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中二病を治したかったのだが! ~それは青春というより黒春~  作者: 中山おかめ
第弐幕 ベーコンレタスが大好きなんだが
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2-7 ベーコンレタスを学ぼう 実践編

腐男子ふだんし


BL作品を好む男性の俗称。

数は腐女子よりずっと少なく、その存在はアーバン・フォークロア(都市伝説)的である。

 拙者は蜂谷エルフ。まごうことなき腐男子(ふだんし)である。腐敗の度合いはよろしくない。

 ベーコンでレタス的なもの好きな、生物学的には男の生命体だ。


 勘違いなきよう先に言っておくが、拙者は別に男が好きな訳じゃない。異性愛者(ノンケ)である。好きになった漫画が、BとLの付く何かだったのである。

 よく漫画で、「男が好きなんじゃない、お前を好きになったんだ」という神展開があるじゃないか。つまりはそういうことである。


 極めて特異な趣味だと十分自覚している。女子の間でも、この類いの趣味を持つ者は異端だ。それが男となれば尚更である。

 だから、ずっとずぅーっと、拙者はこの趣味をひた隠しにしてきた。誰にも言わず、誰にも言えず、細々とこの趣味を続けてきた。


 しかしつい先日、拙者の(とが)が後輩にバレてしまった。

 しかも、その後輩はあろうことか、喫茶店という公共の場で恥ずかしげも無く、BLという単語を大声で連呼しやがった。もし、あの場に知り合いが居たら……想像するだけで恐ろしい。


 だから登校するのが恐かった。

 噂されてるんじゃないか、気味悪がられているんじゃないか、無視されるんじゃないか。

 朝からそんな不安ばかりだった。


 だが、それでも学校を休むわけにはいかず、BLで言えば、親友への劣情が暴露された主人公のような気分のまま、拙者は登校した。




 昼休みになり、拙者は教室にて友人と共に昼飯を取りつつ、昨日の深夜アニメについて議論を交わしていた。

 今朝からの様子を見るに、周囲の反応に変化はなく、噂が広まっている雰囲気もなかった。拙者は変わらぬ日常に安堵を覚えた。


 ……ちょっと神経質になり過ぎていたのかもしれない。


 ホシタニ珈琲は、確かに学校から近い場所に店を構えているが、高校生が入るには値段が高過ぎる。あの時あの場所に、同じ学校の生徒がいる確率は、BLのメインキャラが脇役女子と結ばれる確率よりも低いだろう。


 しかし、気掛かりなのは田中だ。

 彼がサブカルチャーに詳しくない事は明白。でなければ、公共の場でBLBLと連呼出来る訳がない。それ故、彼が悪意なく噂を広めてしまうことが、何よりも恐ろしかった。

 だが幸いなことに、田中は1年生だ。2年の教室まで噂が広まることは、まあ無いだろう。ああでも不安だ。


 もし……もし万が一噂が広まってしまったら、今までと同じように否定しよう。いや、今まで以上に否定しよう。全力で貶し、罵倒し、気持ち悪いと拒絶することで、今の生活を守ろう。拙者にはそれしかないのである。


「ナニあの人……カワイイ」


 急に、クラスの女子が色めきだった。


「あんな人ウチの学校に居たっけ?」

「3年生かな?」

「いや、ネクタイの色的に1年でしょ」


 女子たちの視線は、教室の出入口に釘付けだ。拙者も何気なく視線を向けると、


「あ、居た。蜂谷先輩!」


 教室扉の手前に、田中二郎が立っていた。彼は、人懐っこい笑顔で手を振っているが、拙者には悪魔の笑みにしか見えなかった。

 そして田中は、1年の身でありながら一切物怖じせず、2年の教室へと足を踏み入れてきた。


「昨日の事なんですけど、渡したいものが――」


 そう言いながら、田中は制服のポケットに手を入れた。

 まさかこの男……周囲の注目を集める中、BLを露出するつもりか!?


 WARNING!!

 A BRAND NEW COMIC

 BACON LETTUCE

 IS APPROACHING FAST


 拙者は田中が入ってきたのとは反対側から飛び出した。そしてドSヤンデレ攻めから逃げる子犬系受けが如く、全速力で逃走する。


「待ちやがれ!」


 しかし田中は、長らくお預けを喰らった俺様系攻めの如く雄たけびを上げながら、猛追してきた。


 引き締まったスポーツマン体型の田中。太り気味で碌に運動してない拙者。

 結果は、長身わんこキャラは攻めという不文律よりも、明らかだった。

 拙者はあっさり追いつかれ、腕を掴まれる。


「離せ! 拙者はそんなもの知らん。見たくないのである」

「いいや見て貰う。貴様に、せめて半分は受けて欲しいのだ」

「攻めで半分は受け、だと? 拙者はリバ否定派だぞ!」

「この人何言ってんの?」

「とにかく、ソレをポケットから出すな! 見とうない!」

「もう出してます。こっち向いて下さい」

「出した後に剥く、だと。何という鬼畜シチュエーション!」

「ええい埒が明かん!」


 田中に両肩を掴まれ、グルリと強引に振り向かされた。そして、手に持つものを突き付けられる。


『領収書

 蜂谷エルフ様

 5184円(税込)

