ごじゅうさん 五年学園祭2
「……今日は髪長いんだね。はいちーず」
髪をいじられたまま作業をした日から数日後、私はまた演劇部を手伝いに来てた。そしてそんな私を出迎えたのは各々エクステでもつけられたのであろう、常より髪が長くなった赤坂と辻村だった。今日もおしゃれな髪型してんね。
「なんか髪だけならセーフな気がしてきたし、いっかなって」
「僕は抵抗した」
似合う? と笑顔で聞いてくる赤坂に対し、辻村はこの世の終わりみたいな顔をしている。似合ってるからそんなに気にしなくていいんじゃないかな。
「ちなみにマサは最初ツインテール? にされる予定だった」
「ついんてーる」
「頑張って抵抗したんだよ……」
ツインテールは嫌だ、と辻村が呟く。小5でツインテール。しかも男子。それは抵抗するな。仕方ない。
「そして今、奥で木野村が髪をいじられている」
「楽しそうだったよね」
「木野村さんは女子だからね」
女子は髪をいじるのは好きだろう。おしゃれなんかにも興味が出てくるお年頃だし。……私も年相応にはしゃぐべきだろうか。いや、無理だな。以前だってお洒落にはあまり興味がなかった。
「間切さんも女子だよね?」
「女子だね」
「喜んでなかったよね?」
「いや、落ち着かないし」
本当に落ち着かなかった。作業中、少しでも集中力が切れるとずっと頭が気になったくらいだ。もうやりたくない。
「似合ってたのに」
「ありがとう。辻村くんもその髪型にあってると思うよ」
「凄く嬉しくない」
褒められたから褒め返したら拗ねられた。本当に似合ってると思うんだけどな。取り敢えず拗ねてる姿を写真に収めておこう。
「というか、辻村くんが本気で嫌がったら流石に髪いじられないのでは?」
そこまで鬼じゃないだろあの人も。ふと思い立った疑問を口にしたら辻村は自嘲気味に笑った。どうした。
「姉さんにお願いされたから……」
相変わらずのシスコンだなぁ。
「あ、一人増えてる」
三人で談話していると背後から肩を掴まれた。すごく聞き覚えのある声が真後ろからする。振り返りたくない。逃げたい。
「いやぁ、ちょうど良い! また髪いじらせてー」
「いや、あの、今日は遠慮したいなぁ、なんて」
「えーなんで? いや?」
「ほ、ほら、私の髪なんていじっても楽しくないでしょう? もっと可愛い子の髪弄りましょうよ!」
「……だめ?」
「っ……だめ……じゃないですっ……!!」
だからそんな子犬みたいな目で見ないでほしい。
「間切って他人からのお願いに弱いよな」
「特に年下ね。なんか騙されないか心配」
「本当ですわねぇ」
いつの間にか混ざっていた頭に花を咲かせた木野村と赤坂、辻村が心配そうに私を見ている。私だって断るときは断る。
その日は木野村とお揃いの髪型にされた状態で作業に励んだ。頭につけられた造花は演劇部で作ったらしい。本物そっくり。これも劇で使うらしい。頭に花を咲かせた登場人物が複数人出てくる劇が地味に気になる。見に行こうかな。




