よんじゅうさん 4年生 夏休み1
「来ました! 国内最大級の遊園地!」
「来たわね」
「……来ましたね……」
「……」
空が青いなぁ。
よく晴れた夏の日、私は辻村姉妹と有村さんとともに遊園地に来ていた。
事の発端は一週間ほど前。
「間切ちゃん、この遊園地行ってみたくない?」
夏休みに入り、茜さんにそんな文と共にメールで送られてきたのはとある有名な遊園地の画像。絶叫系の乗り物が多かったはずだ。これは行ってみたいと即答したら、じゃあ行こうと連絡が来た。その後両親に許可をもらい、いざ当日となった朝、私の家の前には1台の車が止まっていた。すごく高級そうだった。朝迎えに来るとは聞いていたけれども。そこまで遠くない遊園地だし、私は電車で行くと思ってたよ。
そして意を決して車に乗り込むと茜さんの他に千裕さんと有村さんが乗っていた。何だこのメンツは。聞いてない。コッソリと茜さんに尋ねれば「ダブルデートがしたくて」と言われた。ダブルデート。これはダブルデートなのか?
「それなら私じゃなくて辻村くんを誘えばよかったのでは…」
「マサは二人が婚約したこと知らないし、それに今日用事があってこれないの」
「はぁ……」
辻村はまだ知らないのか。よく隠し通せるものだ。
「それに、これは有村さんが姉さんにふさわしいかどうかを見極めるためのもの」
「…」
「というのが建前で。実際は私が二人のイチャイチャする姿を見たいだけなの」
あと遊園地に行ってみたかった、と茜さんは付け足した。
なるほど。知り合いがイチャイチャする姿を見たいとは。別にいいけど。遊園地来れたし良いけど。というか茜さん遊園地初ですか。有村さんといいこの世界の金持ちは遊園地に行かないね?
そんなこんなで冒頭に至る。遊園地に到着。
「さ! 何から乗ります?」
「なるべくゆったりしたやつで」
「絶叫系一択ね」
そう言った千裕さんはとても良い笑顔で有村さんの腕を掴んだ。逃さないつもりだこの人。
「いや、俺絶叫系はちょっと……!」
「乗ってみなきゃわからないじゃない」
それにここは絶叫系が有名なのよ、と千裕さんが言う。その通りである。有村さんもしかしてそのこと知らなかったのかな。
「姉さん、これはどう? この遊園地で一番速いらしいよ」
「じゃあそこにしましょう。間切ちゃんもいい?」
「はい」
有村さんが千裕さんによって連れて行かれる後ろを茜さんと歩く。既に有村さんの顔は若干青褪めている。大丈夫か。
「「……」」
アトラクションが終わったあと、有村さんと茜さんは撃沈していた。茜さんも絶叫系が駄目らしい。
「あらあら」
「お二人とも大丈夫ですか?」
「あれは人が乗るものじゃないね……!」
「それ、前に有村さんも言ってましたよ」
初めて絶叫系の乗り物に乗ったときに。そのときも瀕死だった。
「間切ちゃんこっちおいで」
有村さんに手招きされてそちらへ行けば頭を撫でられた。ふむ。元気そうですね。
「有村先輩浮気ですか?」
「えっ」
「あら、浮気なの?」
「違いますよ。癒やされてるだけです」
冗談よ、と言いながら辻村姉妹は笑った。茜さんは顔が死んでるけど。
因みに会話している間も有村さんの撫でる手は止まらない。いや、いいけれども。しかし私に癒やしを求めないでほしい。どうやら表情は乏しいようだし見目だって普通だ。それに可愛いと呼べる小ささは遠に終わってしまっている。
「まぁ癒やされるわよね」
「ねー」
「……」
そう言うと千裕さんも頭をなで始め、茜さんは頬をムニムニし始めた。もう好きにしてくれ。
「沢山乗ったわねぇ」
「沢山乗りましたね」
そして二人が撃沈した。
帰りの車の中で茜さんと有村さんはぐったりしていた。無理もない。あの後アトラクションに乗れるだけ乗ったんだから。ぐったりしている二人を見た運転手さんは苦笑いをしていた。そして千裕さんは絶叫系が大好きらしくピンピンしている。この人強い。
「うぅ……姉さん酷い……」
私の隣で茜さんが唸る。大丈夫かな。
千裕さんは有無を言わさぬ雰囲気で二人を乗り物に連れ回した。あれはすごかった。どうやったらあんな雰囲気出せるのだろうか。ちょっと気になる。
その後車はまず有村さんの家の前に辿りつき、彼をおろした。有村さんの顔は相変わらず青褪めていた。
「あっ!」
私の家へと向かう車の中で茜さんが声を上げる。何事か。
「どうしました?」
「姉さんと有村先輩がイチャイチャするの結局見れてないっ!」
婚約する前と何も変わってなかった! と茜さんは叫んだ。
茜さんはもう回復したようだ。元気そうで何より。




