2-11 神腐VS腐人フィーチャリング魔王
「バレた……よりにもよってリア充に」
「バレたぞよ。遂にバレちゃったぞよ」
「もう終わり。あたしら生きていけない……」
証拠を突き付けた後、3人の腐人は驚くほど落ち込んでいた。
アレッ? この反応は予想外だ。
俺は眼鏡をかけなおし、床に女の子座りする彼女達に歩み寄り「そんなに落ち込むことか?」と尋ねる。
「触れられたくない部分を、無遠慮に暴かれたんだぞよ。普通凹むぞよ」
腐人の1人が虚ろな瞳で答えた。
「いやでも、俺をお腐れ様扱いしてましたよね。同類にバレたのなら、ダメージは低いのでは?」
同類と思われるのは心外だったが、そう思われていたからこそ、多少強硬手段を取っても平気だろうと思っていた。だが結果はご覧の有様。
一体どういうことなのだ?
「いやオメー腐ってねーだろ。一般人だろ」
「あのね。こういう特殊な趣味を持った人には、同類を見抜くセンサーが在るの。一目見れば同類かどうか大体分かるの」
何それ凄い。BL好きが高じるとエスパーにでも目覚めるのだろうか。
「で、結局はどうなんだぞよ。あなたは腐ってる? 腐ってない?」
「へ? いやまあ、腐っては無いです。ごめんなさい」
正直に告げると、3人の腐人は身を寄せ合って喚き始めた。
「ほらやっぱり。ウチらを笑いにきた忌々しいウェイ系リア充だった」
「気味悪く思う人もいるから隠れて活動していたのに。あたし達の聖域を踏みにじられた」
「悪ふざけで噂を確かめようとしに来る奴が偶にいるんだぞよ。きっと裏サイトで拡散するんだぞよ。最低だぞよ」
軽率な行動だった。よもや、ここまで彼女達を苦しめてしまうとは。
俺は誠心誠意を込めて、頭を下げた。
「傷付けたのなら謝る。ごめんなさい。でも、そんなつもりはないのだ。信じてくれ」
「じゃあ、どんなつもり?」
俺は振り返り、隅で縮こまっている蜂谷先輩に目を向けた。先輩はブンブンと首を左右に振るだけだった。このヘタレブンブン蜂め。
「で、ウチらの秘密を暴いたのは、どんなつもり?」
ど、どうしよう……
実は蜂谷先輩こそアナタ方の同類なんです。だからBL仲間に加えてくれませんか?
なんて言える空気じゃあない。印象最悪なこの状況下では、拒絶されるのが目に見えている。それに、なるべくなら蜂谷先輩自身に告白して欲しかった。
だが、腐人たちは納得のできる理由を求めている。彼女達を傷付けず、この場を治める理由は……理由は……
そして俺は、思い出したくもない喫茶店での会話を思い出した。
「……ほら、その、MENMAって漫画があるじゃないですか。あれの一巻で、主人公のメンマと、ライバルのゴエモンがその……事故チューするシーンがありますよね。それに何か、ちょっと……と、ときめいちゃって……それで色々調べたら、BLってジャンルを知って……」
心にも思ってないことを口にした瞬間、顔面が異常に熱くなった。それはもう、ガスバーナーで直接炙られているのではないかと思う位に。
もしかして俺は大火傷を負ってしまったのではないだろうか?
「「「何それもっと詳しく!!」」」
しかし、この話題は効果てき面だったらしく、腐人達はいつの間にか俺の正面に正座していた。先程まで涙目だった癖に、何という切り替えの早さ。
「いや、その……事故チューから始まる恋って、実に王道じゃあないですか?」
「うんうん分かる分かる!」
「当初は反目し合っていたけど、任務を共にする内に、ひたすら真っ直ぐなメンマに、次第にゴエモンの態度も軟化していって……」
「熱血とツンデレの組み合わせは鉄板ぞよ」
「途中、ゴエモンの裏切りだとか、色々あるんですけど、最終的にはお互いに許しあって、その……ふ、夫婦?」
「そうそう! あの二人もう熟年夫婦の貫録」
我が身を切り裂きながら捻り出す言葉により、どんどん元気になって行く腐人達。
ヤベエ……死ぬほど恥ずかしい。中二症なんか比じゃないぞコレ。
「えっと、こういうのって、メンマとゴエモンを略して、メンゴエっていうんでしたっけ? いいですよね、メンゴエ――」
だがそう言った直後、欲しかった玩具を買ってもらった子供のように目を輝かせていた腐人達の表情が、一瞬にて絶対零度を思わせる冷たさになった。
あれ……何か気に障ることを言ったか。それとも、嘘がバレた?
「それは違うぞ!!」
腐゛reak!
