四十一話 一年夏休み21
「夏休み最終日!!」
「いえ〜」
秋田くんの声にあわせてタンバリンを叩く。夏休み最終日、私達はカラオケにやってきていた。
「とうとう突入したゲーム本編。1年の半分終わったよ波留さん!!」
「終わったね」
「進捗どうですか!」
「進捗ダメです」
「辻村くんとは……」
「赤坂くんに君が赤坂くんと学校でも遊びたがってたって言っておくね」
「目立つからやめて!?」
秋田くんは今日も元気そうだ。
「というかそんなことしたらたぶん自動的に波留さんも巻き込まれるよ」
「……」
安易に想像できる。無邪気な、そして眩しい笑顔を浮かべた赤坂がとても楽しそうに私を呼んでいる姿が。
「にしても早かったね〜」
「そうだね」
「早かったけど…………特段ゲーム内であったみたいな出来事はなくて安心してる。比較的平和でよかった、本当に…!!」
確かに事件らしい事件はほぼなく………………まぁロッカーのアレはあったがそれ以外は平和そのものだったはず。たぶん。
「これからもこのままいきたい!!!」
手に持ったタンバリンをシャンシャン鳴らす秋田くんに合わせるように自分もマラカスを振る。本当にそう。
「てかさ、思ったんだよ」
「ん?」
「ゲームの事件って大体木野村さんが関わってくるじゃん」
「うん」
よくある悪役というか、ライバルというか。まぁ、主人公と対立はしていた。もう殆ど思い出せないけど。
「今の木野村さんって大人しくて誰かとバチバチすることないじゃん」
「そうだね」
「ならゲームみたいなこと起こらないんじゃない!?」
…………。
「波留さん、なんでそんななんとも言えない雰囲気醸し出してるの」
「何もないと良いね」
「やめてよ! 夢くらい見させてよ!」
「歴史の修正力とかいう言葉もあるしね……」
「……木野村さんの性格が突然変わるとか……?」
タンバリンを手に持ったまま真面目な顔をして、秋田くんはジュースを飲む。私は頼んであったポテトを食べた。美味しい。
「あとは木野村さんの代わりが投入されるとかかな」
もしくはいきなりの性格改変は恐らくないので、何かがきっかけで木野村が暴走するとかだろうか。
「まっさか〜。流石にそれは……ないよね……?」
「ないって信じたいね」
「……ないとも言い切れないのが悲しい……」
「いやでも、うん。たぶんないよ。きっと」
「そうだよね! ないよね!!」
ははは、と二人で笑うが一度芽ばえた不安は消えない。
──あと二年半、何事もないことを願うばかりである。




