よんじゅうに
弟に連絡するとすぐに弟と兄が学校まで来てくれた。それまで私はびしょ濡れのままだった。寒かった。
その日は結局そのままお開きとなり、私は兄弟とともに家に帰った。夕飯は兄が作った肉じゃがだった。兄の作るご飯は美味しいので好きだ。
それから数日後、私は何故か木野村の家にお呼ばれされていた。
「この間は本当にごめんなさい」
そして今、目の前で木野村が土下座をしている。
「!?」
「紅茶を浴びせた上に携帯まで壊してしまって……」
「え、いや、」
「煮るなり焼くなり好きにしてください……切腹も辞さない考えですわ」
「落ち着いて!? 火傷はなかったし制服もクリーニングでなんとかなったし!! あと携帯は壊れてないから!! そんな気にしないで!?」
だから顔を上げてほしい。
私がワタワタしていると木野村がゆっくりと顔を上げだ。真顔だ。
携帯に関しては意外と無事だった。一応ショップに持っていったけど大丈夫だった。壊れていない。
「本当によろしいのですか?」
「いいって。君は私をなんだと思ってるのさ……」
「漫画だとこういった時によく打ち首とかを命じられてましたから……それで」
この子は普段どんな漫画を読んでいるのだろうか。ん? 漫画?
「木野村さん漫画読むの?」
「読みますわ」
「ふぅん。何読むの?」
「……えっと……そうですわね」
私はこの世界ではあまり漫画を読んでいないが、前は結構読んでいた。木野村は少女漫画とか好きそうだな。
「戦国時代をモデルにしたものや、異世界もの……何でも読みますけど、少年漫画が多いですわね」
マジか。
「私のオススメとしてはやっぱり最近有名になってきたー」
木野村は調子が出てきたのか何やら語り始めた。
そうか、木野村は少年漫画を読むのか。私も前は読んでたな。そういえば読んでいた漫画の中で漫画完結していないのがいくつかあった気がする。あれらの結末はどうなったんだろうか。もう知ることはできないんだよな……。
「それで、その時の主人公の表情が言葉では表せないほど絶妙に描かれていて! 本当に素晴らしいの! やっぱり文字も良いけれど、文字では表せないものがあるのよね!」
「そうだねぇ」
なんか、木野村の口調が崩れ始めた気がする。テンション上がってるなぁ。
「あ、この作品はアニメにもなっているの! 漫画は長いから、もしお試しで見て見るならアニメをオススメするわ! 漫画も素晴らしいけどアニメもなかなかよ!」
「それから! ………あっ」
私が生温かい目で見ていることに気がついたのか、木野村が少し固まった。そしてその後、顔を青ざめさせた。大方、テンションがあがって熱く語ってしまったのに気がついたんだろう。そんなに気にすることでもなかろうに。もしかしてこっちが本来なのだろうか。いつものは外面か? まぁ、外面なんて誰でも作るもんだ。兄とか家と外だと口調がだいぶ違うし。
「せっ」
「?」
「切腹しますので介錯をお願いしますわ……!!」
「落ち着いて」
青ざめた顔のまま混乱している木野村をなだめるのは骨が折れた。
「つまり、東雲先輩に憧れてその口調にしたと」
「えぇ。東雲先輩のあのザ・お嬢様なところに憧れますわ」
「……」
いや、たしかにザ・お嬢様だけれども。それを言うなら木野村だってザ・お嬢様では。
落ち着いた木野村がポツポツと話し始めたことをまとめればなんてことはない。ただ東雲先輩に憧れて真似始めただけだ。それくらい誰でもやるだろうし、そんな気にしなくとも。
「とにかく、この事は内密にお願いします」
「いいよ」
そんな秘密にすることでもないと思うけどな。私が頷くと木野村にガッと肩を掴まれた。
「絶対よ!?」
「わかってるよ」
そう何度も念をおさなくても誰にも言うわけがない。だから手を離してほしい。肩が痛い。
その後はまた木野村オススメの漫画の話を聞いて、帰りに何故か高そうなお菓子を頂いて帰った。




