おまけ1 間切と悪夢
入れ忘れた話。
流血表現あり。暗いです。
血が、流れている。
倒れ込んだ妹の腹部から止めどなく流れている。
男に刺され、その後すぐに刃物を抜かれたせいもあってか、血が止まらない。
人はある程度血を失うと死ぬ。
胴体には重要な器官が詰まっている。重要な血管だってある。まずい。そこを傷つけられていたら。
体がうまく動かない。
救急車を呼ばなければならないのに、体が動かない。
動けない俺の目の前で、妹の体からはどんどん血が流れでていた。
このままじゃ妹は。
「っー!!」
目を開けるとそこに妹はいなかった。
夢か、と胸をなでおろす。嫌な汗をかいた。
妹が、波留が男に刺されてから一週間が経った。妹は元気にしている。生きている。それはわかっているけれど。
あの日の光景が忘れられない。
妹が刺された。俺がいたのに。
もし妹が反撃しなかったら。男のナイフがもう一度その身体に突き立てられていたら。ブザーの音に気がついた大人たちが男を取り押さえてくれなかったら。茜さんが救急車を呼んでくれていなかったら。
実際には妹は反撃したし、男のナイフも一度受けただけだし、ブザーの音に気がついた大人たちが男を取り押さえてくれたし、茜さんは救急車を呼んでくれていた。
ありえないことだとわかっていても何度も考え、恐怖してしまう。
駄目だな。このままだとまた夢を見そうだ。一度水を飲んで、落ち着いてから寝よう。
俺はそう考えてキッチンへと降りた。キッチンには水を飲んでいる波留がいた。
生きている。
凄く顔色が悪いけど。
「波留」
「兄さん……うわ、顔色悪いね」
「お前もな」
「ははは」
妹の顔色が悪い理由はわかっている。2日前にもあった。
「……兄さん、一緒に寝てもいい?」
「あぁ」
妹からの申し出に頷く。水を飲んだら少し落ち着いた。
二人して階段を上がり、俺の部屋のベッドに潜る。
「落ち着く……」
「それはよかった」
それから、少しだけ雑談をして、妹が寝たのを確かめてから、俺も妹を抱きしめて寝た。
温かい。
妹は男に刺される夢を見るそうだ。
トラウマになっているんだろう。まだあれからあまり日が経っていない。2日前、一緒に寝たときに教えてくれた。俺と一緒に寝ると安心するそうだ。それが少しだけ嬉しかった。
……もう二度とあんなのはゴメンだ。
夢を見る。
男に刃物で刺される夢。
この間のことがあったからだろう。
しかし、この間の記憶を再現した夢じゃない。
私の、死に際の、記憶を再現した夢だ。




