21話 1年夏休み1
「なんで! なの!!」
ダダンっと音を立てながら秋田くんが叫ぶ。
夏休みに入って私と秋田くんは約束通りゲームセンターに来た。秋田くんはストレス発散ついでにリズムゲームをやってる。上手い。
「逃げたら追ってくるって言ったじゃん」
「だから迎え撃ったのに!」
迎え撃った挙句友達認定されたのか。もう逃げられないんじゃないかな。
「俺はただ赤坂くんが落とした荷物を拾って、落としたよって言いながら渡しただけなんだ」
「うん」
「そしたら、お礼と称して高級クッキーもらって、流石に申し訳ないって言ったらメアド交換する羽目になって!」
「うんうん」
「メル友になったよ!」
「はは」
「なんでだよ!!!」
秋田くんの叫びとともに曲が終わる。私はゲームを終えた秋田くんに預かっていた荷物を渡した。
「展開早くない?! あ、次UFOキャッチャーやろ」
「とれるの?」
「さあ」
二人でUFOキャッチャーのコーナーへ移動する。色々あるなぁ。
「離には招かれなかった?」
「基本メールだけ。たまに誰もいないところで話しかけられるくらいかな」
「そう。そういえば中学生になってから学校で話しかけられることがなくなったな」
3人ともメールはしてくるけど。この間は離で作ったらしいマカロンタワーの写真が三人から送られてきた。辻村はマカロンタワーを作ってる木野村の写真、木野村はマカロンをつくる赤坂と辻村の写真、赤坂は完成したマカロンタワーの写真だった。楽しそうでなによりだ。
「あー、それはあれだよ、新聞部」
「新聞部?」
景品がお菓子のUFOキャッチャーにお金を入れて操作をしだした秋田くんが言う。新聞部か。教師ルートで写真を撮ったのも新聞部だったな。
「今の新聞部えげつないらしいから」
「えげつない」
「なんかあることないこと書くらしいし、ゴシップ大好きみたい。銀杏会メンバーなんて良いネタだよね」
なるほどね。何かしら行動して、それを写真にでも撮られて新聞に書かれたらそれは中高の生徒が読む。たしか新聞部が作る新聞は掲示板に張り出されてたりするはずだ。そうなると面倒だな。もし私と二人でいるところを撮られでもしたら私が被害を被るわけだし。それを鑑みて、校内では話さないようにしたのか。なるほど。
「三人も大変だね」
「ねー。お、見て波留さん! 一回で取れた!」
「おー」
パチパチと拍手を送る。秋田くんは戦利品のお菓子を鞄にしまった。私はクレーンゲーム苦手だから、一発で取れる人凄いと思う。
「アームもしっかりしてるし取りやすいなぁ。他にも色々やりたい!」
「おー。じゃあ行こう」
「次これやる!」
「随分可愛いぬいぐるみだね」
お菓子をメインに取り漁った秋田くんは可愛いうさぎのぬいぐるみが景品の台を指差した。薄ピンク色のウサギがすごく可愛い。有村さんが好きそうだ。あの人ぬいぐるみとか好きだしな。部屋に飾ったりしないらしいけど。見てるだけで楽しいらしい。あと小動物とか好きだって言ってた。
「可愛いよね」
「うん」
秋田くんが慎重にアームを動かし、狙いのウサギの所まで動かす。
「……妹がさぁ」
「うん」
「こういうの好きだったんだよね」
秋田くんはひとりっ子のはずだ。妹とは前世の家族のことだろう。
秋田くんの斜め後ろで待機している私には秋田くんの表情は見えない。
「でもアイツ、こういうの苦手だから欲しいのがあると俺に頼んでくるの」
「うん」
アームに持ち上げられ、落下口にぬいぐるみが落ちる。秋田くん本当にうまいな。
「で、俺が取ってやるとすごく喜んでたんだよ」
「うん」
「今、どうしてるのかな」
それは今の私達には知り得ないことだ。私は何も答えずに秋田くんを見る。
「波留さん、これあげる」
「……ん」
泣きそうな顔をした秋田くんからもふもふのウサギを受け取る。意外と大きい。




