1-1 実に奇天烈な3人組
中二病とは(ちゅうにびょうとは)
思春期、特に中学生時代において、ちょっと背伸びをした言動、行動をとりたがること。若かりし頃の大人ぶった言動、振る舞いを、自虐的に表現する言葉として使われていた。
今では意味が拡大・変質してしまい、妄想や自己陶酔の激しいイタイタしい人間を揶揄する言葉として使われている。
因みに筆者は前者と後者のハイブリッド。
類義語:邪気眼
【第壱幕】
~過去~
それはそれは、実に奇天烈な3人組だった。
1人目はクリクリと目が大きい、顔立ちが非常に整った少年。生まれた時代が時代なら、第2の天草四郎と持て囃されたかもしれない。いや、彼の容姿については一旦置いておこう。問題は服装だ。
上半身は血飛沫を思わせる白い柄の入った黒のジャンパー。下半身は血を思わせる真っ赤なズボン。切り取り忘れたのか、裾に値札が付いたままで、取り消し線が引かれ元の値段から半額になっているのが哀愁を誘う。
参拝時の服装は自由だが、それでも境内に足を踏み入れるのならば、ある程度の節度は必要である。
彼の行動は、就職活動時の『自由な服装』という言葉を鵜呑みにして、パンクなファッションを選ぶようなものだ。これでは神様の方がお祈りする側に回るだろう。今後のご活躍をお祈り申し上げます的なアレだ。
まあ、彼は年若き少年であるから服のデザインについては目を瞑ろう。問題はズボンだ。
少年が今着ているのは、ズボンはズボンでも膝丈の半ズボン。今日は雪のチラつく真冬日であり、素肌を晒す日ではない。心身鍛錬のためにあえてそのような服装を選んだのか、それともただの馬鹿なのか……
「来たぜ我が宿敵の眠りし聖なる地! 神様よ。首を洗って待っていたか!」
どうやら彼は後者のようだ。不敬なのは服装に留まらず、言動まで失礼千万とは救えない。
「えっと……ボク達お参りに来たんじゃね?」
半ズボンの少年の後ろから、もう1人の少年がおどおどと指摘した。
2人目は肌の浅黒い異国の少年。
ベージュの耳あて付きキャップ。厚手の茶色いダッフルコート。灰色のマフラー。白の長ズボン。半ズボンの少年とは対照的に防寒対策はバッチリである。色合いも全体的に慎ましく、これなら神様は少年の願いに集中できるだろう。
だが、よくよく見ると彼の衣類は全て海外の高級ブランド物で、諭吉を着て歩いているようなものだった。
上下全てをウニクロで揃えた(しかも値引き済み)半ズボンの少年と悉く対照的で、もはや彼に対する嫌味である。その成金っぷりに神様は眉を顰めてしまうかも。
「クスクス。敵なのに様を付けるのね」
異国の少年の隣で、少女が振袖をはためかせつつ、しとやかに呟いた。
3人目は和服を着た線の細い少女。
着物姿の彼女は、3人組の中で最も参拝者として正しい服装に見える。だが、身にまとう着物は半ズボンの少年を容易く凌駕するレベルのド派手さだった。
深海を思わせる濃紺を下地に、大中小、白赤金と様々な花が咲き乱れており、腰に巻かれた乳白色の帯の中央には、猛々しい金色の龍が描かれていた。
実に豪華絢爛。まるで極道の令嬢のよう。やはり参拝に適してない服装である。どぎつい原色が神様の目に悪い。
「フフン! お参りに来たから宣戦布告は当然なのだハハハハハハハ!」
「馬っ鹿みたい。本当ジローちゃんって中身がアレね」
着物が半ズボンの高笑いを冷めた目で眺めつつ、憎まれ口を叩く。
「格好良いし、頭も良いし、運動神経もいいのにねえ……モテそうなのにいきなりモテないっていう……」
ブランドが溜息混じりに呟いた。
「そりゃそうよ。いくら格好良くても、中身がコレじゃお断り。ジローちゃん女子から何て呼ばれてるか知ってる?」
