三十四話 一年夏休み14
『花火大会行きたい』
「何故それを私に言うのか」
珍しく赤坂から電話があったと思ったらこれである。そんなこと言われても。
「行けばいいと思う。人混みすごいから気をつけてね」
『うん、マサと木野村と行くことにしたんだ』
「そっか」
相変わらず仲が良いようで何より。
『間切も行かないか?』
「遠慮します」
『遠慮するなよ。間切先輩からその日は間切暇だって聞いてるし』
私のプライバシーがダダ漏れである。プライバシーのプの字もない。兄よ、妹のプライバシーは守ってくれ。頼むから。
『そんなに俺達と歩きたくない?』
「目立つ」
『人混みだし、学校の奴はそんな人混みのとここないと思う』
「……」
『間切』
「ん?」
『世間知らずの俺達だけで夏祭りに行って無事に帰ってこられると思うか?』
無理だと思う。
学校帰り、流れるように誘拐されたり校外学習で迷子になったりする三人である。夏祭りでひとごみに揉まれたら三人バラバラになる未来が目に浮かぶ。私も人のこと言えないけど。
『俺は何か問題を起こす自信があるぞ』
「そんな自信ドブに投げ捨てちまえ」
もっと別のとこに自信を持ってほしい。
というか、彼らは確かに世間一般の普通とはズレたところはあるが、割と大人しい部類の筈だ。自ら進んでなにかを起こすような人間ではない。……はず。むしろ、だからこそ問題なのだろう。進んで問題を起こすようなやつであれば「大人しくしろ」で済むが彼らは大人しくしているのに問題が起こるのだ。大変だな。
『……来てくれないのか?』
「………………………………いく」
彼らに何かあったら私の精神にくる。あとそんな弱々しい声で尋ねて来ないでほしい。そういうのに弱い。
「……というわけでお祭り行くことになったんだけど」
『ははっ、奇遇だね波留さん! 俺にも電話きて祭り行くことになったよ!』
「そんな気はしてた」
私に声をかけたら秋田くんにも声かけるよね。そりゃそうだ。赤坂は秋田くん推し。
『気持ち的には死地へ赴く人間』
「物騒」
『顔面偏差値70超えの三人と一緒にお祭りとか平々凡々の俺には無理ゲーじゃない?』
「まぁ、それはそうだね」
私にもきつい。
美男美女な彼らの隣を歩くなど、モブの中のモブである私達には荷が重い。チェンジ可能ならチェンジしたい。
『死なばもろとも。頑張ろうね波留さん!』
「そうだね。……あ、ところで秋田くんちょっと私の下の名前を呼んでくれない?」
『いきなりどうしたの!? え、闇落ちギリギリ? 波留さん前世と今の区別つかなくなってる?』
「そういや君、私のことはずっと名前で呼んでたな。闇落ちはしてない」
秋田くんは私を波留さんと呼んでいたのを忘れていた。特にトキメキもしなかったな。
『なら良いけど……いきなりどうしたの』
「実はこの間なんやかんやあって辻村くんと下の名前で呼びあったんだけど特に何も感じなかったから、他の人でも同じかなって」
『辻村×間切ルート?』
「やめろ」
『応援するよ』
「しなくていい」
そんなルートには入らない。絶対に。
『じゃあ俺のこと名前で呼んでみてよ波留さん』
「湊」
『………………何も感じなかった。え、普通このお年頃ならトキメキを感じるはずじゃない? なんで?』
「精神年齢三十路超えだからじゃない?」
『まだピチピチの十代だし!! JKだよ!』
「そうか君は女子高生だったのか……これからは秋田ちゃんと呼んであげよう」
『DKだった!!!』
「湊ちゃんでも良いな」
『秋田くんでお願いします!!』
「そういえば木野村のことを夏鈴ちゃんと呼ぶことになったよ」
『波留さんどんどんモブから離れていってるね』
放っておいてほしい。いや、助けて。私はモブのままでいたい。