と、背後から蜂谷先輩の一発の弾丸。
「見損なったぞ田中君。おヌシは全ッ然ッ分かってない。なあんにも分かってないぞ、このにわか野郎!」
何故か怒り心頭の蜂谷先輩。そして口火を切ったマシンガンのように、言弾の連続射撃。
「MENMAのカップリングはゴエモン攻め、メンマ受けのゴエメンこそが至高。メンゴエなぞ言語道断!」
「いいか。あらゆる媒体に置いて、主人公とライバルの組み合わせは王道である。そして、ライバル攻めで主人公が受けであることも王道。それ以外は認められん」
「さらにメンマはポジティブ思考で、対するゴエモンはネガティブ思考。精神的にはメンマが上だが、夜は逆になることこそ極上の萌え!」
さらに腐人達の援護射撃。
「あのね、熱血系主人公が攻めに組み敷かれるっていうのが鉄板なの。コレは有史以前に結論が出ていることなの」
「それなのにまさかのメンゴエ発言。マジ引くわ」
「これ、腐女子達の間では常識だぞよ」
そんな常識知らねえよ。
「ところであなた、男なのによく分かってんね。名前は?」
「拙者の名は蜂谷エルフ。またの名をBeeL腐。そこの紛い物とは違って、正真正銘の腐男子だぞ」
腐人達は、その堂々たる告白に顔を綻ばせる。
「まさか、生きている内に腐男子と出会えるなんて……奇跡ぞよ」
「腐男子……存在していたのね……」
「ねえねえアドレス教えて! 腐男子がどういう視点でBLを見るのか凄く興味がある」
「勿論喜んで!」
そして、神腐は嬉々として腐人共と理解できない会話に華を咲かせた。華の香りはラフレシアを彷彿とさせる腐臭だが。
……とりあえず結果オーライ、なのか? 少なくとも、蜂谷エルフがBL仲間に入れたようだ。
ならば、これ以上の口出しは無用だな。一般人の俺は大人しく退散致しましょう。長居すると耳が腐り落ちそうだし。
そして、俺はこっそり美術室から抜け出そうと、忍び足で出口に向かった。
「それでね、腐仲間となったエルフ氏に頼みがあるんだぞよ」
「拙者にできる事なら何でも聞くぞ」
「チ●ポコ見せろ」
女の口からまさかの発言。思わず振り向くと、引き攣った笑顔の蜂谷先輩。
「いいだろ減るもんじゃないし。チ●ポコ見せろ」
「いや、それは、ちょっと……」
「お腐れ様お腐れ様。どうか御尊顔を拝見させて下さい」
「お、拝まれても無理。無理無理無理」
「お願い先っちょだけ。先っちょだけでいいから」
「それ女が男に言う台詞じゃないぞ!」
神腐ににじり寄る腐人共。その様子はまるで、腐肉を求める食屍鬼が如し。恐い。
「ちょ、ちょっと待てい! 拙者のは悲しいことに精々シメジ程度だ。だから拙者より、そこのイケメンの方が絶対に良いぞ! きっと極上のマツタケだぞ!」
食屍鬼共が目を赤く光らせながら、一斉にこちらを向いた。
ヤベエ。
「そうね……先程の無礼もあるし。謝罪代わりに股間のマツタケ見せな」
「折角だし脱いでもらうぞよ。全裸ぞよ全裸」
「大丈夫。ここは美術部。只のヌードモデル。全裸でも何の問題も無い」
食屍鬼共が手をエロオヤジのように、わしゃわしゃ動かしながら近づいて来る。
「断固拒否する!」
しかし俺は魔手を回避し、美術室を華麗に脱出!
……するはずだったのだが。
「開かない!?」
「あ、誰も入って来れないように鍵閉めといたんだぞ。メンゴ」
と、一切悪びれた様子の無い蜂谷エルフ。
こんの腐れ蜂。殺虫剤顔に噴射してやろうか。
「腐っ腐っ腐っ……その鍵、閉まりが強くて中々外れないとんだサノバビッチなの」
「観念するぞよ。出口は開かないけど、これからキサマの社会の窓が開くぞよ」
「股を開けば心も開く。さあウチらに全て委ねて……」
そして、俺は目をぎらつかせた食屍鬼共に完全に囲まれてしまう。
気分はB級ゾンビ映画の餌枠だ。
「お、おい近寄るな。離れよ。魔王たる俺様に対する狼藉。無事で済むと思っているのか? 止めよ。お願い止めて下さい。鼻息荒いよ恐いよ! ちょ、マジで涎たらしてんだけどこの人達。シャツ引っ張んなボタンちぎれる! ベルトの間に手え入れてくんな! 止めて! そういうのホント苦手なんだ! お願いホント止めて!
痴女! 変態! 腐れ外道! ゲス! サイコパス!
セクハラ! セクハラアアアア゛ア゛!!」




