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脇役らしく平和に暮らしたい  作者: 櫻井 羊
小学生編
60/232

ごじゅうく


 体育祭が終わったらすぐに夏休み!



 なんてことには、今年はならなかった。




「キャァァァ! 包丁をそんなふうに持たないで!! こっちに向けないで!! 危ないから!!」

「手元見て! 指切れちゃうから! 先生の顔見ないで!」

「人参が粉になってる!?」

「それは強火じゃない! 強火を超えた何かだ! 火事になる!!」

「救護班ー!!!」




 調理台に向かう私の周りは、阿鼻叫喚、地獄絵図になっていた。主に叫んでいるのは大人たちだけど。




 この学校は6年生になると宿泊学習がある。体育祭のあとに、文字通り泊りがけの行事だ。学習と言っても勉強は少ない。

 因みに今は野外炊飯の時間である。


 ……メニューはカレーな、ただの野外炊飯である。




 まぁ、考えてみてほしい。ここに居るのは私も含めお金持ちばかり。私なんかは家でも調理をするから普通にやれるが、他の子は結構、調理ができなかったりする。それこそ美野里ちゃんなんて家にお手伝いさんがいて、その人たちが料理をすべてやってくれているというのだ。私とは別次元の人間である。うちにはお手伝いさんはもう来ていない。昔、私達が小さい頃、母の手伝いをしてくれていた人がいたくらいだ。


 そんなわけでここにいる生徒たちは料理をあまりしない人たちらしい。学校の調理実習は家庭科室という区切られた空間で、先生の目の届く範囲で、最新の器具を使ってやっているので意外とすんなり行くのだが…。今日は野外。しかも学年全体。そして米は飯盒で炊く。いつもと違うせいか、生徒たちはやらかしまくっている。



「先生ここの班担当でよかった……」


 うちのクラス担任は凄く嬉しそうに野菜を切っている。






 この宿泊学習が始まる前、宿泊学習のしおりを作るために秋田くんと私と担任は放課後の教室で作業をしていた。その時担任がもらしていたのだ。「宿泊学習が不安でならない」と。なるほどこの状況を見れば納得だ。一つのグループは約五人。そのそれぞれのグループに大人が一人付くよう配置しているあたり、これは毎年のことなんだろう。

 ちなみにうちの班員は秋田くんに早苗ちゃん、美野里ちゃん、私の4人である。クラス人数の関係でこの斑は4人だ。仲の良いいつものメンバーで固まれるとは運が良い。それにこの班は私以外料理をあまりしないらしいが意外と落ち着いて取り組んでいるので他の班のように大惨事にはなっていない。本当に幸運だ。



「先生、私飯盒の方見てきます」

「わかったー」


 私は秋田くんが一人でやっているはずの米炊きの方へ向かう。


「秋田くん調子どうー?」

「たぶんできてると思うー」

「おぉー」

「中火って写真見る感じこれくらいだよね?」

「たぶん。私も飯盒はやらないからなぁ」

「普段やらないことやるのって楽しいね」

 楽しそうに火加減を調節する秋田くんは中々子供らしくて可愛い。周りは相変わらず阿鼻叫喚だけど。


「カレーは? できてきてる?」

「うん。玉ねぎの皮もちゃんと剥けてるし、材料もちゃんと切れてるよ。怪我人もいない」

「その委員長の言葉だけで他の班がどんな状況か想像ができるね…」

 飯盒の場所は調理台から少し離れているからな。調理場の叫びは聞こえづらいんだろう。


「すごく叫んでるのはわかるんだけど内容まではねぇ」

「なるほど」

「代わりに飯盒係を見ている大人たちの叫びなら聞こえるよ」

 だろうね。

 チラリと周りを見れば慌てている大人が何人か。1班に一人ついていても飯盒係とカレー係で調理場が離れているから手が足りないんだろう。頑張れ大人たち。


「炊けたらどうするんだっけ」

「逆さにして蒸らすんだよ」

「なるほど。ところで委員長」

「ん?」

 二人で飯盒の手順が書かれた紙を見ていると不意に顔を上げ、そして私に声をかける。どした。


「あれ、強火?」



 秋田くんが指差す先には火柱が立っていた。




「強火……ではないんじゃないかなぁ……」




 大人たちも大変だなぁ、なんて他人事のように思いながら私は鎮火されていく火を眺めた。




 その後、美野里ちゃんが少し指を切ったけれど、無事に作り上げられたうちの班のカレーは美味しかった。無事料理が出来上がったことに担任は涙していた。

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