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脇役らしく平和に暮らしたい  作者: 櫻井 羊
小学生編
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よんじゅうはち






「波留、圭、明日暇か?」



 学園祭も終わり、のんびりとしていたとある日、真面目な顔をした兄がリビングでゲームをしていた私達に聞いてきた。あ、そろそろ夕飯かな。今日はたしか母が用意してくれているはずだ。


「私は暇だね」

「僕も!」


「よし。じゃあ電車で少し遠出しよう」


 そう告げる兄は変わらず真顔だった。




「おぉ、見頃だな」

「晴れてよかったね」

「おー! 綺麗!!」

「……」

 兄、一宮さん、圭が各々様々な反応を見せている隣で私は無言でシャッターをきっていた。


 兄につれてこられたのは見事な銀杏並木のある公園だった。盛りを迎えたそれは道を美しい黄色で染め上げている。地元にはこんな場所はない。


「お兄ちゃん! ちょっと走ってくる!」

「俺も一緒に行く。波留たちはどうする?」

「ゆっくり歩いていくよ」

「僕も」

「わかった。あとで連絡する」

「気をつけてね」

 待ちきれずに走り出した圭を追いかけていく兄をしばらく眺めた後、私と一宮さんも歩き出した。


「綺麗ですね」

「綺麗だね」

「……兄は、いきなりどうしたんでしょうね」

 いつもの兄ならもう少し余裕を持って私達に遠出を提案してくるはずだ。なのに今回は前日、しかも行き先もろくに告げずに。何かあったのだろうかと、心配になったので兄といつも一緒にいる一宮さんに聞いてみることにした。

 私に尋ねられた一宮さんは少し困った顔をしていたが気にしない。


「うーん、少し疲れてたんだろうね。気分転換にここに来たんだと思うよ」

「なるほど……?」

 たぶん、詳しい理由は聞いても教えてもらえないな。そんなに中学校の生活は大変なのだろうか。………もしや、イジメられてるとか……? いや、あの兄に限ってそれはないな。うん。

「波留ちゃん」

「はい?」

 一宮さんに呼ばれ、返事をして顔を上げると同時に手を取られた。驚きだよ。

「人増えてきたから、逸れないようにね」

「なるほど」

 しかし外見10歳、中身それ以上の私としてはだいぶ恥ずかしいのでやめてほしい。いや、外見10歳なら兄(のような人)と手をつなぐのも普通なのか? それとも反抗するべきなのだろうか。

「それに波留ちゃん気を抜くとすぐにいなくなるから」

「……」

 それは、まぁ、うん。否定できない。私だって好きではぐれてるわけじゃないけど。気がつくと一人になっていることが多いのは事実だ。

 私は恥を押し殺して一宮さんと手を繋いだまま歩き出した。まわりの視線が普段以上に気になる。





「……」

「梓、大丈夫?」

「…………疲れた」


 私達がしばらくのんびりと歩いているとベンチに座っている兄を見つけた。そしてもう少し進んだところに落ちてくる銀杏の葉を取ろうとしてぴょんぴょん跳ねる圭の姿が見える。大方、圭を全力で追いかけ回して体力が根こそぎ持って行かれたのだろう。


 圭は兄と比べると些か勉強の出来が良くない。それは兄が勉強できすぎ、ということもあるので、圭の成績が悪いわけではないが。圭だって学年全体で見れば確実に上位だ。そんな圭は運動が大の得意である。足は速い、球技だって得意、泳ぐのも得意。それに対し兄は足は速いし、ある程度の運動能力もあるが、それらは圭と比べると些か劣る。もちろん、こちらも授業などではできる方としてみなされるレベルではあるが。うん。私の兄弟ハイスペック。私も足は速いが勉強は兄ほどはできない。これは前世での積み重ねがあるからできるように見えているだけで、実際はそこまで頭は良くない。運動だって普通より上なだけだ。足は妙に速いけど。ちなみに球技はあまり得意ではない。特にサッカー。そして、私と兄が圭と比べて明らかに劣っているのが体力である。圭は外で遊ぶのが大好きな子で、気がつけば走り回っている。朝は走り込みをしている。私と兄はどちらかというと勉強の方に時間を割いているのでそれと比べると運動量が少なく、体力の多さも劣る。


 ので、全力で走り回る圭を追いかけると必然的に今の兄のようになる。



「大丈夫?」

「…………圭、楽しそうだなぁ」

 兄は愛おしさを全面に出して銀杏の葉を追いかける圭を見てつぶやいた。同意。

「梓、はいお茶」

「ありがとう。あったか……」

 いつ間に買ってきたのか、一宮さんがペットボトルに入ったお茶を渡していた。自販機で温かいお茶を買ってきたのか。

「……波留、楽しめたか?」

「何十枚も写真を撮っちゃうくらいには」

「それは撮りすぎだろう」

「そう?」

 むしろ足りないくらいだ。やっぱり今度ビデオカメラを買おう。小遣いで足りるだろうか。


「お姉ちゃーん!!」

「んー?」

 ビデオカメラのことを考えていたら圭に呼ばれた。圭を見遣れば手招きをしているではないか。何かあったのだろうかとそちらに向かえば圭に手を掴まれた。


「お姉ちゃんもいっしょにやろ!」


 あぁ、今日も私の弟は本当にかわいい。


 その後は圭と遊んだ。銀杏の葉はなかなか捕まえられなかった。そして圭と全力で遊んだおかげで家に着く頃には体力が尽きていた。因みに圭はまだまだ元気そうだった。あの子の体力どうなってるの。


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