おまけ2 一宮と間切
おまけ。
僕には初等部の頃から仲の良い間切梓という友人がいる。何がきっかけで仲良くなったのかなどは覚えていないけれど、初等部一年の頃から仲良しだ。梓は基本人の良さそうな笑みを浮かべて、優しい口調で他人に接している。けれど実際は無口で、少し口も悪いらしく、家だと無表情で物静かになる。そんな素の部分を見せてくれるから、たぶん梓も僕に気を許してくれているんだと思う。
さて、そんな僕の友人だけど、彼には妹と弟がいる。そして彼はその二人を溺愛している。
妹さんの名前は波留、弟くんは圭。波留ちゃんは素の梓と同じく物静かで、圭くんは逆に元気な子だ。三人の兄弟仲は良好だと思う。むしろ良すぎるんじゃないかな。僕には兄弟がいないから、普通の兄弟がわからないけれど。
波留ちゃんは素の梓同様、物静かな子で、成績優秀らしい。体育祭ではリレーの選手に選ばれていたし、運動もできるんだと思う。音楽と美術は苦手だと梓に聞いた。あと、料理ができる。
圭くんは上二人に比べると勉強を嫌がるらしいけど、それでも優秀な方だという。上が規格外なんじゃないかな。梓なんて趣味が勉強みたいなところあるし。その代わり圭くんは運動が大好きらしくて、勉強に飽きるとランニングしに行ったりしている。兄弟の中で一番足が速いらしい。圭くんも音楽と美術は苦手らしいけど、波留ちゃん程じゃないと言っていた。
因みに、梓も音楽と美術は苦手らしい。他人より多めに練習しないと平均も取れないと嘆いていた。
先程も言ったが、梓は妹と弟を溺愛している。
少し前、学園祭の時期に梓が生徒会の仕事にクラスの仕事、それから少し面倒な事に巻き込まれていたことがある。あまりの忙しさに気力の尽きたらしい梓は昼休みに生徒会室でぐったりしていた。僕が大丈夫かと声をかけても返事が返って来ないくらいには疲れていたらしい。暫くぐったりしていた梓がすっと携帯を取り出し、弄り始めた。僕はそれを見て、少しは元気になったようだと判断し、給湯室を借りてお茶を淹れた。そして、お茶を淹れて部屋に戻ると、梓がこちらを見ていた。無表情で。
「宏和、銀杏は好きか」
いきなりすぎて、「まぁ、うん」としか答えられなかった。返事はそれで良かったらしい。梓は携帯をこちらに見せてきた。画面には梓の自宅から少し離れたところにある銀杏並木が移っている。
「やることに一区切りついたら、行こう」
「いいよ。波留ちゃんと圭くんも?」
「勿論」
梓は二人を溺愛している。
ストレスが溜まったら二人を甘やかすなり喜ばすなりするのがストレス発散になるらしい。二人が楽しそうにしてると嬉しいんだと。それができない場合は勉強するらしい。
「波留ちゃんとか好きそうだよね」
「あぁ。圭は走りそうだ」
「そうだね」
少しだけ気分が上昇したらしい梓は、午後もちゃんと笑顔を貼り付けて学校をやり過ごしていた。
銀杏並木には本当に連れて行かれた。綺麗だった。
「一宮さん?」
波留ちゃんの声に思考を止め、視線を戻す。波留ちゃんがベッドでレシピ本を広げている。
「ん?」
「一宮さん、どれが食べたいですか?」
「どんなのがあるの?」
僕もベッドの端に手をついて本を覗き込む。
波留ちゃんはこの間男に刺された。まだ傷が癒えていないため、家族から絶対安静を言い渡されているらしい。暇つぶしのためにレシピ本含め、いろんな本を読み漁っているようだ。
「これかなぁ」
本に載っている和食のレシピを指差す。
「ふむふむ」
波留ちゃんはそのページに付箋をつける。楽しそうだ。
早く怪我が治るといいな。




