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前-16 これが僕の魔王道

 ジローちゃんが将来頭を抱えて悶絶する程の衝撃的かつ笑劇的な登場を果たすと、そこらかしこから笑い声が上がった。特に4、5年生がゲラゲラと腹を抱えていた。一部の先生も笑いを押さえ切れないようだった。


 だが、ジローちゃんと同級生である6年ほぼ全員は、特にボクのクラスメイト達は、まさに開いた口が塞がらない状態だった。


「クククククク……笑っていられるのは今のうちだ愚民共。この杜の町小学校は、既にこの魔王たる俺様、田中二郎が掌握したのだハハハハハハ!」

「悪ふざけは止めなさい!」


 ジローちゃんによる劇団ソロを中止すべく、担任の先生が顔を赤くして朝礼台へと向かう。


「止めてくれるな使徒ミテミヌ・フリン。本来教員がやるべき職員室や教員用トイレの清掃を、学級活動と偽って俺様にやらせていたことを暴露されたいか! しかも1度ではなく何度も!」


 先生の歩みが止まった。

 いや……もう暴露してんじゃね?


「先生。後でちょーっと校長室まで来て頂きましょうかー」


 校長先生が、額に青筋を浮かべながら担任の両肩を掴んだ。担任は色々と弁明していたが、やがてガックリと肩を落とした。


「言ったであろう。この杜の町小学校は俺様が掌握したと。俺様は長い間、使徒共の勝手な願いを聞き入れてきた。我が第13階位口撃法術ツ・ゲグチーを受けたくなくば、使徒共は大人しくする他無い」


 つまり、告げ口されたくなければ黙ってろってこと?

 あっ……何人かの先生がジローちゃんから必死に目を逸らしてる。どんだけこき使ってたんだ? ジローちゃんもいいように使われ過ぎじゃね?


「クククククク……使徒共が我が正体に恐れ戦いている。これが魔王田中二郎の力なり!」


 学芸会のお遊戯を続けるジローちゃん。

 今まで必死に目を逸らしていたが、ボク達クラスメイトは彼が田中二郎の成れの果てであることを認めざるを得なかった。


「田中が……ちゃけた。ぶっちゃけた」

「あんた等が苛めるから!」

「ハア!? テメーだって笑ってたじゃねーか!」

「胸が……胸がイタい……」


「いいぞ田中ー! おもしれーからもっとヤレー!」

「田中君! やっぱりあなたはトップアイドルを目指せる人材だわ!」


 もうクラスは大パニック。


「ローズブレイド! どうしてああなるまで放っといた!」

「ボクのせいなの!?」


 心外だ! ボクは今日、ジローちゃんを元気付けようって提案したんだぞ。手遅れだったみたいだけど……


「ちょっと待て二郎!」


 暴走を続けるジローちゃんを止める声。幸だ。


「いきなり魔王とか、ふざけないで!」


 頼む幸。ジローちゃんの暴走を止めてくれ。


「始めは悪魔からでしょう! レベルアップを無視してるわ」


 突っ込むとこそこー!?


「成程!」


 ジローちゃんも納得すんな!


「デーモンクエスト(スリー)、そして魔王へ……悪くない」


 (ワン)(ツー)はいつ発売したんじゃい。


「それに眼鏡はどうしたのよ! 赤い眼とかズルイわ!」

「クククククク……眼鏡は我が強大な魔力を押さえつけるためのもの。成長した俺様には不要なのだ」

「クッ……カッコいいじゃない」


 そういえば、幸ってば割とセンスがアレなんだった。


 色々と突っ込んできたけど、楽しそうなジローちゃんを見ていたら、何かもうどうでもいいやって思えてきた。ジローちゃんが戻ってきてくれたのなら、もう何でもいいや。


「さあ、ここからが本題だ。愚民共よ、新生悪魔たる俺様の宣託を聞け」


 突如、ジローちゃんの赤い眼(多分カラコン)に真剣な火が灯った。

 ボスキャラの如き尊大な口調ではあるが、その声色はとても真面目で、妙に惹きつけられる。身振り手振りが大袈裟で、幸の言葉を借りると「馬鹿みたい」なのだが、彼から目が離せない。とりあえず彼の話を最後まで聞いてみよう。不思議とそんな気分にさせられる。

 校長先生が話すとき、いや、それ以上の静けさの中、ジローちゃんの演説が始まった。


 ***


「俺様はイジメが嫌いだ」


 イジメは心を傷付ける、唾棄(だき)すべき行為だ。だから信長がイジメられていると分かった時、義憤にかられ僕は大暴れした。


「この前、初めてイジメに遭った」


 あの時、僕は信長に「どうしてもっと早く相談してくれなかったのだ」と言った。僕は何も分かっちゃあいなかった。


「あの孤独感は、きっと体験した者でなければ理解できぬだろう」


 イジメを受けた事実は、自尊心を傷つける。恐怖と羞恥と情けなさで心が支配される。助けを求めることを、悪しきこととさえ感じてしまう。だから相談できないのだ。


「でも、俺様には頼もしき下僕が居た。故に、俺様は再起することができた。下僕共に感謝する」


 僕は運が良かった。幸に勇気を与えられた。信長も僕の味方であり続けてくれた。僕には、僕の闇を受け止めてくれる仲間がいた。


「だから俺様はここに宣言する。イジメを受けし憐れな子羊を、我が下僕に迎え入れてやろう」


 でも……寄り添ってくれる者が居らず、今も泣いている人はきっと居る。絶対いる。僕へのイジメは1日で終わったけど、世の中にはあの苦しみを延々と味わっている者がいるのだ。僕はそんな悲しみを、1つでも多く無くしたい。


「イジメだけじゃない! 貴様等が抱える(悩み)を、悪魔たる俺様が全て貪り食ってやる!」


 イジメに限らず、人は誰しも悩みを抱えている。他者と違う人種であることを気にする信長、重い病の後遺症に苦しまされる幸、そして離婚やわいせつ被害を恥じる僕。おいそれと口にできない、したくない、闇に病んだ悩み。


「我慢せずに闇を吐き出せ。そして一緒に咀嚼しよう。そうすれば少しは楽になる」


 闇に病んだ悩みは容易く解決できるものではない。でも、誰かに聞いて貰えるだけで、否定せずにいてくれるだけで、救われた気分になる。それが分かったのだ。


「たとえ貴様が闇を隠匿しようとも、俺様自ら赴いてくれる」


 悩みを吐き出すのはとても勇気のいることだ。それを吐け吐けと強制されるのは、迷惑行為ですらあるだろう。


「だから打ち明けて欲しい。助けを求めることは恥ずかしいことじゃあない」


 でも僕は、それでも僕は、我慢させたくない。我慢し続けて身を滅ぼすような結果にしてはならない。大きなお世話だろうと、独善的だと言われようと、人の迷惑を顧みない魔王のように僕は突き進む。そう決めたのだ。


「だって僕等は単体では不完全なのだから」


 だから僕は、闇を否定し討ち払う勇者じゃあ無く、闇を受けとめられる魔王になりたい。




 人の心に寄り添える、魔王になりたい。



 ――開演準備 だから僕は俺様になった。 完

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