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脇役らしく平和に暮らしたい  作者: 櫻井 羊
高校生編
229/232

エイプリルフール 夢の話

エイプリルフール2022。

エイプリルフールに投稿する予定だったものです。本編にはなんの関係もありません。

 よく授業で使われている大学の小教室。窓が空いていてまだ少し冷たい風の入るその部屋の一つの席に彼女が座っている。窓から見える青い空を眺める彼女の顔は見えない。私が近づくと彼女はこちらを向いた。無言で私が近づいたからか、彼女は私を見て少し驚いた顔をしてから、ふんわりと、私が好きだった笑みを浮かべてくれた。


「おはよう」


 懐かしい、声がした。


 ──あぁ、これは、夢だ。


 だって彼女はもういない。私の元カレが、私が原因で彼女はこの世を去ったのだから。


 夢だ。夢だとわかっている。わかっているけれどそこに彼女はいて、私に笑いかけてくれて。


「……ごめんなさい」


 私は耐えきれず泣いていた。か細い声が部屋に響く。涙で滲んだ視界に映る彼女は目を見開いておろおろしていた。


「私のせいで、刺されてしまって、死んでしまって、怖い思いもさせてしまって、ごめんなさい。もっと生きられたはずだったのに。もうすぐ誕生日だったのに。貴方は何も悪くないのに、私が、私のせいで」


 ずっと言いたかったことが流れるように口から零れていく。整理せず話しているからきっと支離滅裂だ。それでも彼女は私の言葉に耳を傾けて、涙を拭こうともしない私の目元を代わりにハンカチで拭ってくれる。


「私なんかと仲良くしたせいで、あんなことになってしまって、ごめんなさい。私と仲良くしなければあんな事にはならなかったのに、私が貴方に声をかけてしまったから」

「……」

「こんなことになるなら、仲良くなんてならなければ」

「それは寂しいなぁ」


 私の言葉をただ無言で聞いていた彼女が落ち着いた声色で私の言葉を遮る。驚いて彼女へ視線を向けると、彼女は悲しそうな顔をしていた。


「私は君と友達になったことを後悔してないよ」

「でも」

「確かに君と仲良くしてたから〜ってあの男に目をつけられたけど、悪いのはあの男であって君じゃない」


 それは、そうだけれど。


「人付き合いが得意じゃない私に君は声をかけてくれて、仲良くしてくれた。いろんなことを教えてくれて、連れて行ってくれて、私は楽しかったよ」

「私も楽しかったよ」

「それは嬉しい。……君は優しいからきっと私が死んだあと悲しんでくれて、悔やんでくれて、一人で苦しい気持ちも抱えてるんだと思うし、私はそれを否定しない。私の死について君がどう思うかは君の自由だからね。でもね、私は自分が死んだことについて君を恨んだことはないよ」


 あの男は同じことをやり返したいくらい憎いけどね。彼女はそう言って優しく微笑んだ。


「こんな私と仲良くしてくれてありがとう。私の死を悲しんでくれてありがとう。……私は君の笑った顔が好きだったから、時間はかかっても良いからまた笑ってほしいなぁ」


 生前でも聞くことはなかったくらい殊更優しくい彼女の声が響く。


「死んでしまった私より、君の方が心配だよ。あの男は君に会いに行かなかった?」

「来た、けど、今は塀の向こう側にいるの」

「えっ」


 大きくはないけど驚いた声。顔にも驚きが出ている。彼女は存外顔に出やすい子だったから。私はそんな変わらない彼女に思わず笑ってしまって、事の顛末を話した。彼女の表情は驚きや心配と忙しなく変わっていく。


「──で、実刑判決」

「ザマァ」

「悪い顔してる」

「仕方ないよね。にしてもすごいね。怖かっただろうに、よく動けたね」

「頑張ったから」


 あの男だけは許してはいけないと思ったから。


「あの男が人を殺してでもヨリを戻したかった人から完全に捨てられた時の心情を考えると──すっっっっっごくスッキリする」

「溜めたね」

「最高。法に触れずに下せる制裁の中でもナカナカにキツイよね、アイツにとっては。絶望したんだろうな。……いいな。そのまま獄中で心折れちまえ」


 彼女はたまに口が悪くなる。まぁ今回は仕方ない。


「でも大丈夫? アイツ、シャバに出たあと君へ報復とか……」

「シャバって……。引っ越しはしたし、出てくる頃にはもう大学も卒業してるから早々見つけられることはないはずだから大丈夫」

「なら良かった」


 私の言葉に彼女はホッとした表情を浮かべる。優しい人だ。彼女は改めて私と目を合わせて、口を開く。


「ありがとう」

「え?」

「私と友達になってくれて。君が友達で良かった」




「──私はもう死んでいるから君の隣で君を慰めることも、激励することもできないけれど、いつの日かまた君が笑って過ごせるようになることを願ってるよ」





 そう言って笑った彼女の表情は晴れやかなものだった。










 ──夢とは記憶の整理である。


 だからこれは本当に彼女と話したわけではないんだろうけど、翌朝の私の表情も少し明るくなっていた。





















「……なんか懐かしいのを見た気がする」


 夢の内容はもう殆ど思い出せないけれど。教室から見える空がきれいだったことしかしっかりと覚えていない。



 あぁ、でも。顔も声も思い出せないあの子は元気にしているだろうか。

前世の友人:少しだけ持ち直した。きっとこれから徐々に前を向けるようになるし、笑うことが増えていく。

間切波留:実は前世だとわりと表情豊かだった。友人の幸せを願っている。



凄く久しぶりの更新です。気が付いたらエイプリルフール過ぎてました。本編もそのうちまた更新し始めると思います。

あと、いつもコメントありがとうございます。毎回楽しく拝見させていただいています。しかし時間の余裕などがないので暫くの間はコメントへの返信を控えると思います、すみません。

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新ありがとです。 >どうか、彼女だけは私を恨み、責め立てていてほしい。 大丈夫、友人ちゃんは許されていいんだよ。 てか、波瑠さんの性格なら刺された後でも笑って(ん?無表情?)友人ちゃん…
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