「ム、何て呼ばれているのだ」
着物の言葉に、半ズボンが好奇心を示した。
「言っても怒らない?」
「怒らぬぞ。遠慮せず言うのだ」
半ズボンは胸を張りつつ、着物の言葉を待つ。
「……無念なイケメンって呼ばれてる」
着物が少し申し訳なさそうに告げた。
「む、無念……? 普通残念じゃね」
ブランドが怪訝そうに眉をひそめる。
「いきなり格好いい見た目に騙されて、一瞬でも好きになっちゃったことがくやしい、無念だって意味」
「うわあムゴい……」
着物とブランドは半ズボンの様子を覗った。だが、彼は全く意に介して無いようだった。
「フフン。俺様は将来魔王となる悪魔。人間の些事なぞ露とも思わぬ。その程度の精神汚染魔法罵詈雑言なぞまるで聞かぬわハハハハハハ!」
半ズボンが再び高笑いする。
「これが強がりじゃないからなあ……」
「このポジティブさだけは本当尊敬する」
ブランドと着物が呆れつつ、顔を見合わせ笑った。
「さて、鳥居の前でまごついてても後から来る人の迷惑だし、そろそろ神社の中に入んべ」
半ズボンの口調が突如真面目なものへと変わる。彼は服装の乱れを整え、鳥居の前で会釈をしてから、境内へと足を踏み入れた。そして、
「参道を進むときは中央を進むなよ。参道の中央は神様の通り道だから、通っちゃいけないのだ」
と、振り返りながら背後の2人に告げた。あまりの様変わりっぷりに、二重人格もしくは双子の片割れと入れ替わったのではないかと疑うほど。
「そして急にまともになるんだよなあ……」
「何気に礼儀正しいから、だからこそ騙されちゃう女子が多いのよね。本当詐欺だわ」
ブランドと着物は特に驚いた様子を見せなかった。これが半ズボンの平常運転らしい。
そして、3人は宣言どおり参道の端を進み、手水舎で身を清めた後、神前に進み二拝二拍手一拝。宮司が感心してしまうほどの、完璧な礼儀作法だった。
「さて、お参りも終わったことだし、本来の目的を眷属共に発表しよう」
参拝を終えた後、半ズボンは社務所の前で邪悪な笑みを浮かべながら言った。悪魔モードに切り替わったらしい。
「クククククク……聞いて驚け。この神社には13番目の干支がひっそりと祀られているらしいのだ」
「干支って12体じゃね?」
ブランドが小首を傾げる。
「そう、人界に伝わりしお伽噺では十二支だ。さて貴様ら、干支の由来は知ってるか?」
「うろ覚えだけど確か、偉い神様が動物達に競争をさせて、先着12体まで大役を任せる、じゃなかったかしら? そして、干支の並び順が、その神様の元に辿り着いた順番だっていう話」
着物の回答に、半ズボンは満足げに頷いた。
「ウム、概ね正解だ。流石だ。風を操りし勇者ハッピーウーマン」
「その呼び方止めて」
着物が不快そうに吐き捨てる。
「それでだ、競走なのだから、13番目に到着した動物もいる訳だ。諸説にはカエルだとかイタチだとかあるな。そして、その13番目が何かは分からぬが、この神社にひっそりと祀られているとの噂を耳にしたのだ」
そう言いながら、半ズボンは右手の平で顔を鷲掴みに覆いつつ、左手を上に伸ばし人差し指で天を差すという、何だかよく分からない決めポーズ。
「クククククク……13番目だぞ13。素晴らしい数字の響き。しかも今日は1月13日。そして俺様は13歳」
「相変わらず13が好きなのね。不吉の象徴なのに」
着物は本日何度目になるか分からない、冷ややかな視線を半ズボンに向けた。
「ジローちゃん4とか6とかも好きだよねえ」
ブランドも苦笑いしている。
「フフン。将来の魔王たる俺様がそういった数を好むのは当然だ。という訳で、我が眷属共に命ずる。13体目の干支が祀られし祭壇を発見するのだ!」