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脇役らしく平和に暮らしたい  作者: 櫻井 羊
小学生編
48/232

よんじゅうなな 四年学園祭 2



「波留ちゃん……! 帰ろう……!」

「大丈夫だよ早苗ちゃん! たぶん怖くないよ!」

「そういう美野里ちゃんも手震えてるよ……!」

「委員長、絶対に、手ぇ離しちゃ駄目だよ!?」



「君ら学園祭の出し物のお化け屋敷に怯え過ぎじゃないか?」



 今日は学園祭初日です。


「兄さんのクラスはお化け屋敷なんだね」

「うん。是非入っていって欲しいんだけど……怖いなら無理しないほうがいいと思うんだ」

 受付の席に座っている兄は私の後ろにいる三人に目をやった。全員もれなくお化けが怖いらしい。私の服をつかむのは構わないがセーターを引っ張らないでくれ。のびる。

「波留ちゃんは怖くないの?」

「あまり」

「委員長強い……」

 兄と一緒に受付をしている一宮さんに聞かれて答えると私の服を掴んでた秋田くんが反応した。引っ張るな。というか一宮さんと兄はいつも一緒だな。仲良しですね。


「委員長入ろう……!」

「せめてその手を離してから言ってくれ」

 セーターが伸び始めてるんだ。

「波留ちゃん……! 私いくよ……!」

「私も怖くないから平気!」

「…………わかった、入ろう」

 なぜこの子らはそんなに強がるのかわからない。まぁいいか。入ってみよう。








「大丈夫?」

「モテモテだね、波留」

 背中に秋田くんがしがみつき、右腕を美野里ちゃん、左腕を早苗ちゃんに掴まれている私を見てそう言いますか。身動きが取れない。


「結構凝ってましたね」

「そこまで怯えられるとは思わなかったけどね」

 そうだね。私もここまでホールドされると思ってなかったよ。これいつ解放されるんだろう。

 お化け屋敷はなかなか作りが凝っていて、学園祭の出し物とは思えないくらいだった。おかげでこのざまである。私も少し驚いてしまったものだ。三人ほどではないけど。

「三人とも……もうお化け屋敷終わったから離そうよ」

「委員長が呪われたらどうするの……!」

「お化けが波留ちゃんのこと追いかけてきたら……!」

「そうだよ波留ちゃん! お化け屋敷抜けたからって油断しちゃだめだよ!!」


 なんでお化けの標的が私なのか。



 結局、三人を宥めるのに大層な時間がかかってしまった。あの子ら学園祭のやつにあんなに怯えて、ホラー映画とか、もっと怖いお化け屋敷とか大丈夫なんだろうか。いや、だめか。多分だめだ。

 三人を宥めた私は少し一人で校舎を彷徨っていた。三人は茜さんのクラスがやってるカフェにおいてきた。今頃ラテアートを堪能している頃だろう。

 さて、今年は何が売ってるかな。わたあめ食べたい。そういえば去年は秋田くんがりんご飴を食べてたな。今年も売ってたら食べよう。

 そんなことを考え、パンフレットを見ながら歩いていると誰かにぶつかったのか体に衝撃が走った。


「あ、ごめんなさい」

「その声間切か?」

「……」


 箱の山が喋ってる。


 声の感じからして赤坂だと思われる人は大量の箱を持っていた。手さげにも物がいっぱいだ。なにこれ。


「えーと……大丈夫?」

「…………できることなら運ぶの手伝って欲しい」

「おう……」

 うん。それ、前見えてないもんね。よく歩けてたよ。むしろよくそれ持ててるよ。

 私は赤坂がもっている箱を分けてもらってそのまま赤坂のあとをついていく。荷物が少なくなった赤坂の足取りは軽やかだ。


「おもかったー」

 赤坂が向かったのは初等部の空き教室。机や椅子がいくつかおいてあるだけであとは何もない教室だ。赤坂は地面に荷物を置くとそのまま座りこんだ。私も荷物をおいて座り込む。

「これどしたの」

「……なんか知らないけど貰った」

 赤坂は困ったように笑っていた。




「着いた……」

「重かったですわ……」

 私と赤坂が暫くのんびりしていると辻村と木野村も入室してきた。腕に大量の荷物を抱えて。


「あら、間切さん」

「間切さんだ。どうしたの?」

「俺の荷物運ぶの手伝ってもらったんだ」

「え、羨ましいっ」

「木野村、素が出てる」

「あらやだ」

「……君たちも貰ったの?」

 地面に置かれた二人の荷物を見て問えば二人とも私から視線を逸らした。もらったのか。一体何をどうしたらそんな量の贈り物をもらうのか謎である。


「なんか年々増えてるんだよね、こういうの」

「なー。なんでだろ」

「不思議ですわねぇ」


 この世界には、私には理解できないことが沢山ある。前世の常識では考えられないようなことが起こる。そんなことをこの世に生を受けて10年でなんとなく理解し始めていた私は三人を横目に窓から見える空を眺めた。おそらきれい。




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