 上記正に領収いたしました。

 ホシタニ珈琲』


「貴様が逃げたせいで全額負担させられたのだ! せめて自分の分だけでも払って下さい。そもそも奢ってくれる約束でしょう」


 どうやら拙者の早とちりだったようだ。BLで言えば、主人公の姉を彼女だと誤解する王道展開。ベタな設定だが、拙者は大いに萌える。


 ***


 ここ数日間で分かったことだが、田中という男は第一印象に反し、かなり押しの強い性格だった。今日もファミレスで奢れと、半ば無理矢理約束を取り付けられた。

 拙者は決してコミュ障ではないが、オタク特有の気弱さというか、弱みを握られていることもあり、リア充の押せ押せ攻撃に逆らうことができなかった。


 放課後になり、約束どおり拙者と田中、そして何故か田中の友人ローズブレイド信長も一緒に、学校から遠く離れたファミレス「ゲスト」に入店した。店内には、拙者達以外の客は居なかった。

 田中と信長はドリンクバーを、拙者はミルクティーを注文した。ドリンクバーにしなかったのは、飲み終わったのを口実に帰りたかったからだ。


 田中はドリンクバーでオレンジジュースを注いできたようだ。そして彼は、ドリンクバーに必ず備えられているストローは使わずに、直接コップの縁に口をつける。


 ただそれだけの動作にもかかわらず、どこか大人びた容姿のせいか、何だか妙な色気を感じた。彼が飲んでいるのは原価が30円にも満たない安物の果実飲料の筈なんだが、高価なカクテルのように思えてくる。

 クソッ……こいつが二次元世界の住人なら妄想が捗るのに。ナマモノは苦手なんだぞ。


「蜂谷先輩に尋ねたいことがあります」


 田中はオレンジジュースを半分ほど飲んでから、静かにそう言った。やはり何かあるのかと、拙者は身構えた。

 奢らせることが目的なら、学校近くの喫茶店、それこそお高い「ホシタニ珈琲」でもよかった筈だ。しかし、田中は学校から遠く離れたファミリーレストランを希望した。すなわちそれは、何か別の目的があるということだ。

 拙者はいかなる要求にも屈しないぞ!


「BLの何が良いんですか?」


 ごめんなさい拙者が悪うございました。必死にBL好きを隠してきた拙者に、今も腐男子であることを隠している拙者に、その質問は拷問です。語れるなら語りたいがヒかれるから絶対に語りません。


「昨日、ツルヤでBL漫画を何冊か――」

「ちょっと待って。ジローちゃんマジで実行したの?」


 田中はコクリと頷いた。


「だが酷い辱めを受けた。だが、何とかレンタルまでこぎつけた」


 まさかこの男、ノンケの癖にBL漫画を、しかも購入ではなくレンタルしたのか?

 凄い度胸だ……拙者にはとてもできない。

 というか何のために借りた? 興味あるわけじゃないだろ? 田中の目的が理解できなかった。


「それで、借りた本を読んでみたのだが、良さがさっぱり分からないのだ。何故あんな中身のない漫画に需要があるのか、さっぱり分からん」


 ムカッと、拙者の胸の奥に、推しじゃないCP(カップリング)を見せられた時のような苛立ちが生じた。


「どれもこれも主人公とその……ヒロインって言えばいいのか? 試練も葛藤も無く、たった1話であっさりカップル成立する」

「1話で? BLってジャンル的には恋愛漫画じゃね? 付き合った後どう続けんだ」

「喧嘩して仲直り、そしてベッドイン。その繰り返し。言っちゃ悪いがワンパターン。恋愛漫画は余り読んだことないが、素人目で見てもありゃ駄作だ」


 801の意味も知らないトーシローが勝手なこと言うんじゃねえ。その綺麗な顔に、今届いた白くて熱々のミルクティーをぶっ掛けてやるぞ。


「しかも、ベッドシーンがやたら長い。話の半分ぐらいが濡れ場だったこともある。正直見てらんないから、半目で飛ばし飛ばしで読んでいたのだが、そしたら1冊3分で読み終わった。中身スッカスカ」

「何か、話聞いてると……それってただのエロ本じゃね」

「ぶっちゃけそう。純文学のような繊細な心理描写を期待していたのだが、別にそんなことは無かった。あの程度なら俺でも描けそう」

「え!? ジローちゃんが、BLを描く……」

「いや描かねえよ。でもあの程度の話で良いなんて、BLって浅い――」


「数 冊 で B L を 語 る な!」


 我慢ならず、拙者はついに激昂した。

 BL漫画を表紙買いしたはいいが、攻守が逆だったと判明した時以上の怒りで、拙者の内面は荒れ狂っていた。


「おヌシ等分かってない……全ッ然ッ分かってない!」

「じゃあ、何が良いのか教えて下さいよ」

「良いだろう。このBeeL腐(ビーエルフ)が、おヌシ等に骨の髄までBLの良さを分からせてやる!」


 拙者はまんまと田中に乗せられた。

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