ごじゅうに 五年学園祭
『間切ちゃん今日の放課後暇?』
そう、茜さんからメールが来たのは今日の朝だった。2学期に入り、学園祭の準備が着々と進んでいる中、うちのクラスは今年も研究発表になったのでやることが少ない。つまり暇だったので『暇です』と送れば『少し演劇部を手伝ってください』と絵文字なしの文章が送られてきた。普段は絵文字を使った可愛らしい文章なのに珍しい。よっぽど切羽詰まっているのだろうか。了承の意を込めて返事を送る。放課後に演劇部の方へお邪魔させてもらうことにした。
「執事の衣装って去年使ったけー?!」
「赤のペンキなくなった! 予備はー!?」
「あぁー! 板折れたぁぁあ!!」
放課後の演劇部はカオスだった。
なんだここは。いつもはもっと落ち着いてないか? 少なくとも私が演劇で手伝ってもらったときはもっと落ち着いていた。
「あ、間切ちゃん!!」
「こんにちは」
「来てくれたんだね! ありがとう! 少し待っててー」
両手に荷物を持ったまま茜さんは去っていく。
少ししたら茜さんが戻ってきた。
「実は今年、演劇やる団体が多くて……」
「だからこんなことに」
「早めに準備始めてるんだけど、間にあうか微妙なの。ごめんね、呼びつけちゃって」
「いえ。お手伝いします」
「助かる! えっとね、向こうで小物作ってるからそれを手伝ってもらってもいい?」
「はい」
茜さんが示した場所に行けばそこには高校生数人と、手伝いと思しき小学生が二人いた。皆真面目に作成に取り掛かっている。とても真面目な空間だ。
一人を除いた全員の頭が凄くお洒落になっていること以外は。
「………?」
凡庸な私の頭では状況が読み込めない。何故作業中の人間の頭があんな手の混んだお洒落な髪型になっているんだ? 流行り? それともあぁすることで集中力が上がるのか?
私は考えていると小学生のうちの一人がこちらを向いた。赤坂だ。
「…………可愛い髪型してるね。似合ってると思う。ハイ、チーズ」
「間切、お前俺達が好きでこんな髪型してると思うのか」
「違うのか」
「違う」
そうは言いながらもちゃんとこちらに向けてピースしてくれるんだから中々ノリノリだと思う。
赤坂の髪型はサイドで編み込みしてある状態だ。あと可愛いピンがいくつか留めてある。
赤坂がいるということは。
「隣は辻村くんか」
「おう」
「……僕はいないものだと思っててほしい…」
作業しながらそう言う辻村の頭にはリボンのついたミニハットがつけられている。あのハット手作りかな。二人は男子で髪が短いからか、周りの女性陣よりは大人しめな髪型だな。
「おーい、布やらなんやら持ってきたよーっと、間切ちゃんどしたの?」
「ここにいる皆さんの髪型がすごいなと」
「あー、これね。今年小道具と衣装作ってくれてる子がすごく器用なんだけど、ストレス貯まると他人の髪弄るのよ。その被害者たち。因みに唯一頭に何もつけてないあの子がその加害者ね」
「へぇ」
茜さんが荷物の入ったダンボールを下において指差す先にいたのは髪をポニーテールにした女の人。あの人か。
その女の人が不意にこちらを向いた。
「部長ー!! 飽きた!」
「頑張れー」
女の人は茜さんに突進してきた。すごい勢いだ。茜さん痛くないのかな。
「部長、この子は?」
「手伝いに来てくれた子」
「へぇ、ちょうどいい!」
「へっ」
茜さんに突進した女の人は隣りに居た私の頭をガシっと両手で掴んできた。目が怖い。
「ちょうど今、令嬢役の子の髪型に悩まされてたんだよねぇ」
「あー、その子間切ちゃんと同じくらいの髪の長さだったね」
「そうそう……丁度いいわぁ」
なにが、なにが丁度いいのか。手を離してほしい。今私の本能が逃げろと叫んでいるんだ。逃げさせろ。
私の心中など知らない女の人はとても楽しそうに笑い、片方の手を頭から腕にうつした。やばい、逃げねば。
「あ、茜さん……」
「間切ちゃんファイトっ」
「間切ーファイトー」
「間切さん頑張れー」
知り合い全員に見捨てられた。
その後私は前世含め人生で一番おしゃれな髪型にされたまま作業に励む羽目になった。




