さんじゅうく 3年バレンタイン
今回、人によっては不快に思う描写、内容があると思います。
学園祭が終われば定期試験のない小学生はとても暇になる。そして代わり映えしない日々を送って、冬休みを過ごした。
そして、早いもので今日は2月14日。バレンタイン・デーだ。女子たちはチョコを渡そうとソワソワ。男子もチョコがもらえるかどうかでソワソワ。
この学校は手作りチョコを渡す女子はあまりおらず、既製品のチョコがこの日には行き交う。しかもブランド物。金持ち怖い。バレンタインにいくら使ってるんだろうか。
「今年は手作りチョコをもってきてる子が多いね」
「え、そうなの?」
朝のHR前、他クラスから戻ってきた美野里ちゃんは困った顔でそう言った。美野里ちゃんは友好関係が広く、いろんな情報を持ってる。すごい。
「皆手作りに目覚めたのかな?」
「手作りチョコでも美味しければいいんじゃない?」
早苗ちゃんが首を傾げ、秋田くんが早苗ちゃんから貰ったチョコを食べながら言う。おい、今食べるな。
「それだけならいいんだけど、ちょっと不穏なことも聞いちゃって」
「不穏?」
「…………チョコに自分の体の一部を入れると恋が実るおまじないとか」
それ、呪いじゃないかな。
「なにそれこわい」
「でしょ? これを聞いたあとに『手作りチョコが増えた』っていうのを考えるとね」
あー……。
私はあげる側の人間なので妙に納得して終わっているがチョコを食べていた秋田くんは青ざめている。
随分凄まじいものが広がってるんだな。知らなかった。私の友好関係そこまで広くないし、バレンタイン・デーにもあまり興味なかったから。男子には兄弟と秋田くんくらいにしかあげないからなぁ。
「秋田くんは手作りチョコもらった?」
「貰ってない!」
「よかったね」
貰ったチョコを一通り見た秋田くんは心底安心したように笑った。うん。やっぱ貰う側からしたらそんなものを混入されたチョコ、こわいよね。
「ところで委員長……その箱なに? チョコ?」
「見たことないブランドだね…?」
「もしかして本命チョコ!?」
「いや、面白いチョコ見つけたから持ってきただけ」
箱を開けて中身を見せると三人は首を傾げた。
「なにこれ?」
「鯛を模したチョコ。結構リアルで面白かったから」
「これチョコなんだ!?」
「すごいよね」
箱の中に入っているのは鯛を模したチョコだ。ちゃんと色までついている。
鯛チョコに三人は興味津々で凄いと言いながらまじまじと見ていた。
「そういえば、さっきのおまじないって皆知ってるの?」
「ううん。一部の女子だけ。それ以外は男子も含めて皆知らないと思う」
「へぇ」
バレンタイン・デーといえど普通の授業日なのでいつも通り先生が来て授業が始まった。
私の頭の中のでは先程聞いたおまじないのことが駆けめぐっている。どこからそんな恐ろしいおまじないが広がったのかが凄く気になる。が、それよりも被害の方を気にすべきだろう。この学年でそんなまじない仕込まれたチョコを貰う男子は大体予想がつく。そして本人たちは知らない。うーん、貰ったチョコに得体の知れないものが入ってるなんてトラウマものだ。可哀想すぎる。どうするか。
悩み続けていたら放課後になったのでこっそりと離れの所へやってきた。
大方、まじないのかけられたチョコをもらうのはあの二人だろうし、関わりたくはないけど、これは酷すぎるのでどうにかするべきだろう。まだあの二人はこちらに来ていないはずだ。少し待とう。離れが目立たない場所にあってよかった。
少し待っていると手提げ袋を持った二人と木野村が離れへやってきた。
「間切?」
「間切さんどうしたの?」
「いや、二人に用があって」
私が待ち伏せていた事に首を傾げる三人に近づき、目線を手提げ袋にやる。その中には大量のチョコがあった。手作りチョコらしきものも見える。
「……手作りチョコどのくらいもらった?」
「今年は結構多かったな」
「そうだね」
「それ、食べないほうがいいと思う」
「? 何故ですの?」
どうやら木野村もおまじないの話は知らないらしい。キョトンと首を傾げていた。
「なんか怪しいおまじないが流行ってるから」
「「「おまじない?」」」
「自分の体の一部をチョコに入れて、それを相手が食べると恋が実る……みたいな」
「はは、そんなわけないじゃないか」
「そんなの信じる人いるのかな?」
「それ、呪いでは?」
うん。私もそう思うよ。でもね、一応ね? なんかあったら怖いじゃん?
「どれか一つ割ってみるか」
「因みに体の一部ってどんなの?」
「えー……髪の毛とか、血とか?」
私も今日知ったことだし。入れたことがないのでよくわからんよ。
私が真面目な顔をしていたからか、二人は手作りらしきチョコを取り出して2つに割った。
「……」
「…………」
赤坂が割ったチョコからは髪の毛らしきもの、辻村が割ったチョコからは爪らしきものが出てきた。見てるだけでも気持ち悪いし怖い。
「……手作りチョコは全部処分しよう」
「そうだね……」
青褪めた二人はチョコを箱にしまった。手が震えている。怖かったんだな。私も怖かった。
「あ! 間切さん!」
「ん? なに木野村さん」
「あの、これ!」
ハッと思い出したように木野村がズイッと差し出したのはキレイなラッピングが施された有名メーカーのロゴ入りの箱だ。受け取ればいいのだろうか。
「チョコですわ!」
「貰っていいの?」
「えぇ!」
「ありがとう。でも、私もうチョコ持ってない……あ、これあげる」
私はお返しに鯛チョコが入った箱を渡した。
「これは?」
「自分用に買っておいたチョコ。人にあげる用のは全部あげちゃったから……ごめんね?」
「いえ。あの、あけてみても?」
「どうぞ」
木野村が箱を開けるのを横目に私は木野村から貰ったチョコを鞄にしまう。絶対高いのでそっと仕舞った。
「鯛?」
「鯛だな」
「鯛だね」
「鯛の形を模したチョコだよ」
三人は箱の中身を興味津々で見ている。それクオリティ高いもんね。君らがそうやってると朝の早苗ちゃんたちを思い出すよ。
「自分用に買ったやつだけど、それでもいい?」
「もちろん! 大切に飾りますわ!」
「腐る前に食べてね」
大事そうに鯛チョコを鞄に仕舞う木野村は見ていてとても微笑ましかった。そんなに鯛チョコが気に入ったのか。
「じゃ、またね」
「間切、ちょっと待って」
言いたいことも言ったので帰ろうと踵を返したら肩を掴まれた。なんでだ。
「今日携帯持ってる?」
「持ってるけど」
「連絡先交換しよう」
なるほど。忘れてた。鞄の中に携帯を入れてきたはずなので鞄を漁る。
「間切さん、私とも」
「僕も」
なんで君らそんなに連絡先交換したがるの?
鞄から携帯を取り出し、画面をつけると文字が映し出された。
『充電してください』
文字が出たあと直ぐに画面は暗くなった。
「……」
三人からの視線が痛い。




