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脇役らしく平和に暮らしたい  作者: 櫻井 羊
小学生編
51/232

ごじゅう 五年体育祭

 照りつける太陽に、雲一つない青空。



 そして、例年よりも高い気温。



「体育祭だー!!」

「優勝するぞー!」


 うちのクラスの体育祭大好きっ子たちはやる気満々です。この気候で。嘘だろ。子供の体力と気力どうなってるの? ダウンしてる私がおかしいのか?


「委員長今年もリレー頼んだよ」

「任せとけ……」

「波留ちゃん大丈夫……? 氷いる?」

 力なくこたえれば早苗ちゃんが私を心配そうにのぞき込んできた。うん。むり。日陰に行きたい。というか早苗ちゃんは何故氷を持っているんだ。溶けるぞ。

 無慈悲にも生徒の待機場所には日陰などなく、照りつける太陽から逃げることはできずに体育祭が始まった。






「熱中症ね。初期症状の段階で来てくれて助かったわ。少し休めば治るでしょう」

「うぇぇ……きもちわるぅ……」


 前世合わせ人生初の熱中症である。前世はお家大好きっ子だったもんで。


「もー、委員長大丈夫ー?」

「…………なんで私よりもはしゃいで、水分も取らずに走り回ってた君はそんなに元気なんだ」

 保健室のソファでぐったりしてスポドリを飲んでいる私を団扇で仰いでくれている秋田くんに恨めしそうに言えば秋田くんはすごく良い笑顔を浮かべた。


「体力の差かな!」

「……」

 ……体力づくりしようかな。圭のランニングとかに付き合ったりしたら体力つくだろ。そうしよう。なんか悔しい。


「あ、そろそろ俺いかなきゃ。委員長大人しくしててね。リレーも無理して出なくていいからっ!」

「おー、頑張れ」


 ソファでぐったりしたまま手を振れば秋田くんは保健室から去っていった。秋田くん、リレー以外にも出場するのか。


「間切さん、辛いならベッドで横になってていいわよ?」

「……じゃあ少しだけ」


 先生の言葉に甘えようと2つある保健室のベッドに目を向ければ、どちらもカーテンで仕切られていた。これ、使用中じゃないか?


「右の方は誰も使ってないから」

「そうですか」

 ならばなぜカーテンを閉めているのか。疑問に思いながらも右側のベッドの方のカーテンをシャッと開く。


「……」

「……」




 すごく良く知った顔がいた。私はほぼ反射でカーテンを閉めていた。


「なんで閉める……!?」

「ベッドで寝てるってことは体調悪いんでしょ出てくんな」

 閉めたカーテンが再び開かれ、中からベッドに横たわっていた赤坂出てきた。出てくんな。先生は「あらー、空いてるのは逆だったかぁ」とぼやいている。間違えないでほしい。


「ちょっと熱中症なだけだからっ!」

「奇遇だね、私も熱中症だよ。だから休ませてくれ、君も寝ろ」

「眠くない」

「じゃあ横になってろ」

「えー」

「それかもう元気なら戻ればいいじゃないか」

「……対応がめんどい」

 何を言ってるんだコイツは、と思ったがそれと同時に少し納得する。赤坂がここにいるのはクラスメイトなら知っているだろうし、妙に取り巻きのいる赤坂のことだ、戻ればクラスメイトたちから心配されまくるのだろう。度が過ぎればそれは只々面倒な事にもなるのか。なるほど。


「ほら、間切休むんだろ」


 一人納得していたら腕を引かれ、そのままベッドにダイブした。いくら柔らかいベッドでも思いっきりダイブしたら多少は痛い。


「折角だしお喋りしよう」

「なぜ」

「暇だから?」

「休ませてくれ」

「えー」


 もう起き上がる気力もないのでベッドに横になれば赤坂が団扇で仰いでくれた。涼しい。とても涼しい。が、赤坂にこんなことさせてるのが同学年にバレたら私血祭りに上げられたりしないだろうか。


「涼しい?」

「……ん。でももういい」

「なんで?」

「誰かに見られたら嫌だから」

 血祭りは嫌だ。平穏に暮らしたい。

「カーテン引いてあるし平気だろ」

 いや、そのカーテン開けられたら終わりなんだけども。ていうかそうか、この空間仕切ってるのはカーテンだけか。ということは声も筒抜け……。


 よし、寝よう。会話もやめて寝よう。




「寝るのか?」

「ねる」

「……そんなに俺と話すの嫌か?」

「君と話すのは嫌いじゃない」

「じゃあ話そう」

「……」


「間切は今年もリレー?」

「体調が戻れば」

 赤坂がパタパタと団扇で仰いでくれているおかげでやんわりと涼しい風が来る。心地いい。

「そっか、楽しみだ」

「なんでだよ……」

 一応私は無駄に足が速いはずだから、私がリレーに出ると赤坂のクラスが優勝する確率がさがると思うんだが。なんで楽しみなんだ。これが自信のある人間の余裕か。


「間切の走る姿ってすごく綺麗だから見るの好きなんだよなー」

「……ありがとう……?」


 走る姿が綺麗とは……?

 些か疑問に思ったが、取り敢えず突っ込むのはやめておいた。フォームがきれいとかそんなだろう。私フォームとか気にしたことないけど。


「ふたりともー、そろそろリレーの選手の集合かかるけど、体調はどう?」

「俺はもう平気です」

「……サボりたい」

「元気そうねー」

 初期症状の段階で来てくれたし、もう大丈夫そうね、ちょっとでも体調悪くなったらまた来るのよ。と保健室の先生に見送られて保健室を後にする。またあの炎天下にいくのか。嫌すぎる。


「楽しみだなっ!」

「あぁ……うん……そだね……」


 ……子供の無邪気な笑顔って眩しいなぁ。



 このあと全力でリレーに挑んだ。誰か褒めてほしい。


 あと今年は優勝できなかった。少し悔しかったので来年はもっと頑張ろうと思う。

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