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EX-9 七夕前夜祭花火大会 パ

「先に言って下さいよ!」

「ワリイワリイ。教えんの完全に忘れてたってな」


 姫路先輩は右手でチョップするような姿勢で謝罪を示す。屋上が男女出会いの場になっていることなんて露ほども知らなかった。


「ったく……来なきゃ良かった」

「田中ならハーレムを作れて良い思い出になると思ってたんだがなあ……」


 姫路先輩の顔が再びニヤケていく。


「でもまさかあんな事態になるとはな。プフッ……思い出したらまた笑えて来たっての」

「笑わんで下さい」


 男女出会いの場で男による男の奪い合いが起きるなど、誰が予想できようか。

 そもそもあの人達は結局何がしたかったのだろうか。謎である。


「そういえば、この『お見合い会場』って何なんですか?」


 俺は『お見合い会場』と呼ばれている会議室を親指で指しながら尋ねた。


 突如屈強な男達が多数屋上に乱入し、たちまち俺と俺の奪い合いに興じていた男共は組み伏せられた。そしてこの『お見合い会場』前まで連れてこられたのだ。


「マナー違反者を懲らしめる部屋ってところだな」


 それならば懲罰部屋と表現した方が適切だろう。しかし名称はお見合い会場。罰になってないのでは?


「中に保険医の厚井がいる」

「助けてくれてホントありがとうございます!」


 姫路先輩が助けてくれなかったらどうなっていたこどか。

 因みに俺を奪い合った男共は全員『お見合い会場』送りになった。


<ンッフフ……そんなに硬くならないでぇ。でもやっぱり硬くしてえ。本番はコ・レ・カ・ラ>


 なんて恐ろしい罰だ。


「……なあ田中。ちょっと外行かないか?」

「外……? いいですよ」


 俺と姫路先輩は『お見合い会場』を離れ、青羽学生会館の玄関から外に出た。

 外に出ると、休憩中だった花火がちょうど再開し、ドンドンドドドンと次々撃ち上がる。


「……レンちゃん先輩のことをどう思う?」

「どうって……」


 これがただの雑談ならば、強引だとか突っ走り過ぎとか、色々と文句を言っていたところだった。だが、姫路先輩の声は至って真面目で、雑談には程遠い。


「……演劇一筋の熱血漢だと思います。ちょっと強引すぎるところもありますけど、総合的に見ればいい先輩だと思います」

「他に何か感じなかったか?」


 どうやら俺の回答は、姫路先輩が求めているものと異なるものだったらしい。


「……割と柔軟な考えもできる人」


 しかしこの回答も、求めているものと異なっていたようだ。

 姫路先輩は目を伏せ、溜息交じりに語る。


「おれさ……いやおれ達演劇部全員、レンちゃん先輩のことが心配で心配で堪らねえんだ」


 心配……その言葉はパワフルな大門先輩とは無縁のものに思えた。しかし、姫路先輩の声が、態度が、身振り手振りが、本気で彼を心配していると物語っている。


「田中。んな事を後輩に頼むのはゲロというか、有り得ねえと思うけどよ……おれのことを助けてくれたように、レンちゃん先輩のことも、助けてくれねえか?」


 姫路先輩は両手両膝を地面に付け、そして頭を下げた。土下座だ。

 プライドの高い姫路先輩から、かけ離れた行動だった。


「や、止めて下さい……そんなことしなくても聞きますから」


 しかし、姫路先輩は土下座の体勢を崩さない。

 俺の動悸が激しくなっていく。ドクンドクンと言う心臓の音と、ドンドンと連続で打ち上がる花火の音が連動する。


「かつて演劇部にはメゴちん先輩……悲室愛(ひむろめご)って美しい先輩が居た」


 俺が学校の屋上で会った先輩。男と見まがうほどの、端正な顔立ちの女子生徒。

 いや待て……先輩ってどういうことだ? 姫路先輩も悲室先輩も2年生だろう? あれか? 悲室先輩留年したってことか?


「悲室愛と大門寺恋(だいもんじれん)は幼馴染で、スゲー仲良かったんだ。恋愛コンビって言われてて、夫婦と言える程ってな」


 姫路先輩の声を掻き消してしまう程に、動悸も花火もより激しさを増していく。


「でも……悲室愛は――」


 ドドーーーーーン!! と、最大級の花火が姫路先輩の言葉を遮った。


「ごめんなさい。もう一度、お願いします」


 俺は残酷にも、姫路先輩にもう一度話すことを要求した。

 姫路先輩の言葉は俺の耳に届いていた。

 でも、それをにわかに信じられなかったのだ。

 俺は聞き間違いであることを望んだ。

 だが……そうじゃあなかった。


「悲室愛は、去年の今日……8月8日に死んだ」






「自殺って、噂されている」



(第碌幕 この悲しみが続く限り に続く)

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