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脇役らしく平和に暮らしたい  作者: 櫻井 羊
中学生編
97/232

20話


 私の話を聞き終わった秋田くんは私をジーッと見てきた。何かね。


「……波留さんそういえば刺されたって言ってたね。大丈夫? トラウマとか、傷とか」

「傷はまだ跡が残ってるけど問題ない。見る?」

「見ない!」

「トラウマはまぁ……また夢に見るレベルにはなったけど、昔よりはマシかな。問題ないよ」

「問題あるようにしか聞こえない」

「気にしない」


 ため息をつく秋田くんの肩を軽く叩く。そんな気にすることではない。時間が経てばまた夢も見なくなるはず。大丈夫。またトラウマを呼び起こすようなことがなければすぐに落ちつくさ。


「で、波留さんの話を聞いてて思ったこと言っていい?」

「ん」





「波留さん本当にモブ? 主人公の間違いじゃない?」





 はははははは。


「背筋が凍るようなことを言うなよ。私はモブだ」

「でも攻略キャラ五人中三人とメアド交換済。しかも生徒会所属……」

「生徒会は兄が辞めたら辞めるよ」

「そう?」

「そう」


 そっかぁ。と言いながら秋田くんは頼んだポテトを食べ始める。さっき届いたところだからまだ温かい。

 そうとも。兄が辞めれば辞める。また兄に倒れられたらとても心臓に悪いので、そんなことにならないようにしているだけだ。生徒会に所属していたら目立つし。篠崎いるし。場合によっては主人公も生徒会に入るし。兄が生徒会に所属しているのも来年までだろう。高校2年生が生徒会長をやるみたいだし。高等部に上がる前には辞められる。大丈夫。


「まぁゲームに『間切波留』なんてキャラいなかったし。主人公の名前も違うもんね」

「まず主人公は高等部から入ってくる外部生だしね」

「そうだねぇ」


 二人で仲良くポテトを食べながら会議だ。ポテトうまい。


「取り敢えず俺らに今できるのはなるべく彼らにかかわらないことかな」

「関わると面倒そうだもんね」

「彼らはともかく、取り巻きがねぇ。ゲーム内で起こったイベントについては主人公がどのルートに入るかにも寄るからなんとも言えないよね」

「それな」

 他の人間とくっつく場合や、在学中に誰とも付き合わない場合だって存在するだろう。どうなるかな。

「5人の中なら出来れば山内くんか先生ルートに入ってほしいけど、他人の気持ちを操作なんてできないしね」

「そんなことできたら今頃私はもっとモブらしいモブの立ち位置にいると思う」

「ねぇ。まぁ、赤坂くんたちがゲーム内とはだいぶ違ってきてるみたいだし、イベントが必ず起こる確証もない。起こらないことを願いながらのんびり過ごそ」

「そうだねぇ」



 次はたこ焼き頼もう、とメニュー開いた秋田くんが言うので了承の返事をする。ところでまさか君、そのロシアンルーレットのたこ焼き頼んでないだろうな。何も気にせず了承したが。





「そういえば委員長ってゲームだとどのキャラが好きだった?」

「主人公」

「男キャラで」

「見た目だと辻村雅直」

 黒髪のキャラ好きなんだ。

「そっか。俺は山内くん」

 可愛い男の子好きなんだよね。という秋田くん。しかし一番は主人公らしい。あの主人公は可愛かった。髪の毛ピンクだったから、この世界で何色かはわからなかったけど、可愛かった。あのキャラデザは素晴らしい。





 夕方になって、秋田くんとタピオカドリンクを片手に帰り道を歩いていく。紅茶味美味しい。


「波留さん次遊ぶときはゲーセン行こ」

「いいけど……男友達はいいの?」

「波留さん、温室育ちのお金持ちたちがゲーセン行くと思う?」

「微妙」

 漫画とかではゲーセンに行く金持ちがいたりするが、現実では微妙だ。いいとこの坊っちゃんが多いし、ゲーセンより観劇したりするイメージ。

「でしょ〜」

「いつがいいかね」

「もうすぐ定期試験だし、その後かな」

「夏休みだね」

「楽しみだね! みんなで遊ぼう!」


 二人でもうすぐ訪れる夏について話すのは楽しかった。美野里ちゃんたちも誘って海に行こうとか、一緒に宿題やろうとか、他愛もない平和な話。平和って素晴らしいね。




「あぁ、そうだ秋田くん。一つアドバイスを」

「ん?」

「逃げたら追ってくるから、気をつけるといいよ」

「ははは。波留さんじゃないんだから、そうそう彼らと関わる機会なんてないよ。友達にもならないと思う」

「そうだといいけどね……」




 フラグって知ってるかい、秋田くん。











『赤坂くんとメル友になった』




 秋田くんからそんなメールが届いたのは夏休みに入る数日前だった。ふむ。




『フラグ回収乙』





 とだけ返信しておこう。

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