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脇役らしく平和に暮らしたい  作者: 櫻井 羊
高校生編
230/232

エイプリルフール Another2

エイプリルフール2022

エイプリルフールに投稿する予定だったものパート2です。本編とはなんの関係もありません。

 告白をされた。


 クラスの違う、同級生の子だった。頬を赤く染めて、震える手を握りしめていた。その様子から本気なんだと悟って、一瞬、迷ってしまった。そしてその女子に「付き合っていくうちに知っていって欲しい」と言われ、その告白を受け入れようかとも思った。


 断ったけれど。


 告白されたことへ一瞬でも浮かれた俺を現実に引き戻すかのように脳裏に過ぎったのは夢で見た血に染まった自分の手と無残な死体。


 その男は恋をしていた。いっそ可哀想になるほど盲目的で、周りの見えていなかった男。それが自分の前世だとわかってしまった時の絶望感を今も覚えている。


 今世の「秋田湊」と前世の男は似ても似つかない。全く別の生き方、性格をした人物である。前世を思い出さず、幸せな家庭のもとで不自由なく暮らしてきた秋田湊としての十数年は前世を思い出した程度じゃ揺るぎはしない。


 しかし、その男が自身の前世であることも、きっと事実だ。証明する手立てはなくとも感覚でわかってしまう。


 前世というものがあるのなら、それはきっと魂と言うものがあるからなんだろう。ということはあの男と秋田湊は根っこの部分──魂は同じということになる。


 気持ち悪くて吐きそうだ。


 あんな男と同じじゃないと信じたいのに、魂が同じである事実に目の前が暗くなる。


 魂が同じなら、秋田湊がこれから先、あの男と同じことをしでかさない保証はない。


 あの男は恋に狂っていた。恋が絡まなければまだ、まともな部類だったはずだ。しかし恋をしたことで狂った。


 じゃあ、秋田湊は?


 秋田湊はまだ恋をしたことがない。だからまだまともなのかもしれない。もしあの女子の告白を受けて、そこからその子に惚れてしまって、あの男みたいになってしまったら──。


 そう考えてしまって、断った。どうやら告白を断ったときの自分は相当顔色が悪かったらしくその女子に心配されるほどだった。力の抜けそうな足をなんとか動かして、教室に置いてあった鞄を取って下駄箱で靴を履き替えれば、出入り口のところにいた波留さんと目があった。波留さんは感情の読み取れない瞳をこちらに向けて静かに口を開く。


「──今日、親も兄弟も夜までいないよ」


 その言葉の言わんとすることを理解した俺は、首を縦に振って、喋ることなく歩き出した波留さんの後ろをついていった。





 そして波留さんの部屋で懺悔するように先の出来事を語って、今に至る。


「──あの男と同じにだけは、なりたくない」


 俺が呟いた言葉に波留さんは何も返さない。というか、話している間も一言たりとも言葉を発さなかった。俺が俯いて話しているから表情は読み取れない。


 前世を知るまでは、自分はきっとドラマ性の欠片もない平々凡々な恋をして、結婚をして、家庭を築いていくものだと思っていた。そうであれば良いと願っていた。


 けれど、前世を知ってしまえばそれは叶わない。


 前世のように恋に狂って同じ過ちを犯す可能性があるのなら、恋なんてしたくない。なんとなくわかってはいたが、今回のことでその思いが明確に表れた。


「あんな男と同じになったら、耐えられない」


 想像するだけで死にたくなる。


 そこまで口にしたところで、波留さんが動いた。俺よりも小さい手が俺の頭を撫でる。思わず顔を上げれば相変わらず無表情な波留さんがこちらを見ていた。頭を撫でていた手が輪郭をなぞる様に降りていき、首に手がかかる。


「じゃあ私が殺すよ」


 波留さんがそう言って笑う。以前見た歪な笑顔で。


「君があの男と同じになったら、私が殺す」


 それは──。


「あの男と同じになったら耐えられないんだろう。なら、私が殺すよ。君があの男と同じになった瞬間、私は君をあの男と同じと見なして殺す」


 波留さんの目は濁っていて何も読み取れない。


「間切波留の友人である秋田湊は大切だけど、私を殺した男は憎むべき対象だからね」


 もう片方の手も俺の首にかかる。少し苦しい。


 俺があの男みたいになったら、波留さんが殺してくれるらしい。


 ──なんて魅力的な提案なのか。


「片鱗が見えた瞬間に殺す。君があの男みたいに誰かに手をかける前に」


 秋田湊を人殺しにはさせない、と波留さんは小さくつぶやいた。


「勿論君がそれを望むのなら、だけど。君が望むなら私は友人か知人か……どんな関係になるかは知らないけどずっと君の近くにいて君を見張ることになる。それでも良いなら」

「……波留さんはそれでいいの」


 いくら本人が望んでいてもそれは殺人で、許されない行為だ。そして、ずっと俺の隣にいるということは、俺を、あの男をずっと忘れずに生きていくということ。きっと苦しいだろう。忘れてしまいたいはずの記憶だろう。


 俺が問い掛けると波留さんは無表情のまま、口を開く。


「いいよ」


 どうせ忘れられない。


「波留さん」

「もしその時が来たら──君を殺して私も死ぬ」


 無理心中だ。

 だから、私を殺したくないならあんなふうになってくれるなよ、と波留さんは言う。首にかけられた手に力が入って少しだけ息苦しさを覚えた。

たぶんこの世界の二人はくっつく。

間切波留:前世の自分を殺した男をずっと憎んだまま、秋田と一緒にいる。間切波留の友達は殺さないが、あの男は殺す。そして友人を殺したあとも生きられるほど図太くはないのでもしそうなったら後を追う。

秋田湊:前世のせいでマトモに恋もできなくなった男。自分がその男と同じになったら殺してくれるという間切に安堵を覚えた。嬉しい。

 二人はくっつくだろうけどそれは恋というより共依存。間切波留がそばにいる限り間切が抑制力になるし秋田はあの男と同じにはならないと思われるので、恐らくなんだかんだ仲良く暮らして、大往生する。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 久々の更新でうれしいのはうれしいですが…… ウソとわかってても、重たい話ですね。 [一言] 本編の更新を楽しみに待ってます。
[一言] ダークでヘビーですな。 でも、読めて良かったお話の一つです。
[良い点]  久々に更新された!  ありがとうございます!  どっちの話しも好きな展開ですねえ。  オープンな一つ目と閉じている、閉塞感ばかりの二つ目。  どっちも良い! [一言]  また更新されるの…
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