にじゅうろく 2年夏休み 1
体育祭も終わり、平和な学校生活を送り、夏休みが始まった。
今年は去年同様、早苗ちゃんたちと遊ぶ約束もしてあるが、それに加え有村さんとも出かける約束をしている。それに、夏休み中はあの三人とも会わないだろうし、心置きなく好きにできる。去年よりも増えた宿題をさっさと終わらせて遊ぼう。
「…………弟君が転んじゃったのを見ちゃって」
夏休み10日目、私の目の前に辻村弟と彼に手を握ってもらっている泥だらけの圭が私の目の前に立っていた。
「転んだのー!」
「おう………………うん。とりあえず酷い傷はなさそうだし圭は泥流してきて。辻村くん、弟連れてきてくれてありがとう。お礼にお菓子でも食べていって」
「はーい」
「えっと……うん。お邪魔します」
固まってしまった思考をなんとか動かし二人を家に入れる。圭は急ぎ足で風呂に向かっていった。辻村は少し躊躇いながらも家に入ってくれたのでそのままリビングへ促す。
圭が戻ってきたら傷の手当しなきゃなぁ。あぁ、あと辻村にお菓子だそう。兄さんが近くのスーパーに買い出し行ってくれてるしメールしておこう。お菓子追加してもらわねば。
「辻村くん、オレンジジュースと紅茶と緑茶、どれがいい?」
「あ、じゃあ紅茶で」
「ん」
辻村くん用に紅茶を淹れてリビングの椅子に座っている辻村くんに手渡す。冷たいやつで大丈夫だよな?
「ありがとう。間切さんって弟いたんだね」
「可愛いでしょ?」
「うん。凄く可愛い弟君だね」
「兄もだけど、自慢の兄弟なんだよ」
「お姉ちゃーん!」
「はいはい。ごめん辻村くん少し待ってて。あ、そこのお菓子食べてていいよ」
「うん」
泥を流してリビングに来た圭を座らせて傷を見ていく。うん。消毒、絆創膏が必要な傷はないな。傷に砂とかも入ってないし。
「圭、あのお兄ちゃんにちゃんとお礼言っておいで」
「うん!」
私が言えば圭は辻村にお礼を言いに行った。お礼を言われた辻村は少し恥ずかしそうにしている。なんだあれ、可愛いな。
「僕部屋でお勉強してくるね!」
「お兄ちゃんとお話しなくていいの?」
「うん! お姉ちゃんとお兄ちゃんの邪魔しちゃ悪いからお勉強してる!」
「そう。じゃあお兄ちゃんが帰るときに呼ぶね」
「うん!」
元気よく返事をした圭は二階にある自分の部屋へと消えていった。
「仲いいね」
「まあね。辻村くんもお姉さんたちと仲いいでしょう?」
「うん。自慢の姉さんなんだ」
辻村は自信満々に、笑顔でそう言った。あぁ、この、感じは。
「私、まだ辻村くんのお姉さんのことあまり知らないから、お二人について是非教えてほしいな」
私の言葉を聞いた辻村の顔が更に明るくなる。当たっていたようだ。やはり、あの顔は姉を自慢したい、という顔か。うん。わかるよ。大好きな家族については自慢したくなるよね。私も兄弟について自慢したくなる。
辻村の気持ちもわかるので大人しく辻村姉妹についての自慢話を聞くことにした。
「お姉さんたちのこと大好きなんだね」
お姉さん自慢話を粗方聞いた所で率直な感想を述べると辻村は一瞬固まった後、優しく、幸せそうに微笑んだ。
「すっごく」
その言葉は静かに、でもハッキリと私の鼓膜を揺さぶった。本当に大好きなんだね。
自分の放った言葉に恥ずかしくなったらしい辻村が顔を隠し始めたあたりで兄が帰宅した。それで我にかえったのか、辻村が帰宅を申し出たので圭を呼んで、もう一度礼を言い、兄が買ってきたお菓子を数種類持たせて彼を見送る。
因みに、兄は辻村が何を好きかわからなかったらしく、お菓子を7種類ほど買ってきていた。こんなに買ってどうするんだろうか。とりあえず暫くはお菓子に困りそうにない。




