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中二病を治したかったのだが! ~それは青春というより黒春~  作者: 中山おかめ
第弐幕 ベーコンレタスが大好きなんだが
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2-1 突発性中二病症候群

【第弐幕】


 思えば、その日も雨だった。


「なあなあ。Paxivの1位見たか?」

「むむむ! まさか1位の作品を見たのか?」

「はあ? あんなキモイの見るわけねーだろバカ!」

「ホントですよね。見てないですが、目が腐ってしまいます。場所を弁えて欲しいです」

「……拙者もそう思うぞ! あんな穢れた汚物、この世から1つ残らず駆逐してやる!」

「巨人のパロっすか? 古過ぎテラワロス」


 雨は止まず、今も降り続けている。


 ***


 6月8日金曜日。

 気の早い梅雨入りを思わせる、ザアザアと激しい雨が降っていた。分厚い雲に太陽が被われ、朝にも関わらず辺り一帯は夜を思わせるほど暗かった。


 その雨のなか、時計の短針が丁度8の字を示す頃、俺はB組に到着した。いつも通り教室の扉を開き、「おはよう」といつも通り朝の定型句を述べる。クラスメイト達からも挨拶が帰ってきた。


「今日も早いんだね」


 自席に着席すると、隣席の十字架聖奈じゅうじかせいなが話し掛けてきた。神々しい名に恥じない清楚な美貌と、相変わらず高校1年生と思えぬ凹凸が素晴らしいボディの持ち主だ。


「ありがたいことに、今日も父さんが車で送ってくれたのだ」


 俺はセクハラ回避のため、胸を注視せぬよう意識を逸らしつつ、彼女に返答した。


「外すごい雨だもんね」

「うん。まだ梅雨入りしてない筈なのだがな」


 この豪雨は午後には晴れるらしい。だから初めは、雨対策をしての自転車登校を考えていたのだが、父さんから無理するなと止められた。


「それにしても田中君。それ、どうしたの?」

「え? ああ、この眼鏡か。昨日父さんに買って貰ったのだ」


 ……父の眼鏡修理代と合わせて、約半年分のお小遣いが消し飛んでしまったが。バイトしてえなあ。


「でもどうして? 普段コンタクトだよね」


 十字架さんが素朴な疑問を投げてくる。

 我が内なるカルマを封ずるため……何て言える訳も無く、俺は少々の罪悪感を覚えつつも、当たり障りのない嘘を述べた。


「気分を変えてみたかっただけだよ。眼鏡が無いと不便なこともあるって気付いたしね。似合わないかな?」


 眼鏡が手に入れば何でも良かったため、似合うかどうかは碌に考慮せず、眼鏡屋の店員に勧められるがまま購入した。結果、丸みを帯びたスクエアタイプの黒縁眼鏡となった。


「ううん。良く似合ってる。格好いいと思う」

「そう? ありがとう」


 俺は自然と笑顔になった。

 美女に本心から格好良いと言われて、気を悪くしない男なぞこの世にいないだろう。


「ほ、ホンマやで。何て言うか、いつもは爽やかで活発な印象だったけど、知的で優しげな印象に――」

「オラ田中! オマエばっかり十字架さんと話してんじゃねえよ。そんなリア充野郎はこうだ!」


 背後から細木君の声。彼の手により眼鏡が奪われる。


 それ即ち魔王復活の狼煙のろしなり。


 俺様は右手で拳銃の形を作りつつ振り返り、銃口を魔獣ホソー・キーに向けた。


「我が封印を解くとはいい度胸だ。破滅の王笏たる右手から繰り出されし魔弾フレア・デストロイの餌食になりたくなくば、魔道器ザ・グラスを大人しく返すのだ」


 我が魔気に恐れをなし固まるホソー・キー。背後のボインクロスも余波を浴び、息を止めている。離れた位置にいるクラスメイトもいぶかしげな表情を作っていた。

 俺様は隙をついてホソー・キーの手から眼鏡を奪い返し装着。


「あのな。眼鏡ってふざけて奪うもんじゃねえよ」

「ご、ごめん……でも、そこまで怒んなくても」

「細木君は足の不自由な人から松葉杖を奪うのか?」

「え? しないけど……」

「眼鏡を奪うってのは、それと同列なのだ」


 俺は厳しい論調で細木君を叱った。

 実際のところ、俺はそこまで怒ってはいなかった。俺の視力は両目共に0.3という、眼鏡が無くても生活できなくも無いレベルで、いきなり眼鏡を奪われてもそこまで驚きはしない。まあ、イラっとは来るが。

 だが、殆ど目が見えない人から眼鏡を奪うという行為は、その人にとっては突如失明するのと同じで、かなりの恐怖を感じさせてしまうし、危険だ。それを細木君に知らしめるべきだと思った。まあ、先程の中二発言を誤魔化す狙いもあるが。


「う、うん。ごめん……」


 シュンと、躾中の子犬のように身を縮める細木君。

 俺は彼の素直に反省するところを好ましく思った。


「そこまで気を落とさなくていいよ。俺も強く言い過ぎた。ごめんな」


 俺は凍った空気を解すよう、微笑しながら優しく語りかけた。


「あ、いや、悪かったのはオレの方だし」

「そう? とにかく、悪ふざけも度が過ぎないよう気を付けてね」


 そして俺達は授業開始まで雑談した。十字架さんがしばらく乾いた笑みを浮かべていた気がしたが、気ニシナイ気ニシナイ。


 ……とまあ、こんな感じで俺は眼鏡を外すと、何故か封印されし魔王の魂……ゲフン! 突発性中二病症候群が顕現けんげんし、聞いているだけで恥ずかしくなるイタイタしい発言・行動が止まらなくなるのだ。しかも、心の奥で思ったことや感じたことが表面化するという厄介なオプション付き。

 因みに、色々と試してみたところ、眼鏡なら何でもいいらしい。眼鏡をかけている間は、突発性中二病症候群の症状を緩和できる。

 理屈? 理由? 知らん。俺が聞きたい。この病を治す方法があったら教えてくれ。

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