三十九話 一年夏休み19
辻村くん先導のもと開けた場所に辿り着くとそこには既に結構な人が集まっていた。座るのではなく立って見るらしい。
「ここならよく見えるらしいよ」
「人多いですね」
「花火は空に上がるから上見てりゃ見えるよ」
「波留さん雑」
いやでもそういうものだし。
まだ少し花火までは時間があるようなので綿あめやら焼きそばやら、各々買ってあったものを食べる。綿あめうまい。
「なぁ間切」
「ん?」
口の中で溶ける綿あめを堪能していた私にりんご飴の食べ方がわからなくて袋に入れたままりんご飴を観察していた赤坂が声をかけてきた。
「この間少女漫画読んだんだよ。木野村に借りて」
「へぇ」
面白かった? と聞けば「興味深かった」と返ってきた。
「その漫画で今みたいに花火見てるシーンがあって」
「うん」
「その花火を見て男が主人公に『花火より君の方がキレイだよ』って言ってたんだ」
そんなセリフでてくる漫画あるのか。読んだことないな。少女漫画ならそのくらい言うか。
私が納得していると赤坂は神妙な顔つきで口を開く。
「花火と主人公って比べようがないと思うんだよ」
「……」
「炎色反応と人だぞ? 片方ずつを綺麗だって思ってもそれを比べることはできなくないか?」
土台が違うだろ? と赤坂は言う。いやまぁそうなのだが。
私がかける言葉を見つけられず黙っていると赤坂は一人で何かを納得したのか「そうか」と呟く。
「主人公も発光してたのか!」
「主人公を人外にするんじゃない」
花火に負けず発光する主人公なんて嫌だ。
「それはアレだ……要するに『自分の中では君が一番美しく見えてます』って伝えたいだけなんだと思う。褒めてるだけ。深く考えちゃいけない」
「褒める……」
「褒める」
「なるほど……間切」
「なに?」
「間切はオオミズアオより綺麗だと思う」
オオミズアオは蛾の一種である。
「こういうことだよな!」
赤坂はとても良い笑顔を向けてきている。なんて無邪気。それにしてもそうか、蛾か……。
「蛾を比較対象、比喩に使うのはやめたほうが良いと思う」
「えっ、オオミズアオ綺麗だぞ?」
「蝶ならまだしも、蛾は一般的にはあまり良い印象を持たれてないから。特に女子からは。使うなら花とかにしたら良いんじゃないかな」
「難しいな……」
そんな無理して褒めるものでもないだろうと一応声をかけておく。無理して比較、比喩しなくても一言直球に褒めれば大体の人は喜ぶだろう。赤坂はイケメンだし。
「波留さんたち、そろそろ花火上がるって」
「もうそんな時間か」
「楽しみですね!」
「どんなんなんだろう、楽しみだね」
「な! 間切! 写真綺麗に撮れたら見せてくれ!」
「良いよ」
うまく撮れる自信はないが。




