18話 ゲームの話
「まず赤坂夏樹。銀杏会所属。いつも明るく元気な男。素人が作ったものは基本食べられない。スポーツが好き」
ふむ。そういえばそんな設定だった。素人が作ったものが食べられないのはあのバレンタインが原因だろうか。今はどうなんだろう。食べてはいないはずだけど、やっぱり苦手なのかな。あまり気にしたことなかったからわからない。
「それと、女性恐怖症」
「は?」
「女性恐怖症。たしか中学生のとき、女の先輩に酷いことされたって設定だったよ」
「……」
重いな……。え、そんな設定……まった、スチルであったぞ。ぼんやりとしか思い出せないけど、夕暮れ時、教室で困った顔でそのことを打ち明けているシーンが。覚えてる。スチルが凄く美しかったから、スチルは覚えてる。
「そのせいで女性が苦手で、女性とは一定の距離を取る。主人公とも上辺では仲良くなっていくけど、心の距離が縮まるのはだいぶ時間が経ってからだね」
「へぇ……」
今の赤坂は私とも普通に話すし、まだ女性恐怖症ではないのかな。となるとこれから3年間のうちにその問題が起こる可能性が高いのか。それは……少し嫌だな。うん。そんなこと、起こらないといいんだけどな。起こる気がする。嫌な予感とかは当たる。
「赤坂くんルートは木野村さんと対決します」
「うん」
「赤坂くんに近づく主人公が気に入らない木野村さんは警告から始まり、徐々に行動がエスカレート。それに乗っかる取り巻き。それによって学年の空気は最悪になっていく。そんな事態になったら俺は不登校になる」
「私も」
というかストレスで体調を崩すかもしれない。私の精神は意外と繊細なんだ。
「エンドについては……俺達には関係ないか。次」
赤坂の情報を粗方書き終えたのか、秋田くんが次のページへと移る。
「辻村雅直。銀杏会所属。穏やかな気性。女顔で、いつも優しく笑ってる。一部の人達の間では『腹黒そう』『ドSっぽい』って話題になってた」
「酷い言われよう」
「辻村くんも素人が作ったものが基本的に食べられない。それから凄く心配性」
「?」
心配性? 辻村ってそんなに心配性だっけ。あ、いや待て。なんか思い出してきた。……そうだ、確か辻村のバッドエンドでは主人公が軟禁されて……あ、これ違う。思い出さなくていいやつ。鎖を握りしめて優しく微笑んでる辻村の顔なんか思い出さなくていい。無駄に妖艶だなとか思った記憶も思い出さなくていいんだ。畜生。一度思い出すと芋づる式に思い出していく。辛い。折角忘れてたのに。これからどうやって辻村と顔を合わせればいいんだ。
「小学生の頃にお姉さんを一人不審者に殺されてるんだよ」
「へぇ」
「そのせいでやばいレベルの心配性」
「……」
「で、辻村くんルートだけど、彼のルートも木野村さんと対決です」
「だいたいわかった」
「このルートに入っても俺は不登校になる」
「そっか……」
取り敢えず、ゲームで死んでいたお姉さんは茜さんのことだろう。そして茜さんが死ぬはずだった不審者に殺されるイベントはたぶん私が代わりに刺されたので回避か。うん。そうか。初対面で茜さんについての記憶がなかったのはゲームでは既に亡くなっていたからか。なら覚えていないのも仕方ない。っていうか茜さんが死んでいないなら辻村の軟禁エンドはないのでは。辻村はそんな危ういことをしない、普通の人間に育っているのではないだろうか。きっとそうだ。私の同級生は普通だ。よかったよかった。辻村はシスコンの優男だ。あんなスチルのようなことは起こらない。安心だね。
「エンドについてはいいよね。次、篠崎くん」
「篠崎忍。中等部からの外部生。真面目な性格。世に言うツンデレ」
「ツンデレ」
「生徒会所属で後の生徒会長。高所恐怖症」
そういえば木に登って下りられなくなってたな……。っていうかツンデレ……。今はまだそんな感じしないけど、これからツンデレになるんだろうか。三次元のツンデレって中々辛いものがあると思うんだが、どうなんだろう。そういえばスチルで仏頂面で赤面しながら主人公の手を引いているのがあったはずだ。あれがデレか。っていうかなんのシーンだっけ。
「んでもって、篠崎くんルートでも木野村さんと対立します」
「木野村さん働きすぎじゃない?」
「是非休んでてほしいね。で、この場合、金持ちの傲慢さに耐えられなかった外部生諸君が篠崎くんを代表として金持ち代表の木野村さんたちと対立。この時は木野村さん特に何もしてないんだけどね」
「……」
「で、その時木野村さんが気に入らない金持ちは篠崎くん側に一時的に回ったりして、さらに泥沼化。俺はこのルートに入ったら転校する」
「それは……無理だと思う」
転校なんて自分の勝手でできるものではないし、親を説得するにはそれなりの理由がいる。設備や教師が最高峰の東雲学園から転校する利益があるとは思えない。転校は無理だろう。
「次、教師の菊野春馬。生徒の前では常に真面目な顔をした厳しい先生。でも教え方うまいし、質問にも丁寧に答えるので評判は良い。あとイケメン。オンオフがはげしくて、オフのときはふわふわした人になる。紅茶が好き」
「そうだったね」
「この人は特に重い設定もないし、イベントも主人公と二人でいるところを絶妙な角度ですっぱ抜かれて新聞部が作る校内新聞に載せられて問題になったりするくらいで、モブにはなんの影響もなかったはず。モブは写真見てわちゃわちゃするくらいかな。他のイベントもモブはあまり関係なかったと思う」
「そんなイベントがあるのか」
まだ少ししかやってなかったから知らなかった。
「うん。写真だとキスしてるように見えるんだよね」
大問題な写真じゃないか。
「この人のルートが一番平和なんじゃないかな。モブにとっては。俺は是非ともこのルートに入ってもらいたい」
本人たちにとってはだいぶ大変なことが起こるルートだけどね。まぁ私達はモブだからな……。
「もう一人は?」
「あぁ、五人目ね」
またページを捲って何かを書き出す秋田くん。五人目については私は知らないのでどんな人間なのか少し気になる。
「五人目、山内哉太」
この世は理不尽だ。




