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脇役らしく平和に暮らしたい  作者: 櫻井 羊
小学生編
56/232

ごじゅうご




「波留ちゃん」

「んー? 早苗ちゃんどした?」

 学園祭も終わり、ゆったりとした日常が戻ってきて数日。放課後に日誌を書いていると早苗ちゃんが真面目な顔で話しかけてきた。今日は習い事とかないのかな。一緒に帰りたい。


「波留ちゃんは本屋行ったことある?」

「あるけど……その言い方だと早苗ちゃんは行ったことがないように聞こえるね?」

「ないの。だからね」

 キュッと、細く小さい手が私の手をつかむ。


「今日の放課後本屋に付いてきてください」



 戦地に赴くような覚悟を決めた顔でそんな平和な頼みをされたのは初めてだった。





「わぁー……! 本がいっぱい……!!」



 日誌を担任に提出して、学校から一番近い本屋に足を運ぶと早苗ちゃんは目を輝かせた。


「小説はあっちだね。なに欲しいの?」

「決まってない。お母さんには好きなの買ってきていいって言われてるからっ……!」



 早苗ちゃんは本を読みはするが、今までは家にあったご両親の本を借りて読んでいたらしい。ご両親が無類の本好きで家には本がたくさんあり、それだけで今までは満足していたけれど、最近は他のも読みたくなってきて、親に言ったらしい。そうしたらご両親は本屋で好きなものを買ってきていいと、お小遣いをくれたらしい。そして初本屋。不安なので私についてきてもらったと。まさか本屋に来たことがないとは驚いた。ご両親は連れてこなかったんだろうか。


「早苗ちゃん、私も少し見て回ってくるね」

「うん。私この辺にいるね」

 小説を手に取り、吟味し始めた早苗ちゃんに一言言ってからその場を離れ、漫画コーナーへ行く。まだ買ってない最新刊が一つあったはずだ。それを取ったら私も小説コーナーで吟味しよ。



「…………」

「…………」



 軽い足取りで踏み入れた漫画コーナーで私は固まった。



「……………………こんにちは、間切さん」

「こんにちは、木野村さん」


 私に気がついて固まっていた木野村はニコリと笑顔を向けて挨拶をした。そんな木野村の手には漫画が何冊か。


「間切さんも漫画を買いに?」

「そうだよ」

 答えながら足を進め、目当ての新刊が平積みされているのを見つけてそれを手に取る。

「あら、それ読んだことありませんわ。面白いですか?」

「私は好きだよ。ギャグ漫画だから何も考えずに読めるし」

 真面目な話も好きだけどたまにこういうの読むとハマるよ、と言えば木野村はなるほど、と頷いてくれる。


「間切さん今日はお一人で?」

「友達と一緒」

「やっぱりこの本屋は学校からも近いですし、東雲の学生は来ますわよね」

「そだね。便利だし」

「次からは少し離れたところで買うことにしますわ……」

「なんで?」

「私が漫画を買うのはイメージに合いませんもの。純文学とかならともかく」

「なるほどねぇ」

 確かに私の持つお嬢様像も漫画を読んでゲラゲラ笑ったりしない。

「まぁ、今日はこのまま買いますけど! では、また!」


 そう言って木野村は手に取った漫画たちを抱えてレジへと向かった。





「早苗ちゃん決まった?」

「7冊まで絞れたけど……」

 何冊買うのか聞いてないからわからないけど、たぶん7冊は絞れたって言わない。もともとは何冊だったんだろう。





「うん……取り敢えずこの2冊買うことにする」



 そう言って早苗ちゃんが本を購入したのは悩みに悩み抜いた後だった。


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