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前-8 趣味について語ろう

「はいまたジローちゃんの負けー」

「ほら二郎取ってこーい」

「ちくしょお!」


 二郎は悔しがりながら、早歩きで廊下に散らばった3つの紙ヒコーキを集める。そして集め終ると、元の位置まで戻って来た。


「もう一回! もう一回勝負!」

「ハイハイ」

「ハイは一回で宜しい」

「ハイ」

「意地になっちゃって馬鹿みたい」


 あたしと二郎は右手で、信長は左手で紙ヒコーキを構える。


「じゃあ、せーので投げるよ。せーのっ!」


 二郎の掛け声とともに、3つの紙ヒコーキが同時に放たれた。だが二郎の紙ヒコーキはまたまた直角の軌跡を描いて墜落。二郎は「ダアアア!」と奇声を上げる。信長の紙ヒコーキは歩いて10歩、あたしの紙ヒコーキは歩いて25歩の位置で不時着した。敗者の役割として、再び二郎が紙ヒコーキの回収に向かう。


 あたし達は、紙ヒコーキの飛距離勝負を計10回行なったが、その全てが同じ結果に終わった。最終的な勝率はあたしが9割、信長が1割、そして二郎が0割。補足すると二郎は全てビリッケツだ。


「やっぱ幸が圧倒的だねえ」


 信長が感嘆の声を上げた。


「うー……結局1勝もできなかった」


 紙ヒコーキ回収を終えた二郎が、肩を落としながら悔しそうに呟く。彼に勝てる分野があるとは思えなかった為、正直気分が良かった。


「ねえねえ。この紙ヒコーキどうやって作るのだ?」

「あ、ボクも知りたい」


 2人に教えを請われ、ますます気分を良くするあたし。あたし達は廊下から教室に戻り、2人に最も飛距離の出る紙ヒコーキの作り方を教えた。


「出来た! 早速廊下フライトだ」


 二郎は出来上がった紙ヒコーキを手にすると、我先にと廊下へ飛び出た。出来栄えはあたしが作ったものよりも良く、これならよく飛ぶだろう……と思ったのだが、


「ゲーン!?」


 二郎が投げた紙ヒコーキは、またもや直角で墜落。乗客全員助からない見事な墜落っぷりで、あたしと信長は笑ってしまう。

 ヒコーキが一流でも、操縦士が三流じゃ宝の持ち腐れだ。


「二郎は力み過ぎなのよ」


 あたしは墜落した紙ヒコーキを拾い上げ、お手本を見せる。


 飛行機が離陸するときのように、少し斜め上に向けて、槍をイメージしながら真っ直ぐにヒュッと投げる。

 紙ヒコーキはとても緩やかな曲線を描いて飛び、廊下の端まで届いた。


「すーげえ」

「ちょ、ちょっと飛び過ぎじゃね」


 二郎と信長が感心した声を上げる。あたしも正直飛び過ぎで、声を失う程驚いた。


「まるで風を操ってるみたい。幸さんは風を操りし勇者だな」

「もう……その呼び方は恥ずかしいから止めてって言ってるじゃない」


 二郎が廊下の端まで届いた紙ヒコーキの回収に向かう。そして、端からあたし達に向けて紙ヒコーキを飛ばした。またもや直角に墜落した。二郎は頭を抱え、その様子を見ていたあたしと信長は大声で笑った。田中も遠くから恥ずかしそうにはにかみつつも、声を上げて笑った。


 ***


 ニュー紙ヒコーキのフライトを十分楽しんでから、あたし達は教室に戻り、着席する。そして勉強会を再開しようとしたが、その前に聞くべきことを思い出した。


「それで、信長の趣味は何なの?」


 そもそも先程紙ヒコーキ大会に興じていたのは、二郎にあたしの趣味を聞かれたのが切っ掛けだった。あたしは紙ヒコーキだと答えると、信長があたしの紙ヒコーキは凄かったと称賛し、それなら3人で対決しようと二郎が勝負を持ちかけた。そういう経緯だ。


「ボクは、機械の分解とか修理とかが好き」

「信長凄いんだよ。なんでも直しちゃうからね」

「なんでもじゃない。目覚まし時計とか、構造が単純なやつだけ」


 本人は謙遜してるけど、小学生で機械の修理とか滅茶苦茶凄いんじゃない?


「じゃあ、ラジオは直せる?」

「ラジオ? まあ、直せなくはないと思うけど、でもどうして?」

「入院中に嵌ったのよ。ほら、病院って娯楽が少ないから」


 あたしがラジオに嵌った一番の理由は、読者投稿の存在だ。お悩み相談、身の回りの出来事、大喜利等々、ラジオ番組には色々な読者投稿コーナーが用意されてる。最初は聞くだけで楽しかったが、次第にあたしは自分でも投稿してみようと思った。初めて自分の投稿が採用された時は、病人であるにも関わらず大はしゃぎした。


 あたしのラジオネームが呼ばれ、投稿内容がパーソナリティに読まれ、自分の耳に届く。世間から隔絶された病院で、あたしは外と繋がっていると実感できた。あたしが3年に渡る入院生活を頑張れたのは、ラジオのお陰と言っても過言では無かった。


「それで、ラジオ専用機を集めるのにも嵌っちゃって。ちょっとマニアック過ぎてヒくよね」

「ううん。面白い趣味だと思う。ラジオかあ。僕も聞いてみようかなあ」

「因みに何てラジオネーム?」


 桜井ハッピーちゃん。


 我ながらだっさいラジオネームだと思う。他のリスナーは「真夏にガウンコート」とか「明日から頑張らない」とか、聞くだけで笑えてくる凝ったラジオネームだったのに、わたしのラジオネームは好きな花と自分の名前を組み合わせるという、安直なもの。

 なにこれダサ過ぎ教えたくねえ。


「そ、それはそうと、二郎の趣味はなんなのよ」


 急に恥ずかしくなってきたため、あたしは強引に話を逸らした。


「えーっと、僕の趣味は……」


 何故か二郎は言い淀んだ。「僕の趣味は●●!」と元気よく答えると思っていたため、その反応が意外だった。


「僕は……体を動かすことが好きだよ」

「それ、趣味じゃ無くない?」


 何とも曖昧な表現。特定のスポーツを指すならまだしも、何だか二郎らしくなかった。


「二郎の趣味が何か、信長は知ってる?」

「え!? えーっと……」


 何故か信長も言い淀む。

 何だ? この2人何を隠しているの。隠されると暴きたくなるじゃない。


「あたしにばかり色々ぶっちゃけさせといて、自分は何も言わないなんてズルイ―」


 あたしが詰め寄ると、二郎は頬を掻きながら困ったような笑顔を浮かべた。その笑顔を見て、不覚にも胸がキュンとした。

 クソッ……もう見慣れたと思ってたけど、相変わらず小学生離れした美形だな。背もグングン伸びてるし、日に日に美形度が増してる気がする。しかも動作が一々あざとい。狙ってんのか? 狙ってんのか?


「田中君ちょっといい?」


 ガラガラガラと扉を開けて、木下明美が教室に入ってきた。


「えっ! なに木下さん?」

「ちょっと仕事を手伝って欲しいんだけど、来てくれない?」

「うん分かった! 今行く!」


 そして二郎は逃げる様に教室を後にした。


「信長……二郎の趣味って結局何なの?」

「ゴメンその……口に出したくもない」


 一体何なんだ二郎の趣味って?

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