのは、また別の理由なの」


 そして、音無さんは一気に捲し立てる。


「ぼくね、週に何度かモモくんにお弁当を作ってたの。モモくんのお昼、菓子パンとサプリメントだけだって言ってたから。重いのは体重だけじゃないって思われるかもだったけど、それでも作ってあげたいって思ったの。それでね、モモくんは本当に嬉しそうな笑顔で、ぼくの弁当を受け取ってくれたの。演劇部との付き合いがあるからって、一緒にお昼を食べることはできなかったけど、毎回お弁当箱が綺麗になって返ってきて、ぼくはそれだけでも嬉しかったの。それでね、彼を拒んでしまった翌日も、謝罪の気持ちも込めて、いつもよりゴージャスな弁当にしたの。モモくんはいつも通り、嬉しそうに受け取ってくれた。だからぼくは、これで仲直りができたんだって思ったの。モモくんを拒んじゃった日は、凄く気まずい空気のまま帰っちゃったから、仲直りができて嬉しかったの。でもね、違かった。ぼくが仲直りできたって思い込んでただけだった。だって……」


 そこで彼女は言葉を止めた。唇が小刻みに震えている。


「大丈夫。ちゃんと聞いてます」


 俺は音無さんを落ち着かせるように、努めて優しく言った。


「……ぼくね、見つけちゃったの。作って来たお弁当が、殆ど手つかずで、ごみ箱に捨てられているのを、偶々見つけちゃったの」


 音無さんはポロリと涙を溢した。

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