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脇役らしく平和に暮らしたい  作者: 櫻井 羊
中学生編
86/232

11話




「いやぁ、緊張した」



 秋田くんはあの後普通に泣いた。傍から見たら私が秋田くんを泣かせたように見えただろう。他人に聞かれるとまずい話をするので私の部屋に移動して、二人で座って話す。


 まさか前世を覚えている仲間と出会えるとは。



「緊張したんだ」


 脱水症状を起こすんじゃないかと思うくらい泣いていた秋田くんに改めてお茶を差し出しながら聞く。


「そりゃぁ、一歩間違えれば頭のおかしい人間だもん」

「それもそうか」

「いいん……波留さんってさ、どこまで覚えてるの?」


 どこまでとは。


 意味がわからず首を傾げると秋田はえーっとね、と言葉を続けた。


「俺さ、自分の名前とか、最期とか思い出せないの」

「名前も?」

「うん。ぼんやりとした思い出と、自分がゲーム好きだったこととか、妹がいたこと、あとは名前が秋田湊ではないことくらいしか思い出せない」

「そっか」

「だから、波留さんはどこまで覚えてるのかなって」


 なるほど。秋田くんは全てを思い出したわけではないのか。それはそれで不安になりそうだよな。にしても私か……私は。


「全部覚えてたよ」

「ぜんぶ?」

「そう。自分や家族の名前、誕生日、思い出。それに、自分の死因も全て覚えてたよ」


 今はだいぶ朧気だけど。と付け足して自分の分の茶を飲む。


「そっか……」

「秋田くんは思い出したいの?」

「そりゃ、まぁ」

「記憶戻って、嫌じゃなかったの?」


 私は自分が前世の記憶を覚えているのがあまり好きではなかったけど、秋田くんは違うのだろうか。私も今は気にしなくなったけど。それは時間が経って、記憶がある状態に慣れたからだ。


「正直、嫌だね。いきなり思い出してさ、思い出す前と後の自分が明らかに違うんだもん」

「うん」

「記憶を思い出して、困惑して、1日かけて少し落ち着いて、でも完全に受け入れたわけじゃない」


 そりゃそうだ。私だって受け入れるのに時間がかかった。


「親がさ、起きた俺を見て不思議そうにするんだ。たぶん、前と雰囲気とかが違うから」


 私だって今日の朝秋田くんを見たとき、違和感を感じた。一番近くで長い間「秋田湊」を見てきた彼の親がそれに気が付かないはずがない。


「それ見てさ、考えるんだよね。『今の俺は本当に秋田湊なのか』って」


 話している秋田くんはタオルを握りしめて、段々と俯いていく。なんか掴めるものがあったほうがいいかな、なんて思ってクッションを渡すと彼はそれを抱きしめ、顔を埋めた。


「でも俺は秋田湊だし、思い出してしまったものを忘れるなんてできないから、受け入れるしかなくて」

「……」

「頑張って受け入れようにも、それはすぐにできることじゃない。そんなすぐ自分を肯定できるほど俺は強くない」


 クッションに顔を埋めたせいで聞き取り辛くなった声を聞き逃さないよう、秋田くんの近くに移動する。


「だから時間をかけて受け入れていこうと思って。取り敢えずいつも通り学校に行くことにした」

「うん」

「……家には帰りたいけど、帰りたくなくて」


 それで教室にいたのか。なるほど。

 段々と声が震えていった彼はとうとう黙ってしまった。背中を擦る。



「…………確かに俺は記憶が戻ってから不安しかないし、戸惑ってるけど」

「うん」

「前世の記憶が大事なものだってのは、なんとなくわかるんだよね」

「うん」

「だから思い出したい」


 キッパリと彼は言い切った。


 そうか。思い出したいのか。


「家族のこととかはともかく、自分の死因なんて思い出しても、たぶん良いことないし、精神的なダメージがすごいよ」


 思い出すにしても、思い出す記憶は選べない。嫌なことだってたくさん思い出すだろう。自分の死因なんて嫌なことの代表だと思う。天寿を全うしたとかではない限り。


「波留さんは覚えてるんだっけ……」

「覚えてる」

「……波留さんの話が聞きたい」

「なぜ」

「なんか思い出すきっかけになりそう。あと普通に気になる」

「そう。……私はオススメしないな、思い出すの」

「それでも」

「…………まぁ、君が決めたことなら」


 壁にかかっている時計をチラリと見る。家族が帰ってくるまでにはもう少し時間がありそうだ。



「どこから聞きたい?」

「全部」

「えぇ……」


 今世合わせると30年分以上あるんだが。


「じゃあ主要なとこだけ」

「んー。……面白くないよ?」

「いいよ」


「じゃあ話す」



誰にも話したことのない、私の過去について。

次回から数話は主人公の過去話です。

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