17話
「波留さん、遊びに行こ」
秋田くんにそう誘われ、その誘いに乗って数日後の休日。私はカラオケでシャカシャカと騒がしい音を立てながらマラカスを振っていた。秋田くんは演歌を熱唱している。上手いな。
「波留さん本当に歌わないね」
「音痴なんだ。歌うくらいなら永遠とマラカスとタンバリンを鳴らし続ける。もしくは全速力で逃げる」
「そこまで?」
二人しかいないカラオケ。私は音痴なので歌を歌わない。つまり歌うのは秋田くんだけである。もうすでに10曲ほど連続で歌っている。頑張れ。
「波留さん音楽の成績低かったっけ?」
「普通だよ。テスト内容とテストの日にちは事前に告知されるから、練習すれば普通レベルになれる」
「練習しないと?」
「恥をかく」
恥をかくのが嫌で猛練習するのだ。因みに楽譜は読める。読めるけど歌えないしリズムも取れない。何故だ。因みに歌のテストより楽器のほうが楽。楽器はやり方さえあっていれば指定の音を出せるから、リズムだけどうにかすればいける。音楽のテスト全部楽器にならないかな。もしくは筆記。
休憩なのか、マイクをおいた秋田くんが私の真横に移動してくる。私達が通されたのは二人で使うには広すぎる部屋だった。どこに座るか迷ってしまうくらいには。軽く6人は入りそう。もっと入るかな?
「もう歌わないの?」
「これ以上歌ったら喉いかれるよ〜。それよりもさ」
ゴソゴソと自分の鞄の中を漁る秋田くん。なんだろうか。
「ゲームの話、しよ?」
秋田くんが取り出したのは一冊のノートと筆箱だった。
「俺さ、思うんだ」
スッとマイクを再び手に取る秋田くん。
「ゲームのイベントはどんな結果になっても現実に影響を与えないから楽しめるのであって、現実にあんなことが起きたらストレスで死ぬ!!!」
「わかる」
秋田くんのマイク越しの声が部屋に響いた。
それを叫ぶならマイクをおいてほしかった。耳が痛い。
「だよね!」
「うん。マイク置こうか」
「スッキリした〜」
笑顔を浮かべて彼はマイクを机においた。
「そこで、せっかく記憶持ちが二人もいるんだし、情報共有、協力して二人で平和に過ごそうぜ、と思いまして」
「なるほどね」
「まぁ俺達はモブだから、イベントを回避もなにもないんだけどね! 取り敢えず巻き込まれたくない。傍観者でありたい」
「私も巻き込まれたくない。穏やかな高校生活を送りたい」
「よし、波留さんと俺の目標は一緒だね。波留さんゲームの内容はどのくらい覚えてる?」
ペンを利き手に持った秋田くんが聞いてくる。ゲームの内容ね。ふむ……。
「もうほとんど覚えてないかな」
「……」
「私からしたらゲームやってもう10年以上経ってるから。秋田くんは?」
だから決して、私の記憶力が悪いわけではない。寧ろただの乙女ゲームの内容を詳細に覚えていられる人間がいたら凄いと思う。
「なぜか鮮明に覚えてるよ」
凄い。
「じゃあ教えて欲しい」
「んー。まず攻略キャラは五人でしょ」
カリカリと、秋田くんはノートに何かを書いていく。待ってくれ。
「五人? 四人じゃないの?」
「基本的には四人。それから、隠しキャラみたいなのが一人」
「へぇ」
「波留さんは四人攻略したの?」
「同級生三人。もう一人……教師を始めたあたりで死んだから」
「まじか。じゃあ攻略キャラについても軽く説明するね」
「頼んだ」
手間を取らせてしまって申し訳ない。




