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脇役らしく平和に暮らしたい  作者: 櫻井 羊
小学生編
23/232

にじゅうに






「というわけで海です」


「うん。海だね」


 弱った有村さんを見つけた日から数日、学校がない土曜日に私と有村さんは電車に乗って海に来ていた。本当はその日に出かけたかったけど、門限あるし、親に心配かけられないからね。



「れっつ逃避行」

 嫌な現実から逃げよう。

「間切ちゃんて結構無茶するね。間切くんからメールで『妹のお守り頑張ってください』ってきたし。結構お転婆?」

 兄は私に対して失礼じゃないか? ていうか二人はメル友なのか?

「……そんなことないです」

「それで今日はどこ行くの? 海で泳ぐには寒すぎるよね?」

「何も考えてません。適当に散策します」

「?!」

「行きあたりばったりでいきましょ」


 ちなみにこれは前世で私がやってた息抜きだ。疲れたときに一人でテキトーにほっつき歩いてた。私は良い気分転換になって好きだったな。私もこのあたりは来たことないし、ちょうどよいので散策しよう。保護者いないとまだ遠出できないし。


「ちなみに兄からこの辺について書かれた雑誌をもらってます」

「え!?」


 あの日、帰りは遅かったので有村さんが家まで送ってくれたのだが、玄関で私達を出迎えた兄は敏いことに有村さんが弱ってるのをすぐ見抜いたらしい。今日出かけることも兄が親に掛け合ってくれたから叶ったのだ。兄凄い。そして兄の精神年齢が気になる。絶対に小学生の精神年齢じゃない。


「プラネタリウムあるらしいですよ」

「へぇ〜。間切ちゃん星好きなの?」

「冬の大三角形くらいしか知りません」

「十分じゃない?」


 取り敢えず最初の行き先は決まったので歩いてプラネタリウムに向かうことになった。



 有村さんは星は結構好きらしい。たまに家から眺めているんだと。あと望遠鏡も持っていると言っていたし、星にも詳しかった。

 プラネタリウムは後半寝た。



「次はどこ行きますかね」

「……」

「有村さん?」


 次の目的地を決めようと話しかけても有村さんからの返事が来ないので上を向けば有村さんは明後日の方向を向いていた。そちらには大きな観覧車がある。


「…………私、遊園地って行ったことないんですよね」

 今世では。

「俺も行ったことないなー。どんなとこだろ」

「じゃあ行きましょ」

「ぅえ!?」

「初めての遊園地楽しみですね」

 表情筋をフル活用して笑顔を作りながら言えば有村さんは小さく「そうだね」と返してくれた。

 ところで有村さんは今高1の筈なんだが、遊園地に行ったことがないとはどういうことだろうか。私の認識だと遊園地は家族で行ったりするし、中学生にもなれば友達と行ったりするものだ。この世界では違うのか? というか金持ちの常識が違うのかもしれないのか。

 私の些細な疑問はさておき、遊園地へ向かうとしよう。





「有村さん大丈夫ですか?」

「生きてる……」


 遊園地に来てジェットコースターに乗れば、なんと有村さんはジェットコースターが駄目な人だった。今はベンチで座って休んでいるところだ。因みに私はピンピンしている。むしろ楽しかったのでもう一度乗りたい。

「ジェットコースターは人が乗るものじゃない……!」

「人が乗るものですよ。ちょっと飲み物買ってきますね。待っててください」

「一人じゃ危ないよ!」

「平気ですよ」

 ついてこようとする有村さんをなんとか宥めて座らせてた。あんなフラフラな状態で付いてこられても困る。早く飲み物を買って戻ろう。どこに売っているだろうか。ポカリとかがいいな。






 さて、ポカリは無かったので無難なお茶を買って来て、有村さんの元へ戻ってきたわけなのだが……。


「お兄さん一緒に回ろうよ」

「連れがいるので」

「えーっ」



 有村さんが女に絡まれてる。これは所謂逆ナンと言うものか。初めて見たな。というか有村さんが笑顔を貼り付けている。あんな感じの顔見たことある。兄が外で猫かぶってるときの顔だ。学校で会う有村さんはいつもテンション高くて、小さくて可愛いものが好きで満面の笑みを浮かべて私達を出迎えるから、あんなの見たことなかった。それにしても逆ナンされてる現場は本当に初めて見た。もう少し観察していたい。が、買ってきたお茶があったかいものなので冷めると困る。行こう。


「あり……………………お兄ちゃん、体調大丈夫?」

「ま…波留、大丈夫だよ、ありがとう。さ、行こうか。では失礼します」


 有村さんが外行きの笑顔で女性に挨拶して去っていく。勿論私の手を握った状態で。


「間切ちゃん助かったよ、ありがとう」

「いえ。あ、お茶どうぞ」

「温かいやつだ。あ、そうだ間切ちゃん」

「はい?」

 温かいお茶を渡せば有村さんは安堵したようにため息を溢した。そして何か思い出したように私を見やる。




「もう一度『お兄ちゃん』って呼んでみてくれないかな!」




 心底楽しそうな笑顔でそう言う有村さんはとても元気そうでした。元気になったようで何よりです。




 何度かお兄ちゃん呼びした後、最後に私達は観覧車に乗った。実は前世でも観覧車に乗ったことはなかったので私は内心大はしゃぎである。すごく高い。


「おぉー!」

「夕日綺麗!」


 二人して子供のようにはしゃぎながら外を見る。ちょうど日が沈み始めていた。綺麗。写真撮ろう。





「楽しかったです」

「俺もー。観覧車からの景色って凄くいいんだね」

「そうですね」


 観覧車から降りて、もう遅いので二人して帰路につく。帰りは有村さんが家まで送ってくれるらしい。


 家につくと兄がまた外で待っていた。兄外好きね。



「間切くんこんばんは!」

「挨拶と同時に持ち上げないでください! こんばんは!」


 すぐさま兄を笑顔で持ち上げる有村さんはいつもと変わらないテンションだ。よかった。そして取り乱す兄は見てみて楽しい。


「二人とも今日はありがとね!」

「俺は何もしてません」

「私も、あそこは私が行きたかったところなので、自分のためでもあるんですよ」

「そっか。でも俺は楽しかったから、ありがとう」


 兄を地面におろし私と兄の頭を撫でる有村さんは優しげに笑ってた。






 その日の夜、母から有村さんに婚約者ができたことをきいた。





 婚約者って…………金持ち凄いなぁ。


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